第2話
あの日から早くも半月たった。2月2日午前9時。明日は公立高校の選抜Ⅰ。普通ならピリピリしている生徒もいるはずである。なにせ面接があるからだ。
しかし私はこの平日に学校へも行かず、少し片付いた自分の部屋のベッドで天井を見上げていた。
それは
「今日でこの部屋ともお別れかぁ…。今までありがとうございました!」
進学する高校が
数日前突然ハイテンションフェネが2階の自分の部屋の窓から押し寄せたときに教えてもらったのだが、異能力者と分かれば中3の2月中には高校の在る島に入らなければならない謎規定があり、早い人は中学校や小学校に入るときに入島する人もいると言う。
普通ならちょこちょこと何回にもわたって荷物を送るらしいが、私が非正式に異能力持ちとして認定されたのが半月前だ。出遅れているにも程があった。
スーツケースはあったが小さく、私物を一度に持っていくのには十分な大きさではなかった。ただこの問題は私の能力、「コピペ」の前には単なる階段でしか無かったが、唯一の問題は、
「この手どうしよ…。」
一定の大きさ以上の物は血液を使って能力を発動しなければならないという縛りがあるのだが、持っていく物を全て片っ端からコピーするために、指先に針を刺して血を出すということを繰り返し始めたのが、today's morning今日の朝6時、3時間程前の話で、夢の中で荷造りをしなければならないことを思い出して慌てて飛び起きたのだった。
母からの能力であると思われる傷の治りの早さも、流石に短時間で数十箇所開けられたとなると、あと1時間はかかりそうだった。
…普通より早いか…。
一応は絆創膏をしているが、絆創膏をしているところを母に見られるとかなり心配されるので、早く外したいところではある。
という理由で巡った思考はどこかへ飛んでいき、ぼーっとしていたのである。
コンコンコン
突然ノックの音がした。横たわっていた体を勢いを付けて起こし、はいっと答えると入ってきたのはもちろん母だった。
「準備は終わったー?…ってその手どうしたの…?」
声が若干震えていた。あぁダメだこりゃ…。
これはこの後予想的中な結果となった。
母をなだめているうちに傷は引っ掻き傷程度にまで治り、ようやく母も、まぁそのくらいならと何故か渋々顔で引き下がっていった。
母をなだめるのに要した時間は30分。確か数日前に来たフェネは10時前には来るって言って時間を変更していたから、そろそろやって来てもおかしくはないはずである。
ベッドから腰を起こし、コピーせずに残しておいた上着に手を伸ばす。
「ぶふぇっ」
…何の音だ??不意な音はこの部屋からは発生しているようでは無かった。他の部屋からも下の階からもしていなさそうだった。ということは、と思って窓の方を振り返った。
…居た。フェネだ。それも窓ガラスで顔面強打しているらしい。ベチョっとでもいうように、へしゃげた顔が窓ガラスに貼り付いていた。
…おっと、
「うぐぅ…おはよう…これから行くけど準備出来た?」
「う…うん、一応…。大丈夫?」
「明らかに引いてるのに、一応心配しとこうみたいな思考が分かりやすすぎて心に刺さる…」
あははは…バレてたか。
「そんじゃ、早速ですが行きますか!」
それにしても開き直りが早いですねぇ…
「じゃあお母さんにお別れしてくるよ。」
そう言って用意しておいたバッグに手を伸ばした。
「待って、持っていく物ってそれだけ?!」
「え、あぁうん。全部コピーしといた。」
私が用意していたのは小さめのショルダーバッグで、中に入っているものはスマホと財布ぐらいである。
フェネは明らかに「ダメだこいつ」みたいな感じでため息をついた。
「島の中以外で許可なしで能力使ったら法律違反なこと知らなかったかぁ~…」
「…ええええええぇ?!」
な…な…そんな法律があるんですかぁ?それは早く言って欲しかった。なんか、本当に何も知らないんだなぁ…私って。
「え、じゃあどうなんの捕まったら…?」
「うーん…場合にもよるけど、死刑、いや、その場で処刑…。」
「ななななどーすんの?!それじゃ私捕まって殺されちゃうの?そんなの嫌なんですけど??!」
気づいたらフェネの肩をがっしり持って、ブンブンと振っていた。それに気づいてはっとする。
