主人公と接触、でも何かがおかしい……
ルクス・アルセントはこのエロゲ世界の主人公である。
『花束と魔眼の貴族学園』では彼を起点として物語が動いていくのだ。
原作では、リューライトとルクスは敵対する関係にあったが同じ未来は辿らない、と強くリューライトは決意する。
敵対してたら破滅エンドまっしぐらだし、ヒロイン達も主人公と仲間になれれば救いやすいのには間違いがない。
つまり一石二鳥。初対面大事、間違いない……!
と、そんな決意を胸に中庭へやってくると、そこには真剣な顔つきで木刀を振るルクスが目に留まった。
陽射しが強いなか大衆にバカにされながらも、自主練習とは感心させられる。
カッコいいと男ながら思わされるリューライト。
ゴホン、と軽く咳払いをしてから主人公の元へと近寄っていった。
「……おはよう、ルクス君」
「…………」
挨拶に対して返ってくるのは空しい素振りの音だけだった。
どうやら彼の耳に挨拶は届いていない様である。
リューライトはもう一度だけ気恥ずかしさを取り払いながら、挨拶をしてみせた。
すると、遅れ気味に翻ってルクスとリューライトは目を合わせる。
「……え、え、りゅ、リューライトさ、様っ!」
ずずっと後退してから頭を下げてくる主人公。
思わずそんなルクスの反応にリューライトは苦笑を溢した。
今でこそ、臆病でビビりな性格をしているが、彼の根っこは強く揺るぎない信念があり、そこは尊敬しているリューライト。
だが、リューライトよ……どんだけ怖がられてんだ。
もともとが、悪人面なのと傲慢な態度を誰に対してもとっていたため、それは当然のことではあるのだが……こうも恐れられると反応に困ってしまうのだ。
警戒心を解いてもらうために、リューライトは穏やかな声音を努めてルクスに話しかけた。
「……いきなり話しかけて悪かった。俺も練習したいって思ったからさ」
「そ、そうですか。リューライト様も剣技を……」
目を何度もぱちぱち見開きながらぽかんと口を開けるルクス。
そんな彼を無視して、リューライトは木剣を手に持ち、彼の横に並んで一礼した。
その所作の間、ずっとルクスの視線はリューライトに降り注がれたままである。
(まあ、急に俺がこんな態度取ってたら驚くのも仕方はないよな………)
「……驚かせてるところ悪いけどさ。俺、改心してこれから頑張っていこうと思ってて……そのっ……友達になってくれると嬉しい」
「………っ」
正直言って、上手い距離の詰め方なんてのは分からなかった。
リューライトと同じ様に悠斗自身も初恋の人にフラれて腐ってしまったのだから……。
だから、きっと言葉巧みに距離を詰めていくのは自分にはむいてないため、直球に素直に、言葉を紡ぐリューライト。
その言葉を受けてますます驚きのあまり固まるルクスであったが、その発言に嘘がないことが分かったのか、ルクスは柔和な笑みを浮かべる。
「……はいっ! リューライト様」
「お、おう」
あまりに眩しい笑みと態度の変貌ぶりに呆気に取られるリューライト。
ホッと安堵の息を零すとルクスはクスクスと横で笑ってみせた。
「ちょっと驚きましたが、リューライト様が変わられたのは今の反応で充分伝わりました。俺ってこう見えて結構一人で今まで練習してたの……結構堪えていましたので、嬉しいです」
「———お、おう」
(……いや、俺稽古に付き合うとは一言も言ってないぞ)
ただ、友達になって欲しいとだけ伝えたつもりだったがまあいいか。
と、リューライトは苦笑を溢した。
緊張が解けるとルクスは人当りが随分とよくなるらしい。
そんな彼の態度が平民のくせして! と貴族のプライドを傷つけることが多かったからか、ルクスは煙たがらてしまったのだが……そんな彼の態度は今のリューライトには有り難かった。
だが、このエロゲをプレイしたものとして。
この主人公・ルクスの弱気な発言に対してどうしても言いたいことがリューライトにはあったのだ。
「……ただ、ルクス君に言いたいこと一つだけあるんだけど……」
「は、はい―――何でしょうか?」
「必ず想いは実る。だから諦めずに自分の信念を貫いて頑張って欲しい。そんな姿に俺も胸が打たれることあったからさ……」
真剣な眼差しでそれだけ伝えると、はっと何かに気づいたルクス。
すると、妙に顔を紅潮させた。
「ありがとう、ございます。そんな情熱的なアドバイスをくださって」
「……え? ま、まあな」
一体どうしたというんだろう。
何故ルクスは顔を赤くしているというのか。
真意は分かりかねるが、自分の言っていることは理解してもらえた様なのでリューライトはその場で納得をしてみせる。
「……ずっと一人で抱えこんでて……もう駄目かなって思ってましたけど頑張ってみます」
「そうだ、それが良い」
確かにこの自主練習は骨が折れるものだろう。
でもその頑張り続ける姿で次第に周囲を変えていくのがルクスの魅力なのだから……。
と、人知れずリューライトは勝手に胸を熱くした。
「……当たって砕けろ、だな」
何やらぶつぶつとルクスは呟いている様だが、リューライトは特に気にする素振りを見せなかった。
が、そんな余計なアドバイスが不味かったのだろう。
翌日。何かがおかしいことに気づいた。
中庭でのことである。
いつも一人で練習していたルクスの横には彼の幼馴染がいて—――開口一番にリューライトに告げてくるのだ。
「リューライト様、おかげさまで俺、想いを実らせることができました。リューライト様のおかげです……!」
「……ん?」
なんだろう。幻聴が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。
「あの……ルクス君、女の子と手を握ってる様だけど……今なんて言った?」
「はい! リューライト様のアドバイスのおかげで彼女ができました」
「そ、そうか。おめでとう」
リューライトは苦笑いを浮かべながら、自教室に戻ると内心で発狂する。
(……ここで主人公が幼馴染ルート入って幸せな展開迎えられたら他のヒロイン達どうすんだあああああああああああああ)
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