嫌な予感しかしません……

 晴天下の中、剣技の稽古をルクスとつけていると―――数舜。

 ガシッと間合いに入り込んで剣先を止める者が現れる。

 その動きを目で捕らえることはできず、リューライトは思わず目を見開いた。

 それは、ルクスも同様だったのか目を尊敬に変えて呆然とする。


「……ストップだ、リューライトにそれからルクス。君たちは中々筋が良い」


 凛とした声音。艶やかに靡く髪。

 モニカ騎士団長の登場であった。

 リューライトは息を潜めて、苦笑を浮かべる。


(なんで、こっち来るんだよ。周りの視線すごいことになってるって……)


 悪評が広まってしまっているリューライトに、現時点では浮いてしまっているルクス。


 この二人がモニカに目をつけられれば、他の生徒達の注目がこちらに向くのも当然であった。


(……おい、あの二人のとこいったぞ)

(なんか、モニカ様……好印象っぽく話してるぞ)

(……っ、リューライトのやつ、洗脳でもしてるんじゃ……)

(よせっ、聞こえたらやばいって……)


 そんな声にならない言葉がヒソヒソと共有されていた。

 リューライトは生徒達の声を聞き取ることはできなかったが、この視線が嫌悪を示していることだけは伝わってきている。


(……うん。悪目立ちが凄いから……モニカには帰って欲しいんだけど)

 と、内心で溢すリューライトだったが、ルクスは乗り気全開である。


「……ありがとうございますっ! このやる気も実はリューライト様のお陰でして」

「ほう?」


 そこで、モニカの視線がこちらに降り注がれた。

 恐らくルクスは……彼女を作れたことに対してそんな発言をしているのだろうが、リューライトから言わしてもらえば……それは全てが誤算であり、彼女ができたのもルクスが行動したからに他ならないのだ。


「……僕は未熟ですけど、リューライト様はいずれ大きなお方になるはずです。なのでぜひリューライト様を―――」


 姿勢を前傾させて、そう頼み込むルクス。


(やめてくれ……というか、ルクス。本来であれば、ルクスだけが王女直属の騎士団に配属されるんだぞ。俺をあまり巻き込んで欲しくないんだが……)


 と、思っているとモニカは柔和な笑みをこぼした。


「……君の友を想う気持ちはよく伝わった。考えておくことにしよう」

「はいっ!」

「ところで、リューライト」

「……っふ、な、なんだ?」

「………?」


 以前、モニカと接触した時とは口調が違っているためだろう。今は悪役モードを演出するリューライト。

 モニカは動揺の色を瞳に示して、首を傾げた。

 が、それも一瞬のことで『なるほど……』と頷けばすぐさま表情は元に戻る。


(一体……何がなるほど、なんだ……)


 困惑を隠せないでいるリューライト。

 そんなリューライトにモニカは一度咳払いをしてから、告げるのだ。


「君たちの実力……いいや、違うな。伸びしろを見てみたい。二人同時に相手するから遠慮せずにくるといい……」


 (いや、なんで?)


 そんな突っ込みをする間もなく―――――。


「リューライト様と一緒に本気で頑張りますね……!」


 (ルクスだけ頑張ってくれって……!)


「ね? リューライト様?」

「……分かった、やるしかないな」


 他の生徒達の注目が集まってしまっている手前、トン面をかくことも出来そうになかった。


「さて、それじゃあ、いつでもかかってきていいぞ」


 そう言って、モニカは木剣を手に取り構えの姿勢をとった。

 かくして、リューライト&ルクスVSモニカの稽古が始まった。


♦♢♦


 第一クラス。

 そこでは他の騎士の者が様子を見に来ていたのだが—――。


「君たち……一体、どんな実力をしてるんだ……」


 副騎士長の者が冷や汗をかく事態が発生していたのだ。

 副騎士長の目に映るのは……全てが女生徒でその実力には唖然とする他ない。


「「ぜひ、私達を入れて欲しいです」」


 彼女達の実力は紛いもなく本物。

 それもそのはず。

 なぜなら、彼女達はこの世界でメインヒロインという立ち位置で、物語の中心人物であるのだから………。

 シューラとサレナ……この二人が圧倒的な才覚を見せつけたのだ。


(必ず、リューライトは騎士団に入る。私が入らないでどうするのよ……)

(……お兄ちゃんの側に妹は必要でしょうから)


 と、二人の動機は一人の男に絞られていたのだった。

 そんな光景を遠くから、確認していた従者のミリヤはというと。


(……素晴らしいです、リューライト様。私も騎士団に配属される様、努力いたしますね……)


 と、主への忠誠心を更に強めるのであった。

  

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