王女・幼馴染視点
―――時は数日前まで
場所は王都の中でも最高峰の場。
アリエス王女は退屈そうなひと息をその静謐な室内で溢していた。
足を所在なげにブラブラと机の下で揺らしながら、唇を尖らせる。
「は~リュー君。来てくれそうにないね」
普段は多くの業務を愚痴の一つも言わずに卒なくこなす彼女だが、ここ最近は心ここにあらず、の状態がずっと続いていたのだ。
彼女の頭の中をいっぱいにさせるのは、とある一人の男性。
アリエス王女が口に出した『リュー君』との呼び名。
それは、あの『リューライト・シェイド』に他ならない。
彼の姿をここ数日見れないだけでアリエスは業務に支障をきたしてしまっていた。
秘書でもありアリエスの護衛でもあるモニカの方へとアリエスは視線を向ける。
見れば……モニカはむすっと頬を膨らませてしまっていた。
王女にはしなければならない業務が数多くある。
だが、アリエスの意識が散漫としてしまっていることに痺れを切らしたのか、モニカは悪態をついていた。
本来、普段"勤勉"な王女が心ここにあらず、の状態であれば心配の声をかけるモニカだが、今回はうんざりとしている様子。
それもそのはずだろう。
何も今回が初めてではないからだ。
「いつまでそう、おっしゃてるんですか? 仕事に手をつけていただかないと困りますよ?」
「モニカだって、リュー君に会いたいでしょ?」
「そ、それは……」
思わず言い淀むモニカ。
リューライトと彼女は幼い頃を共にした幼馴染の関係性。
そして、モニカはリューライトを振って彼を遠ざけた張本人であるのだ。
そのため、気まずい関係性へと昇華しているはずだが、モニカの頬は少し紅潮を見せている。
そんなモニカの反応を楽しんでいるかの様にアリエスは笑ってみせた。
「ね! ほら顔にでてる。リュー君がここに来たとき、最初こそ戸惑いだったり確執があったみたいだけどさ……彼は私たちの悩みを解消してくれた。そうでしょ?」
「確かに、前とは印象が変わりました。けれどだからと言って会いたいかと言われれば、別にというのが答えです」
「ふ〜ん、素直じゃ、ないの」
ぷいっと顔を背けてみせるアリエス。
だが、実際のところ、モニカはかつての幼馴染——リューライトに会いたい願望を胸の内には秘めていた。
それも無理ないことだろう。
誰にも打ち明けていなかった心の問題を彼は見抜いていて、そして寄り添ってくれたのだから……。
以前までは傲慢でそれこそ人を寄せ付けなくなった噂を耳にはしていたため、困惑が隠せなかったのは記憶に新しい。
「そういえば、さ———」
ふと、アリエスがそこで思い出したことがあると言わんばかりに口を開いた。
「どうされました?」
「ランゼドー学園で騎士の卵、まだ見に行ってはなかったわよね?」
「…………」
王都、最大級の貴族学園——ランゼドー学園。そこでは王都のそれこそ王女直属の騎士を直々に王女が見に行ける機会が存在していた。
もっとも、原作であれば彼女は騎士の存在は不要としており関心を示すことはないのだが。
「私、未来の騎士を見つけにいこうと思うわ」
その瞳に宿るのは、ただ一人の男性、リューライト・シェイド、その本人であった。
「ふふっ、彼を引き抜かれでもしたら大変だもの。それに直属になれば……モニカだって彼と毎日顔を合わせることにはなるわよ?」
「…………まぁ見にいくのだけでしたら制度上は何も問題ありませんが」
そう言いつつも、満更でなさそうなモニカを認めるとアリエスは満足そうに微笑んだ。
「それじゃあ、リュー君を引き抜きに……じゃなかった。未来の騎士を見つけにいくために手続きを終えて、いくわよ。モニカ!」
「……その前にやるべきことはしてくださいね」
かくして、恋に悩める乙女達はランゼドー学園に赴くことになったのである。
もっとも、リューライトを狙う女性が他にいることを後に彼女たちも知ることになるのだが………。
今はその未来を知らずにいる。
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