悪役貴族の決意?

 ……困ったことになった。


 ルクスが幼馴染と添い遂げることに決めた現在。

 他のヒロイン達を助けるはずの主人公の存在が潰えてしまったことになる。


(そりゃあ、めでたいよ……めでたいんだけどさ)


 現にルクスは今まで一人だった稽古も幼馴染が側にいることでより一層、精をだしているのが目にとれた。心なしか目に光が宿っている様に見える。


 ずっと一人で頑張り続けてきた彼の心の拠り所として`彼女`の存在は機能するに違いない。

 元々、リューライトは自身が暗躍し主人公のサポートをするでもして、シナリオを大幅に改変していかずにヒロイン達を助けようと思っていたのだが……主人公が幼馴染と付き合った以上、シナリオ改変は大いに起こってしまっている。


 こうなった以上はシナリオ改変を起こさないというのは無理難題だった。


(……彼女ができた以上、ルクスには頼れそうにないからなぁ)


 ヒロイン達の悩みを今や自分だけが知っている。


 だが、この豚の体型である以上ヒロイン達を助けようにも助けられそうになかった。そのため、協力者が今後も必要になってくるというわけだ。

 痩せてからヒロイン達を助けていくとはいっても、時間は待ってくれない。


 ヒロイン達の問題は着々と起こっていくはずなのだ。


(そう考えると……暗躍せざるを得ないよな)


 教室では生徒達から注目をいつも集めてしまい、居心地がどうにも悪い。

 それほどまでに傲慢で高圧的な態度をこれまで取り続けてきたのだろう。

 ―—だから、リューライトは自身の悪評が晴れ、痩せるまでは暗躍していく道を選ぶことにしたのだった。


 さて、そんな今後の方向性を固めながら学園から豪奢な屋敷へと戻れば―――。

 ミリヤが恭しく頭を下げてきた。


「お帰りなさいませ……リューライト様。ルクス殿の一件お聞きしました。一人になっている彼のことを放っておけず想い人を作るように誘導したとは……私、驚きました」

「……あ、はは」


 従者であるミリヤが尊敬の眼差しでリューライトを評す。

 正直言って全部が誤算と誤解でしかなかったのだが、今やミリヤだけがリューライトの頼み綱だ。

 今後ヒロイン達を助けていく中で暗躍していく以上、彼女の協力は不可欠。

 そのため、内心では冷や汗をかきながらも、リューライトは声高に演出するのだ。


「……まあな、ルクス君の悩みは見えていた」

「さすがです、リューライト様」

「ところで、ミリヤ……この学園ではルクス君だけでなく、他にも大きな悩みや問題を抱えた生徒達がいて俺は助けたいと考えている。協力してくれるか?」

「はい、私はリューライト様の陰となり剣となりますので」

「……そ、そうか」


 あまりの忠誠ぶりと即答にリューライトは思わず引いたが、ゴホンと咳払いをした。すると、その時ミリヤが口を挟んで上目遣いをしてくる。


「ところでリューライト様。私は窮地を助けはしますが、精神面でのサポートはリューライト様に任せたいと思います。ルクス殿の一件を聞く限りですと、言葉でのサポートはリューライト様の方が長けていると思いますので」

「つまり、精神的なサポートは俺がして、物理的に危ないことがあればミリヤが駆けつけてくれるってことだな?」

「……その通りでございます」


 確かにミリヤの言う通り、身や命に何らかの危機がある時にミリヤが助けに入ってきてくれる方が都合が良いか。

 と、リューライトは納得し一人、その場で頷く。


 どうにもリューライトは自分だけヒロイン達の悩みを知っているというこの状態が、むずむずとしてしまうため、解消してしまいたい、という思いに強く駆られてしまった。


(……さて、あまり時間もかけたくないし速攻でヒロイン達の問題を解決していこうか)


 そんな考えから、リューライトはここから王女、リューライトを振った幼馴染、妹の問題を解決していくのだが、それが波瀾の一幕だなんてこの時のリューライトは思いもしないのであった。


 まさか、自分が言い寄られ甘やかされて自堕落な生活を送る様に仕向けられるなんて。


『リュー君は甘えていいんだよ?』

『前みたいにだらけていいと思うぞ?』

『ほら、あ……あ〜ん』


 そんな未来をリューライトはまだ知らない。


 

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