始まる騎士団生活?

 王女直属騎士団。

 それは名誉ある騎士の最高峰とされる組織。

 もっとも、聖女の騎士団も最高峰とはされるが……ここでは割愛させてもらおう。


 とにかく、未だに頭が困惑してならないが……リューライトはその団になぜか加入する流れとなった。


(いや、ホントなんでだよ……)


 授業中で才能を見込まれたとのことらしいが、それはない。断じてないはずだ。


 何せ儀式でリューライトは才能なし、との判定を受けている。


 主人公であるルクスは【剣子】の才能で、剣の子供と周囲からは馬鹿にされているが、これは後に【眠れる剣の獅子】から【剣子】と名付けられたことが後に判明するのだ。


 現時点でルクスには力がないが、彼は後に大きな才能を開花させるため……ルクスが騎士団入りするのは分かる。


(もっとも、俺に関しては謎でしかないぞ)


 大変恐縮な話で、ランゼドー学園に所属する剣技の講義を取っている生徒は皆がこの団を希望する。

 ……誇り高き王女直属の騎士団に。

 あるいは、王女と同等の権威を持つ聖女直属の騎士団に。


 だが、リューライトは正直言って気が気でないのが実情であった。


「リューライト様。お仲間さん達が聖女様のところに行かれましたが、きっと大丈夫です」

「……別に、あいつらのことは心配するまでもない」


 むしろ気にしていない。

 そんなニュアンスを込めてルクスに伝える。


 正直な話、ヒロイン達から好意を向けられていることが分かっているなか別の騎士団に入ることになったということだけでも、有難かった。


 サレナもシューラも自分のことを好きでいていくれるのは嬉しいが、甘やかしてくるのは勘弁してほしいところ。


 一通りのヒロイン達の問題が解決したとしても、ここはファンタジーの世界。


 エンディングが存在しないため、次に何かしらの問題が起きたときに対応できる様に痩せて鍛錬を積んでいくことは確定事項である。


 だからこそ、甘やかしてくるヒロイン達から距離をとってもらおうと悪役ムーブをかますことにしたリューライトだったが……。


(自分で始めたことだけど、この悪役を演出するの辛い……)

 と、もはや嘆いてしまっていた。

 素直になれれば、楽なものだが……今はまだ素直になれそうもない。


(大体、ルクスの言い回しがこう……悪役が喜びそうなこと毎回、言ってくるのがいけないんだって……)


 先ほど、ルクスと交わしたやり取りをリューライトは思い返す。


『俺はそもそも縛られる生活はごめんだからな……こんな騎士団は抜け―――』

『リューライト様は、まず騎士団から支配していかれますもんね』

『……っ、当然だ。それが俺の通る道だからな』

『さすがです……自分も頑張ります』


 そう、尊敬の眼差しをルクスからは向けられたのだ。

 俺の通る道、とか馬鹿げた発言をしたせいか王女騎士団に入る流れに。


(いや……ほんと、だれか俺の減らず口を壊してくれ……)


 と、自分の愚かさを呪いながらリューライトはルクスと共に庭園にまで移動する。

 どうにも騎士団の皆に紹介する流れとするらしい。

 あくまでお試し期間での採用となったリューライトとルクス。

 稽古中の騎士団の様子を伺えば。


「……噂で耳にはしてましたけど、女性の比率が高いですね」

「そうなんだよなぁ……」


 原作がエロゲということあってか、なぜか騎士団の女性比率は異常に高い。

 突っ込むのは野暮なんだろうが、男性もなぜかイケメンしかいない。なぜか。

 そして、こちらに突っ込むのも野暮だろうがこの騎士団の女性は皆、美少女だ。


「これは伝えたら、ルクス……幼馴染には怒られそうだな」

「そうですね……でも、彼女も騎士団にスカウトされるよう頑張ると言ってました」

「そうか」


 ルクスにはすでに付き合っている幼馴染がいる。

 そのため、一応忠告はしておいたのだがすでに手は打っていたようだ。

 さて、そんな美男美女(特に美女が多い)そんな中で、リューライトたちは稽古場である庭園の中央まで歩くと―――。


「……みんな、稽古をやめてくれ。仮採用というかたちだが、新人を紹介したい」


 団長であるモニカが声をかけ、皆に呼びかけた。

 すると、騎士団の者たちは、構えを解きこの場の注目が一斉にリューライトとルクスに注がれる。

 そして、その流れで自己紹介をすることに。


「僕はルクスと申します。誇り高い騎士団に恥じない様に頑張ります! よろしくお願いします」


 ルクスに関心を持つ、期待を持った視線を向ける者は多かった。


(あいつ、中々良い目をしている……)

(可愛い顔してるし、私好みっ!)

(ふふっ、第一印象は良いわね)


 そんなヒソヒソと噂話をする者が確認された。

 だが、リューライトはどうだろう。

 自己紹介の流れとなった途端のこと。

 急激に冷えた視線を向けられたのをリューライトは感じ取った。


 無理もない。

 マシにはなったとはいえ、太っちょ。

 そして、細い相貌。悪人面。


(う〜ん、ルクスとは大違いだな。これは……)


 明らかに歓迎はされていなかった。

 リューライトは嫌な汗をかきながらも、ふぅと内心でため息をついて、心を落ち着かせた。


♦︎♢♦︎


 一方、その頃———ランゼドー学園では大事だと騒ぎが起きていた。


「おいおい、聞いたかよ! リューライトとルクスのやつが王女直属の騎士団に入ったって……」

「聞いたよ! 学園でも、その話題もちきりになってるよね」

「それがさ、聖女様の騎士団のほうにも、生徒が何名か配属されることになったらしいぞ!」

「たしか、全員……リューライトの仲間たちだ」

「一体全体、何が起きてるんだ? そういえば最近、リューライトのやつ、問題を学園でも起こさなくなったような……」

「心なしか痩せてたような……?」


 そこで生徒たちは顔を見合わせる。

 リューライトに何があったのか、と。

 そして彼は何者なのか、と。


 ――――その日、学園中がリューライトの名に震撼した。

 だが、それがきっかけの一つとしてリューライトは波乱の騎士団生活を送ることになってしまうのだった。


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る