「落ち着いて?逮捕されるのは現行犯かつ基準値を越えるエナを使用した時だけだから。そのくらいなら厳重注意だったり、やむを得ない理由で使った時は許されてるけど、次から島の外で使わないようにね?」
な、なんだぁ…なんか寿命が大きく減った気がする…
「分かった、気をつけるよ。…ていうか、もっと教えてて欲しいんだけど?」
「あー…君にはゼロから全てを教えないといけなさそうだね…メンド」
「ん?最後面倒っつったなぁ?」
「え?あ、バレた?って、ちょ、くすぐったい、やめて~~」
イラッときたので、もふもふの体を撫でまくってやった。
「お母さん、そろそろ行くね。」
そう言いながら、靴をはく。
母は私の声を聞くと用意していたのか、お手製のおむすびを私に手渡した。
「まいが居なくなると寂しいわー。次はいつ帰って来れるの?」
どうしよう、あいつに帰れる日を聞きそびれていた。だが、ちょうどいい所に降りてきたあいつが足元にまでやってきていた。やっぱり母には見えていない様だ。私は横目でフェネに答えを促す。
(夏休みには帰れるよ。2週間だけど。)
ナイスだ。母は、何も無いところに向かって目を向ける私を見ながら、頭の上にはてなマークを浮かべていたが。
「あー…夏休みに2週間ぐらい帰れるって聞いたよ?」
ただ母はそんな私の変な行動をそこまで気にしているようではなかった。
「まぁ、気をつけて。くれぐれも迷惑のかけるようなことはしないようにね?」
「うん。」
(皮肉だねぇー)
くっ…確かに小中いろいろやらかした…ってやめろ!?いい流れにしたいのに!
またもや母は、足元を
「じゃあ、また!」
玄関の扉を開ける。振り返ると母は少し悲しそうな顔をしていた。私は心配させまいと笑顔で手を振る。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
母も応えるように笑顔で返してくれた。
玄関の扉が閉まる。急に世界から音が消えたかのような気分だ。
(さあ、行きますか。)
「そうだね、もう小声じゃなくていいんじゃない?」
「い、いやぁ、癖が出ちゃって…」
尻尾をくねくねと揺らして照れている。か…可愛い。
そそくさと歩き出したフェネについていく。しかし歩き続けることはなく、道路に出たかと思うとこちらに向かって振り向いた。
「ちゃっちゃと行っちゃいましょー!」
尻尾を振ったと思ったら、何かが下から組み上がっていく。…これは!
「どこでもド
「はいそこ気にしない!空間圧縮式移動用扉です!」
「いや、それもうどこでもドォ~?!
はいはいとフェネに押される。扉と言っときながら開閉部は無く、単なる
出た先はというと、
「何これ、でかーい。」
「棒読みなのやめて…。ということで、ようこそ!ここは学校の第一宿舎です!」
普通の人には凄いとしか言えないような、西洋建築の屋敷のような門が目の前に建っていた。本来の建物はまだまだ遠くにあるようで、ここから建物の入口までに数分かかりそうなほどの庭が門の向こうに立ちはだかっていた。
横には「
周囲を見渡してみたら通ってきた扉らしきものは既に消えていて、大きな通りの歩道に出てきたようだった。屋敷も大きいし、道も大きいが、これは本当に島の中に居るのだろうか。島と聞いてもっと小さいイメージがあったのだが。
「そうだ、ハイこれ。」
フェネはどこから出したか分からないが、スマホのような端末を渡してきた。
「スマホ?電源ボタンないけど…。」
「エナを端末に流すとロックが解除されるんだ。やってみて?」
「…どうやって流すの?」
「…はへ?」
私の場合、体液をエナに変換したことはあっても、エナを直接どうこうしたことはないのだ。加えて、未だにエナの正体を完全に掴めていない。
「お、おう…じゃ、じゃあ指先で能力を使うイメージでやってみて?」
指先かぁ…まぁ、とにかく指先に集中してみる。
「おぉ…」
数秒後、端末は無事に起動した。
端末を起動するのが日常的なことだとしたら、毎回集中しないといけないのだろうか。正直言って辛いのだが。
「君、今日までどうやって生きてきたの?!…はぁ、まぁそのうち慣れるよきっと。」
確かにすぐできたし、この調子でやっていけばいいか。
