従者の忠誠?
中心街、ドライズ。
商店がこの一帯では飛びきり多く喧噪に満ちた憩いの場。
この地区では平民、貴族といった身分の垣根を越えて多様な境遇を抱えた者たちが生活を営んでいる。
悠斗のうたい文句では『困ったらドライズに行け! そうすれば、ヒロインの好感度上げられる』としているほど……この場所はデートスポットの一つだ。
さて、そんなドライズから少し離れた郊外の場所にリューライトは訪れていた。
理由は明白。この人目につきにくい場所でヒロインの誘拐イベントが発生するはずだからである。
が、少し早く訪れてしまっていたためリューライトは従者であるミリヤと共に喫茶店へと立ち寄り、時間を潰していた。
「リューライト様、仕方なくはありますがこの恰好は些か恥ずかしいですね」
「ごめん、協力してもらって……」
「いえ、リューライト様の見られたという悪夢が本当なのかは気にはなりますし……」
「……あ、あはは」
コーヒーを口に運びながら苦笑を溢す。
最初こそ買い物に付き合ってもらう名目でミリヤを連れ出そうと考えたわけだったが、彼女に黒いマントを羽織ってもらう様に頼めば『なんで?』と問われたため、悪夢を見た、といってリューライトは誤魔化したのだ。
黒いマントを羽織ってもらう様に頼んだのは、ヒロインにミリヤの顔が見られることがあれば面倒なことになりそうだったからに他ならない。
今回助ける予定のヒロインは生粋の男嫌いで有名だが、気に入った者は絶対に手に入れようとするクセ者。
そのため、ミリヤの顔をみられれば引き抜かれる可能性があると踏んだのだ。
「確か、このあたりで女の子が誘拐にあう夢を見られたんですよね?」
「ああ……正夢になるかもと思ったからさ」
「分かってます。それに助けるならこういうマントを羽織ってる方がサマにはなりますしね」
心なしか、ミリヤの瞳には光が宿っている気がした。
そんなミリヤを目に留めながらリューライトはほっと安堵の息を零す。
裏設定だったのかもしれないが、助かったことと言えば、ミリヤは見かけとは裏腹に中二病っぽいところに憧れを抱いているということだ。
少し時間が経つと、女性の店員さんがスイーツを持ってきた。
「お待たせしました……。苺のスムージーです」
「……? あの、すいません頼んでないと思うのですが—――」
「ミリヤ、これは俺が頼んだんだ」
エロゲをプレイして分かっていることだが、実のところミリヤは苺に目がない。
だが素直になれない性格なのか、ミリヤはそのことを口にはしないのだ。
今回、従者であるとはいえミリヤに危険が及ぶのは間違いのないこと。
それにこれまで傲慢な態度で迷惑をかけた詫びもかねて、リューライトはミリヤに苺のスムージーを頼んだのだ。
もっとも、ミリヤがいる前で頼めば遠慮されるので半ば強引に席を外して頼んだのだが……。
「……これはミリヤにさ……今まで迷惑かけたから。まあこれでチャラは安すぎるからそういう意味じゃないけど。気持ちとして受け取ってくれると助かる」
リューライトが言えば、ミリヤは驚愕に満ちたのか目を大きく見開いた。
反応としては当然だろう。ここ数日間でも感じていたことだが、別人にでもなったかの様にリューライトの態度は変わっているのだから……。
「あれ? 苺好きじゃなかったけ……」
「……ど、どうしてですか?」
唇を震わせながら、ミリヤは尋ねた。
ここの受け答えは重要だ。ミリヤの信頼を取りもどすためにも慎重にならなくてはならない。
リューライトはなるべく優しい声音になる様に努める。
「昔に……そういってた気がするから」
嘘である。
転生・憑依した際に流れ込んできたリューライトの記憶にはそんなものはない。
あるのは酷く傲慢な態度を取っていた豚の姿だけだ。
が、それっぽい回答で押し切ろうと彼は考えたのである。
リューライトの言葉を受けて彼女は俯く。
「……おぼえて、くださってんですか……あんな昔のこと」
何やら胸の前で握り拳をつくり小声でぶつぶつと呟いているが、反応としては悪くなさそうだ。
話を締めるべく、リューライトは気恥ずかしい想いを押し殺しながら口を開いた。
「……俺改心するからさ、許してもらえるとは思ってないけど、協力してもらえると助かる」
「……分かりました。まだ私、正直な話、信用はしきれませんがあなたに従います――」
ミリヤの綺麗な顔は決意と覚悟に満ちたものになっていた。
信用はしきれないといっているが……心なしか彼女の顔が朱に染まっているのは気のせいだろうか。
と、首を傾げていると怪しい身なりの集団が外でふと目についた。
(間違いなく……あれだな)
ミリヤに目配せをして、リューライトは暗躍を開始した。
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