サレナ視点

 サレナ・シェイド。

 リューライトの実の妹で青と赤のオッドアイが特徴的な美少女であり、原作のゲームでも人気を博していたメインヒロインの一人だ。


 サレナは昔から、ずっと努力家だった兄に憧れを抱いていたが……リューライトが才能に恵まれなかった事実を知ると、急に人格が入れ替わったかの様に傲慢な兄貴に成り下がってしまったため、失望せざるを得なかった。


 この世界では—――十五歳で神様からの儀式が行われる。


 それは、何かしらの才能を神のお告げとして与えられるというもの。

 だが、リューライトに与えられた才能は‘無し‘との判定を下されてしまった。

 もっとも、リューライトの身の回りの者はサレナを含め、才能を開花させた者が多かったのだが……。


 でも、だからだろう。

 リューライトが腐ってしまったのは。

 使用人のミリヤだけではない。自分もモニカお姉ちゃん……いや、今はモニカ騎士団長も才能を与えられたのだから………。


 優しかったお兄ちゃんはもう帰ってこない。

 最初こそ、サレナ―――私は神様を恨んだけど、でも傲慢な態度を取り続けたお兄ちゃんをこの眼で見続けていると、自然と私の心は冷えていった。


 多分、私以外もきっとそう。

 時間が経つにつれて、お兄ちゃんのことを嫌悪の眼差しで見ることが普通になってしまった。

 もう前の優しいお兄ちゃんは帰ってこない……クソ兄貴になってしまったし。

 と、そんな風に思いながら暫く経ったころ。

 ある日の朝、兄貴は穏やかな雰囲気で食卓に姿を現し、改心すると言い出した。

 最初こそ……私は嘘だろう、と思ってたし内心では改心するなんて言い出した兄貴をバカにしてた。

 でも、時間が経っていくにつれて—――それは本当なんだと私は知ることになった。


 どこまでも優しくて、あたたかくて。

 そんなお兄ちゃんが帰ってきたんだって。


 そう確信を持てたのは、何ていったって私を助けてくれた時のこと。


 私はある日から、赤い方の左眼が疼きだして……何かを壊したい衝動が大きくなってしまった。原因は良く分からなかった。

 ただ、自分が自分でなくなっているのだけは……分かっていた。


 夜、皆が寝る頃にその衝動が起きることは多かったと思う。

 森にひっそりと一人でて、獣を狩る。それだけでは飽き足らず木々も破壊。


 一体どうしてこうなったのか自分でも分からない。

 けど、誰にも……眼のことや、この破壊衝動を話すことはできなかった。


 だって、怖がられるだろうから。

 独りぼっちになってしまうだろうから……。


 そんなとき―――夜に破壊衝動に駆られていた私のもとに、お兄ちゃんはやってきた。


「破壊の魔眼……やっぱり、開眼してたか」


……破壊? 魔眼? 正直に言って何を言っているのかさっぱりだった。

 ただ、言葉の意味を推し測るよりも先に身体が動いていた。

 兄貴を仕留めようとして。


「……くそっ! ミリヤ、頼む。抑えてくれっ」

「はっ!」


 高速で私のもとへと駆けてきたミリヤは瞬時に私を取り押さえた。

 破壊したくて、疼きが止まらない……!

 どうして兄貴は私の場所が分かったのか……。こんな姿は誰にも見られたくないのに……。

 今や私はただの獣だ。歯をむき出しにして理性がなくなりつつある。

 そんな私のもとに、兄貴は優しい笑みで話かけてくる。


「ずっと辛かったんだよな……誰かに見て欲しいって、認められたいって思ってさ」

「……っ」

「その衝動も、本当はずっと前からあったんだろ? それを抑え込み続けて今、爆発してしまった」

「………え」


 思わず目を見開く。

 その話は誰にもしたことがない。

 なんで、実は昔から小さいながらにも、私が破壊衝動を抱えていることを知っているのか。

 私は困惑を隠せなかった。


「……サレナは誰にも相手をされないことが多かった、と思う。そのオッドアイには気味悪がる連中が多くて……前は俺が庇ってやってたのにな……」

「……っ」

「でも、強くなってサレナは乗り越えた。けど、それが余計にサレナを苦しめることになったんだ。心の拠り所がなくなってしまったから」


 サレナにとって、リューライトこそが心の拠り所だった。

 だが、そのリューライトが頼りにならなくなったことで誰にも甘えることができなくなってしまった。


「でも、もう大丈夫だ。辛くなったら俺が側にいるから。その辛さを俺にも分けてくれ」

「私もです……!」

「きっと、シューラも同じだと思うぞ?」


 照れくさく笑ってみせたお兄ちゃん。

 私はそれでも暫く甘えることができなかったけど、お兄ちゃんが長いこと私の側にいてくれたことで……私のこの衝動は収まっていった。

 そして、気づけばこの衝動は……恋愛の方に走っていたことに気づく。


 ―——だから。

 他の人たちに負けるわけにはいかない。

 たとえ、入る騎士団が違っていても……必ずお兄ちゃんの側にい続けてみせるんだから……。


 赤く煌めく魔眼の奥底は小さく、されど怪しく桃色に輝いていた。

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