剣の才能なんて今はないですよ?泣
王女と幼馴染が学園へとやってきた。
アリエス王女も、モニカ騎士団長も……王都に滞在する者においてその名を知らない者はいないと言える。
紫紺に煌めく髪と碧玉の瞳を持つアリエス王女に生徒達は魅入り、畏怖してしまっていた。
またその側にいるモニカ騎士団長も
そんな彼女にゴクリ、と固唾を飲み込む男子生徒も少なくなかった。
「……こ、これは、これは……王女様」
アリエス王女とモニカが稽古中のところに姿を現した途端、教師が膝を地面につけだす。
それに続く様に生徒達は膝をついて無礼のない振舞いを心掛けていた。
リューライトも他の生徒達に合わせて膝を地面につく。
こっそりと他の者たちに目を配れば全員が畏怖し……主人公であるルクスでさえ忠誠をささげている様にリューライトの瞳には映ったが、正直なところ彼は気が気でないのが実態だった。
(そもそも、なんで第三クラスに来るんだ)
ここは、あくまで剣の実力で見るなら三番手のクラス。
もし、騎士になるだろう生徒達の様子を見にきたのならシューラやサレナがいる第一クラスに行くのが普通なのだ。
(……目的はきっとルクスの腕を見込んでのことにしよう、うん。それで納得できる)
原作では主人公のルクスは最初こそ第三クラスに所属するが、めきめきと頭角を現していく様になり……次第には第一クラスへ。
そして、王女直属の騎士団に配属される流れとなっている。
そのため、リューライトはとにかくそれは自分ではない、と信じたくて仕方がなかった。
自惚れだと思いたいが、もし王女がここに来た目的がリューライトにあるとするなら……それは非常にまずかった。
なぜなら。
今やリューライトの評判は学園でも悪評が留まることを知らずにいるからである。
もしここで下手に目立ってしまえば、評判はさらに地に落ちていくことだろう。
と、頭をしばらく下げながら嫌な汗を全身から流していると王女は皆に言い放った。
「……皆さん、顔を上げてください……モニカ。ここに来た経緯を願います」
「はっ! 私達は……私の騎士団に配属できる実力と才能ある者を引き抜きたいと考えている……そのためにここに来た」
威厳ある声音でそう呟いたモニカとアリエス王女。
簡素な説明をした後、詳細を語りだしたのだが……どうやら入念な準備を整えてこちらにやってきたらしい。
もっとも、見にきただけで実際に騎士団に入れるのかは別問題であるが……。
説明を聞き終えた教師が、おずおずと口を開く。
「……恐れ多くもありますが、ここは第三クラスなのです。第一・第二クラスをご覧になられた方が良いと思うのですが……」
その教師の言葉に生徒達も同意なのか、声にならない言葉をボソッと呟いていた。
(……そうなんだよな、なんで第三クラスに)
(でも、これってチャンスなんじゃ)
(逆に失望させたらヤバそうだけど……)
と、そのときである。
生徒と教師の疑問を払拭するためにか、モニカがそこで口を開いたのだ。
「第一・第二クラスは他の者が見ている。見どころのある生徒を見抜くために私とアリエス様は第三クラスに来たのです」
つまるところ、第一・第二クラスはすでに優秀な生徒ばかりであるため他の者に任せても問題ないが、第三クラスの中にいる生徒の中で才能ある者を見出すために団長であるモニカが馳せ参じたということらしい。
その説明に納得がいったのか、生徒達は、
(絶対、モニカ様のお目にかなう様に頑張るぞ……!)
(これは、絶好のチャンスだって……!)
(王女様直属の騎士団に入れる可能性があるなんて大出世だ)
と、期待を胸にこれからの実技に一層精を励みだすのだった。
♦♢♦
「……ジュリスと俺は添い遂げていきたいので、俺も彼女を幸せにできる様に団長様と王女様の目にかなう様に頑張りますね!」
「……お、おう」
ジュリス、いうのはルクスが付き合っている幼馴染に他ならない。
他の生徒達と同様にルクスも騎士団に入りたくて仕方がないらしい。
「……一緒に頑張って一緒に入りましょうね! リューライト様っ」
「い、いや―――俺は」
「リューライト様の覇道のためにも、騎士団に入るのは決定事項だと思ってます!」
「そ、そうだな……当然だ」
一度、悪役に徹すると決めてしまった以上、覇道という言葉を出されたらその態度を崩さないわけにはいかなかった。
内心ではだらり、だらり、と背中から嫌な汗が流れてしまっているが。
「では、いきます―――リューライト様」
「えっ……ちょっ!!」
猛スピードで駆け、木剣で思いのままに切りかかるルクスにリューライトはため息をつかざるを得なかった。
(覚醒したかの様に動きが早くなったな…受けきるだけで必死だ)
と、リューライトもリューライトなりに本気で稽古に臨まざるを得なかったのだ。
♦♢♦
さて、第三クラスの実力を見ているアリエス王女とモニカ騎士団長は。
「(リュー君、必死に頑張ってる……ふふっ、そんなに私の直属の騎士になりたいのかしらね)」
「(……変わったのは紛いではなく本当、みたいですね。それにあの剣筋……毎日鍛錬しているのが窺える……これは本当に団に入れても問題ないかも……)」
と、二人はリューライトとルクスを遠目ながらに観察していたのだった。
—――ガン、ガン、ガン。
ルクスと木剣で稽古をつけ合っている中、リューライトは内心で焦りに焦りまくっていた。
(なんだろう……すごく、嫌な予感がする)
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