「じゃあ、それ持ってあれにかざしてみ?」
フェネが示した先には、表札の横に埋め込まれているタブレット端末があった。
言われるがままかざしてみると、文字とともに無機質な、それでも本物にかなり近い、機械音声が流れだした。
『倉敷舞華様…認証しました 館内の表示に従って進んでください または支給された端末内のマップを参照してください 次回からはこの説明は省略されます』
音声が終了すると門の半分が、金属製なのにかなり静かに開いた。さっきまでは門の格子が邪魔をして気づけなかったが、地面には石畳が敷かれ、植えられている草木はきれいに整えられていた。
吸い込まれるようにして門の敷居をまたぐと、青いきらきらした光が点灯し、進むべき道を指し示すように大きな屋敷のほうまで天の川のごとく続いていた。
「きれい…」
「この光はエナで出来ているから普通の人には見えないんだ。この機能は手に持ってる端末で変更できるから、中の構造に慣れるまではオンにしておくことを勧めるよ。」
「分かった。」
どれだけ道が複雑であっても記憶できる自信は正直言ってあるから、いらないんじゃないかとは思ったが、きらきらとしているので、飽きることがなければ点けておこう。とくに夜とか。
光に従って歩きながら見渡していると、あることに気づいた。
「ここに植えてある木って全部ちがう木?それにネームプレートが宙に浮いてる…!」
「そうだね。木は全部違う品種だけど、広葉樹で同じ時期に紅葉する木だけを集めてあるんだ。空中投影されているのは足元の光と原理は一緒で、エナの濃くなったところが見えるようになっているんだよ。エナを使用した機器は島中にあるから、いちいちびっくりしててもきりないよ。」
「なんですと!!」
近未来感をここだけでも感じるのに、まだあるというのですか!
「ほ…他に例えば?」
「うーん…あぁ、あれがあったなぁ…。」
「なになに?」
「それは、部屋に着いてからの方がいいかな。」
「えー…」
…ケチだな。
数分と言っても体感ではすぐに着いた。ポーチ(玄関扉の前にある雨避けを含むスペースである)に足を踏み入れると、道を指し示していた光と同じものが床に彫ってある溝に伝わっていって、魔法陣のような円形の模様を描きだしていた。
「この模様が出たらここの扉は解除されたってことだよー」
フェネはうんしょうんしょと言いながら重そうな扉を開けていた。流石に可哀想なので、後ろから開けるのを手伝ってあげると、確かに重かった。門のところは自動なのになぜここは違うのか答えを聞きたいところだが、大抵こういうのはオシャレだからと言われるのがオチだろうな。
入った先は脱靴場ではなく、高級ホテルのようなエントランスだった。ところどころ椅子と机が置いてあり、高い天井にはシャンデリアすらかかっていた。ここが寮なのか危うくなるほどである。案内をしていた光は、今度はカーペットの模様に沿いながら、エントランスから見える階段の方まで伸びていった。
「確か君は最上階の部屋だったはず。」
「あぁ、やっぱり1年生は昇り降りが大変な1番上の階的な感じ?」
「部屋を替えることは無いよ?」
じゃあたまたまなのだろうか。
「ちなみに何階?」
「6階」
え
「何その顔?!面倒くさ…みたいな思考がダダ漏れなんですけど?!」
「え…エレベータとかは無いんすか?5階以上の階数があれば付くもんじゃないんすか?」
「?…あるけど?」
既に私とフェネは階段を登り始め、ちょうど2階を過ぎたところだった。なんで早く言ってくれないかなぁ…。なんかもうエレベータの場所も聞くのが面倒くさくなってきたので、その勢いで6階まで登りきってしまった。
エレベータに乗らなかったから気づけたことだが、5階までと6階とでは間取りが違うらしく、5階までは廊下の両サイドに部屋があるようだったが、1番上は片方にしか扉が付いていなかった。さらに、6階につづく階段だけ少し形状が違っていて、この感じだと、一部屋の大きさが下の階よりも大きいことになる。いわば最上階故の特権というやつだろうか。
「さぁ、ここだね。端末をかざして?」
フェネが立ち止まったのは、あろうことか角部屋だった。
…いいんですか?そんな贅沢をして?
