引き抜きです?
(どうして王都の中心に俺がいるんだ……)
リューライトは正直言って焦りに焦ってしまっていた。
無理もない。
稽古を終えてから、王女とモニカに王室への呼び出しを命じられたからだ。
「……騎士団に入れそうで良かったですね」
「……ふ、覇道のためには必要事項だからな」
「さすがです……!」
今はその王室までに向かう道すがら。
リューライトの他にはこの世界の主人公であるルクスが同席していた。
ルクスもまた呼び出された一員だからである。
(まあ、ルクスは呼び出されるとは思ってたさ……思ってたけど……)
目を細めながら、リューライトはこの場にいる他の面子を確認すると猛烈に嫌な予感を覚える。
ルクスはそんなリューライトを見ると、柔和な笑みを浮かべてみせた。
「……モテモテで羨ましいです」
「(いや、これがそう見えるのか……)」
声にならない焦りを胸中で溢しながら、少し離れた女性陣の姿をリューライトは視界に捕らえる。
そこには三人の見覚えしかない女性陣の姿が。
「王室ってどんな感じなのかしらね? 私、すっごく気になるわ」
「……まあ、豪華なんじゃない?」
「私はリューライト様以外見えませんので興味はないです」
シューラ、サレナ、ミリヤ。
そこにいたのはリューライトの側に付きまとう様になったヒロイン達である。
どういうわけか、彼女達もまた王室まで招待された、とのことの様だった。
(ま、まあ……彼女達とルクスは十中八九、騎士団に入ることになるだろう……この場では俺だけ場違いだ、場違い)
そう言い聞かせながら、王室まで向かうリューライト達。
行き道は喧噪で満ちており、リューライトはその喧噪に耳を傾けることでしか心を落ち着かせることができなかった。
王室まで辿り着けば―――リューライト達一行は、手続きと簡単な雑談を交わした後にアリエス王女から言い渡されることになる。
「王女直属騎士団には……ルクス、リューライトの二名。聖女直属騎士団には……ミリヤ、シューラ、サレナ以下三名とする」
「「「……っ」」」
はっと息を飲む声が室内に木霊した。
正直言って、ルクスとだけ王女直属の騎士団に加入できたことにはホッと安堵の息を零していた。
皆まで同じ騎士団だったら、そりゃもう……。
甘やかされる生活しか見えてこず、自堕落な生活が待っているのが目に見える。
恐らく王女やモニカはそのあたりを見抜いていてくれたのかもしれない。
そう思うと、途端に肩の力が抜けるリューライト。
対する女性陣達は納得がいっていないのか、下唇を噛んで全員が全員……納得のいってない表情を浮かべてしまっている。
どうして、リューライトと同じ騎士団に入れてくれないのか、と。
だが、それこそが波乱を起こす……リューライトの焦りを増長させる采配なことにリューライトもこの場にいる誰も想いもしないのであった。
♦♢♦
「『なんとか、上手くいった』なんてアリエスは思っているんでしょうね……」
ここは、王室から少し外れた教会。
その中でも王女に負けず劣らずの権威を持つ女性―――聖女がその場には佇んでいた。
「アリエスやモニカほど、私は醜くありません。彼は全てを統べるお方であります。ですから、今は自分の物にでもなったと優越感に浸るのです、アリエス。それはこの私が許しましょう」
シューラ、サレナ、ミリヤの三人を聖女直属の騎士団に入れたのは他ならぬ聖女の意思のもと。彼女はリューライトに心酔しており、彼のためならば、何でもできるとの想いがあふれていた。
それは、彼だけが自分のヤミを払ってくれたからに他ならない。
「アリエス……あなただけの物にはなりませんよ……リューライト様は」
教会では聖女の黒い笑みが咲いていた。
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