五話 『コンビニ』

お嬢様というのは大変だけではなく、退屈ということも思い知らされた。だってほとんど、車で送迎してくれるのだから。まぁ、これに関しては過去の自分を呪うことしかできないけどね。だって車の送迎じゃなきゃ嫌だーー!ってだだこねたのは私だし。



私もお兄様みたいに徒歩で登校すればよかったなー、と少しだけ後悔した。まぁ、車で送迎してくれる方が楽と言えば楽なのだが……今の私には庶民の感覚が染み付いている。ポテトチップやホットスナックとか食べたいよ!!ここは日本が舞台だから、それもあるんだけど今までの言動を見たらさ……コソコソとコンビニ行かないと駄目なんだよ!



しかも学園内にあるあそこぐらいしか行けるチャンスがないから、あれ以来食べれてない。食べられていない原因は華鈴様の件で取り巻きが増えて常に私と行動してくれるから。嬉しいけど複雑



「はぁ……」



何とか食べたい。肉まん、アメリカンドッグ、唐揚げ、ポテトと美味しいものをあげ出したらキリがない。両親が連れてってくれるところも美味しいのだけれど、やはりあの味は出せないだろう。小学生は高級料理しか食べてなかったからなぁ。そんなんだから我儘で傲慢になったんだよ!と、思いながら部屋を歩き回る。食べたい!何でもいいからホットスナックが食べたい!



「ぬ、抜け出せるかな……?」



初めての抜け出し。これがバレたら後でコッテリ怒られると思う。ーーそれでも食べたいのだ。



「よーし、コソコソっと……」



「ーー透華?」



出ていこうとすると、お兄様が来たではありませんか!…お兄様ーー!どうかお見逃しをーー!



「お、お兄様……」



「どこか行くのか?」



や、やばい!何で答えればいいの?コンビニ行きたいと駄々を捏ねたら行かせてくれるのだろうか?いや、でも、お兄様だし行かせてくれそ……とりあえずここでグダグダしてたらお父様とお母様が来てしまうかもしれないし…



「ええ、用事です!」



「ふーん……そっか。気おつけてな。ーー何処行くか知らないけど、行くならもっとコッソリ行った方がいいぞ」



そう言って、お兄様は自分の部屋に戻っていく。お兄様ーー!ありがとうーー!と心の中で叫びながら私は外へと出ていくのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



一応顔見知りに遭遇してしまった時誤魔化せるように眼鏡とマスクを付けた。まぁ、同級生がコンビニに行くなんて聞いたことがないから多分いないだろうけど、念には念をだ。



「まず、手始めにポテトチップスを買おう!そして次はアメリカンドッグ!」



前世で好きだった食べ物をカゴの中に入れていく。やはり、このときが一番楽しい。前世はバイトでやりくりしていたけど今は好きなものを何でも買えるのだ。それは嬉しいけど、やはり自分で稼いだお金で買うから嬉しさが湧くんだよなぁ。でも、今日のところは好きなだけ買っていこう。二回目以降は考えるとして。



「……本当にここが香織が来たかったところか?」



「ええ、そうよ」




そう思っていると、見覚えのある声が聞こえてきた。いや、私の聞き間違いかもしれない。とゆうか聞き間違えだろう。何でここに香織様と王子が来るのだ。場違いどころの話ではない。



「いつものところでもいいけど、やっぱりああいうのはたまに食べるのがいいのよ」



テンションマックスな香織様に戸惑っている王子を尻目に私は会計をし即座にこの場を去った。



「あそこのコンビニもう行けない……」



ため息を吐き、私はアメリカンドッグを齧った。

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