先陣を切って進んでいた光も今やネームプレートを『倉敷舞華』とライトアップさせていた。さっきからの雰囲気から予想はしていたが、完全な一人部屋だった。ほぼ一人暮らしである。
端末をかざすと「ピッ」という音が鳴り解錠される音がした。開けるとホテルみたいな部屋が!
……ではなく、無機質なコンクリート打ちっぱなしのところに備え付けらしきベッドと机と椅子があるだけだった。見えるだけでも確かに広いっちゃ広いのだが、今までとの落差のせいで言葉が出なかった。
「そんなに落ち込まなくても…。ちゃんと解決策あるから!入るよ?」
玄関と呼ばれるところすらないが、一応靴は脱いだ。館内全体で空調管理をしているのか、靴下でコンクリートの床の上に立っているというのに足が冷えるということは感じなかった。入ると向かって右側にキッチンがあって、カウンターで対面出来るタイプのようだ。トイレはお風呂と独立していることにちょっと安心しながら、ほとんど何も無い広い部屋の真ん中に立たされていた。
「まずは端末のアプリを確認してみて?」
そういえばさっきから画面がつきっぱなしの端末を改めていじってみた。学校に関するようなアプリや銀行関係のアプリまであったが、1番気になったのが、
「模様替え?」
アプリをタップするとアンケートから始まった。家具のカタログからどれがいいかとか、色や雰囲気まで聞いてきていた。まずは適当に憧れだった大きなスピーカー付きの壁掛けテレビと、背もたれがところどころで高さの違うL字の大きなソファとオシャレなライトを選び、色は無彩色をメインに、モダンということにしといて、確定ボタンを押した。
すると部屋中が淡い青の光に包まれ、気づけば要望通りの家具が置かれ、打ちっぱなしのコンクリートを一部残して壁紙が貼られているという何ともオシャレな感じになっていた。
「お?だいたい決まったんだね。って待って座らないで!」
ソファに座ろうとしたのだが怒られてしまった。が、理由はすぐに分かった。
「な…!実体がない!!」
「これはいわゆる立体ホログラムって言うやつで、家具はそれに合わせて配置する必要があるんだよ。普通なら前もって聞けるから今日までには搬入出来るんだけどね…」
「なにこれ…凄い!」
「ついでに言っとくと、通ってきた共有部分もホログラムだから、頻繁に内装も雰囲気も変わって迷うわけさ。」
なるほど、そういう訳ね。
「そういえば、まだ終了されてないはずだよ?」
言われて見直すと、家具の位置の確認のページになっていた。家具の位置に何ら不満はなかったので、そのまま確定を押すと壁紙や雰囲気はそのままに、テレビとソファだけが薄くなっていた。
「明日には搬入されるはずだから、明日のお楽しみだね!」
殺風景な部屋は各自の好みに合わせるためだということに、さっさと説明してくれよとは思いつつ、今までの生活だったら実現しえない現象を体験させて驚かせようという意図が読み取れてしまって、入った瞬間にがっかりした顔をしたのは少し申し訳なく思えてきた。
「なーんだ、なんかごめんね露骨にがっかりしたりして…。荷物出していい?」
フェネの頷きを得たので、バッグから万能折り畳みツールを取り出し、刃の部分を開いた。フェネはぎょっとしていたが気にしないことにしよう。自分でも痛いからやりたくはないんだが、コピーするよりペーストする時の方が難しいのだ。決して自傷行為をしたいわけではない。
利き手じゃない方、左手に刃を突き刺す。刹那、鈍痛とともにそれ相応の出血が発生し、それと同時に私は血をエナに変換した。赤黒い血が真っ白に変わっていくと、段々とコピーした物の形状を取りだしていった。
気づけば本、服、雑貨に、思い出のある物、ガラクタが足元に山積みになっていた。
「こんなに入ってたんかいっ!?そう思うと、発動条件に難ありだけど…便利だねぇ…。…って、カラーボックス?!」
収納家具がそういえば無いと思って最後に出したのだ。ホログラムが付け足されてポップな感じの色だったはずが、黒色に様変わりしていた。なるほど、家具と認識されたら設定しなくてもホログラムの影響を受けるのか。
いずれ部屋作りをきちんとしようと思いつつ、適当な入れ物に小さな物を入れていく。若干片付いた山場から見えた卓上時計は、気づけば昼時を示していた。
「ねぇ、 ここって宿舎といっても学校の寮でしょ?食堂とかランドリーとか掃除当番とかあるの?特に食堂!お昼はおにぎりでしのげても夕ごはんが一寸先も闇になっちゃう!」
「あるにはあるけどお金がかかるから、行くところは限られてくるかな…。」
「え?お金?私そんなに持ってきてない…どうしよ…。」
「あぁ、その事なんだけど、3月末までは1日600円分の
最初見たときに確かそんな感じのアプリがあった。
適当に投げてた端末を拾い寄せて立ち上げる。ブブッとバイブレーションが鳴ったかと思うと端末はエナによる認証を求めてきた。
若干イラつきながら認証をパスしアプリを開くと確かに600ポイントが入っていた。って私口座作った記憶ないんだけど?
