授業中でのこと

 ランゼドー学園において、午前までは座学の授業が進められ午後からは実技の授業が進められることになっている。


 昼休みを跨いだ、五時間目。


 只今、絶賛実技の授業の真っただ中だった。


 ―――弓、剣、槍、拳。


 各武術をそれぞれが選択することになっており、クラスの垣根を越えて様々な生徒で入り乱れる。

 自分に合った武器と武術を体得するために生徒達は自分に合った授業を選択するわけだ。


「……もうっ、シューラ、兄貴のこと見すぎだって」

「……っ、そういうサレナだって彼のことずっと見てるじゃない」


 ―—ここは剣技の中でも最も参加難度の高い第一クラス。

 将来、王都で活躍することが保証される騎士を志望する生徒は必ず第一クラスの参加を望む。

 だが剣は各武器の中でも一番人気のため、第一クラスに入れる者は才能を持ち合わせた者しか入れないとされているのだ。

 そんな高難度なクラスで木剣を振るう二人の女子生徒は少し離れたところで剣を振るっている第三クラスのとある男子生徒に注目を寄せていた。


 その男子の名はリューライト・シェイド。


 ここ最近までは学園中で彼の名を聞かない日はないほどリューライトは話題に上がり続けていた。


 今まで不真面目で誰に対しても侮蔑を向けた態度を取っていた生徒が急に真面目になり性格も温厚になったのだから、学園で話題になるのも仕方のないことだった。


 リューライトが暫く真面目な態度を取り続けると、生徒達は『どうせ気まぐれ』『心許したら裏切られる……』などと決めつけることになり、彼は結局クラスでは浮いてしまっているのが現状だ。


 が、同性の友達であるルクスと最近は一緒に過ごしているのが今でも見受けられる。

 楽しそうに、一生懸命に剣を振るっている姿に二人の女子生徒はぼ~っと熱い視線をリューライトに投げかけていた。


「……ほんと、は変わったわ」

「そう、だね。私も助けてもらったから……それは認める」


 侯爵家のシューラに続き、リューライトの実妹であるサレナもその場で頷いてみせた。


 少しずつ、けれど確実に痩せ始めているリューライトの姿にとろんとした瞳をサレナは揺らす。


(お兄ちゃん……精神的に参ってた時に助けてくれたからね。のことについても真剣に寄り添ってくれた……)


 とくん、と思い返せば無意識にサレナの心臓は高鳴る。

 恥ずかしくて本人の前で口にすることはできないが内心ではもうずっと『お兄ちゃん』とリューライトの名を呼んでいた。


 そんな乙女の表情を浮かべているサレナにシューラは思わず口を尖らせる。


「サレナをにしちゃうなんて悪いのには変わりないわね。リューライトは」

「……っ、こ、こんなってなに!?」

「あれ、無意識だったの? すっごく切なそうな表情をリューライトに向けていたけど」

「そ、そういうシューラだってお、おに……兄貴にいやらしい視線を投げかけていたじゃない……。それに今日、こっちの家にくるって何をする気……?」


 シューラに図星を突かれたサレナは平静を装いながらもシューラに尋ね返した。

 すると、シューラは口角を緩めて自身の考えを吐露し始める。


「私だって彼に助けて貰ってるから……」


 それは他ならない誘拐のこと。

 最初こそ、リューライトが助けたことを疑問に思い監視に努めた彼女だったが彼の行動を見張れば自然と自分も彼に助けられていた、とシューラは確信に至ったのだ。


「彼に恩返ししたいの」

「お、恩返し?」


 首を傾げるサレナにシューラは続ける。


「そう、恩返し。リューライトってホントはもの凄く辛いはずよ。自分を変えようと必死になって……でもそれを認めてくれる人は学園には全然いなくて」

「そ、そうね……」

「うん。でもそれでも、腐らずに人を救おうとする彼を見ていたら……母性っていうのかしら……彼をうんと甘やかしたいって思ったわけ」

「……っな! あ、甘やかすって何をする気!?」

「さあ、なんでしょう……」


 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるシューラを認めると、サレナは焦燥感を胸の中で渦巻かせた。

 それは何もシューラだけがそう考えているわけではなさそうだったからだ。


(……王女様も、侍女のミリヤも、ひょっとしたら他の娘までシューラと同じことを考えてそう……)


 そう、確信できるのは彼女達の目だ。

 魔法の様に妖艶に輝くの雰囲気は紛れもなくシューラのそれと同じもの。


(ま、まずい……私も、うかうかしてられない)


 そうしなければ、お兄ちゃんが誰かに取られる。

 と、サレナは思わされたのだった。


♦♢♦


 一方、その頃。


「リューライト様ってモテモテですよね」

「ん? 急にどうしたルクス君」


 第三クラスでこの世界の主人公であるルクスと一緒に剣技に励んでいると、不意にルクスは柔和な笑みを浮かべ、そんなことを溢した。


「だって、シューラさんとサレナさんの視線……感じませんか?」

「あぁ、たしかにこっち見てるけど……それってどう考えても—――」

「ん? どうされました? リューライト様」

「………いや、なんでもない」


 ルクスの言う通り、確かに第一クラスの方から二人の視線は投げかけられているがその視線は明らかにルクスに向けられている、とリューライトは思っていたのだ。


(……主人公補正は凄いなぁ。それに彼女できて爽やかになったルクスは男の俺でもカッコいいって思うもん)


 そう、リューライトの目から見ても今のルクスは明らかに輝いていた。

 眩しくてルクスには女子生徒の隠れファンができていることも、リューライトは耳にしている。美形だしそりゃそうなるよ。


 対するリューライトは目つきが悪く、最近ではマシになってきたがそれでもまだ太っている範疇だ。


(この視線に気づかない鈍感さも主人公すぎるぞルクス……)


 純真無垢な瞳を見据えると、リューライトはそんな感想を抱く。


「……ですがリューライト様にはやはり彼女ができた感謝を返しきれていないので、良かったらデートでもしましょうね。リューライト様ならすぐお相手も、この調子ならできそうですし」


「あはは、まあ機会ができたらいいな」


 それ、デートしても俺は当て馬で皆ルクスを狙うデートになりかねないぞ。

 と、リューライトは苦笑を浮かべるのだった。


 


 


 

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