暗躍を画策する悪役貴族

 季節は春。

 暖かなそよ風は草地を揺らし、天気はのどかで外は快適な居心地であった。


 朝食を取ってから、リューライトは従者であるミリヤを連れて庭へとやってきていた。


 このエロゲ世界の時系列を把握したリューライトはあと数日後に起こるであろうヒロインの誘拐事件を未然に防ぐべく対策を取ることにした様子である。

 さて、その対策とは―――。


「……リューライト様、いくらなんでも無茶です」

「ごめん……でも、俺は強くならないと!」


 木剣を使い従者であるミリヤに絶賛稽古をつけてもらっていた。


 誘拐からヒロインを守るなら自分が強くなるしかない、そう思わされたのだ。


 ミリヤは剣技だけで評価するなら、このエロゲ世界でも作中で№1と言っても過言ではない実力を持っている。


 そのため、稽古をつけてもらうには申し分ない相手なのだが……。


(……デブすぎて、身体が重い……どんだけ運動してないんだよ!)


 自分でもびっくりするほどに身体が思うように動かなかった。

 怠惰な生活を送ってきたツケが回ってきたのか、身体があまりに重く剣を勢いよく振ることもできない。

 ミリヤは呆れながら、リューライトの剣をかわし続けていた。

 そして痺れを切らすと肩を竦めるミリヤ。


「……こんなことをしても無意味です。突然、奇行に走られてどうされたのですか?」


 奇行。

 確かにデブが血相を変えて『稽古をつけてくれ……』なんて頼みだせばそれは奇行に捉えられてもおかしくはないだろう。


 ぜえぜえ、と肩で息をするようになるとリューライトは剣先を地面につけて諦めることにした。いさぎ良さも大事なことである。


(無理無理……俺が強くなってヒロイン助けるなんてのは……)


 ただでさえ、時間がないのだ。

 今、思えばどうして自分が助ける前提で考えていたのか、とリューライトは情けなくなる。


 きっと心の奥底ではヒーローになりたい、なんていう願望があったからなのだろう。

 ファンタジー世界に造詣が深く憧れを持っていた悠斗が英雄の願望を持っていても仕方がないというものだ。


「ごめん、もう限界……」

「はい、それが賢明かと」


 勝手に稽古をつけさせといて、自分から勝手に諦めたことを謝罪すれば妹であるサレナは遠目ながらジトっとした瞳をこちらに向けた。


「ダサッ……」


 グサッと胸に染みる一言に内心泣きながら次の策を考えるリューライト。


(自分一人でどうにかできないとなると……協力者が必要だよなぁ)


 とはいえ、協力者なんて一体誰が……。

 たしかヒロインを誘拐する相手は複数だったがそこまで実力はなかったはず。

 一網打尽に相手を倒せる剣技を持っている人が理想だな、と思っていると急にそこではっとリューライトは気づいた。

 その最適な相手が目の前にいることに……。


「ん? どうされました?」

「頼みがあるんだ! ミリヤ」

「……は、はあ」

「六日後に中心街で買いたい物があるからついてきて欲しい……!」

「……わ、分かりました」


 ミリヤは不審げに眉を潜めながらもこっくりと頷いた。

 買いたい物がある、といったがそれは嘘である。

 六日後、中心街にてヒロインの誘拐が起こる予定なのだ。

 ミリヤには内心で悪いと思いながらもリューライトは策を頭で巡らせた。


♦♢♦


 ―――六日後のこと。

 中心街に向かう際、一人の少女が反抗的な態度を取っていた。


「いけません……お嬢様。護衛はつけていただかないと」

「嫌よ、むさくるしい。私に護衛なんていらないわ」

「……ちょ、ちょっとお待ちください」

「大体、私は気に入った人間以外は側に置いたりなんかしないから」


 べ~と赤い舌を出して反抗的な態度を取るヒロインの姿が室内で確認された。

 

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