一応聞いてみたら簡潔に返ってきた。
「この島の中では個人をIDで認識してて、一括でなんでも出来るからね。口座じゃなくてIDに入金されてるイメージ。」
じゃあ端末をいちいちかざしたのは…
「安全の為に立ち入り制限がかかっているからね。そのロック解除だよ。」
「食堂で食べるためには?」
「端末でタッチ決済。って食いしん坊かっΣ\(゚Д゚;)」
ツッコミの狐パンチを喰らったところで、深刻な疑問が浮かんできた。
「1日に600Pって…足りる?」
「うーん…1番安いのがおにぎり2個入りで200Pだったなぁ。」
「ギリギリじゃん!!」
これからひもじい思いをする時がくるかもと想像するとお腹がすいてきてしまった。
山を片付けるためにカラーボックスが2つに増えてしまった部屋で母が作ってくれたおにぎりを頬張りながら、次は何をしようかと考えを巡らせていた。
この宿舎内を見てまわりたいし、外もぐるっと一周まわって地理を把握したい。ただ、まだ試験すら受けていない私が在校生と鉢合わせすることだけが心配だった。「ねぇ、あなた新入生?」とでも話しかけられたら間が持たないのは確実である。でもやはり、見ておかないと明日の実技試験の時に迷ってしまうかもしれない。
そんなことをうんうんしていると、考えごとが全て顔に出ていたのか、フェネから提案が出された。
「今からすることもないし、この周辺を見てまわらない?」
向こうから言ってくれたんだし、悩んでいても仕方ないのでその提案を
「うへぇ…広すぎんでしょ…。」
「しょうがないね。なんせ敷地は東京ドームが何個も入っちゃうんだからね!」
宿舎の周辺をぐるっと一周するべく私は島の中を歩いていた。
まず行ったのは学校である。学校の正門までは数ブロックの距離のようだから遅刻の問題は無さそうではあった。
話によると、さっきまでいた宿舎も学校の敷地内にあるらしいのだが、ほぼ街である。学園都市というものだろうか。何かの施設のようなのが乱立しているかと思えば、急に集合住宅や一戸建ての区画が現れるという、なんとも不思議でありながら雰囲気は統一されているという感じだ。ただ、規模がデカい。これは歩くもんじゃない。車か自転車なんかで移動するべきだと思うほど1区画の大きさが大きかった。確かに車(といっても無人バスが大半だが)はちらほら通ってはいるが、歩いている人は一切いなかった。ここが本当に島なのかが疑問になってきた。
次は商店街である。といっても都市部のショッピングセンターという感じのものや、アーケード的な場所、レストランやゲームセンターまで、一通り全て揃えました感漂う、これまた広い地区だった。流石にここは人が多いようだが全員エナを認識しているようだ。電光掲示板ならぬエナ光掲示板は宙に浮いてるし、垂れ下がっている広告も装飾もエナで出来ていた。
「完走した感想をどうぞ。」
「…本当にここ島であってる?」
「なんなら海岸まで行く?ここから10数キロあるけど?」
「いや、やめとくよ…。」
きっとここから最短距離でそうなんだろう。にしても広いことに変わりはない以上に、想定される島の規模がどんどんと大きくなっているのは気の
バスか自転車でまわれば良かったものの、フェネの「ここは歩いた方が楽しいよ」という目によって強制的に歩かされた為、足は使い物にならないほどにプルプルと小刻みに震えていた。この足でよく帰ってこれた!偉いぞ自分!
安堵したのか、疲れが溜まりすぎていた私はそのあと何をしたのか正確に覚えていない。
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