四話 『彼女疑惑』
お嬢様は大変だ。習い事がぎっしりで休む暇がない。小学生の頃は我が儘を言ってあれこれ理由をつけてサボってたけど。それでお母様に怒られもしたな……
「今は普通に頑張ってるけど…」
この様子がそんなに珍しいらしく、お母様やお父様や使用人やあの温厚で優しいお兄様ですら驚かれた始末だ。……まぁ、前世の記憶が戻る前の私は凄く我が儘だったから驚かれるのも無理もない話な訳だけど……最初の頃は熱でもあるの?と心配されてた程だし。
「ただいまー」
そう思っていると、お兄様が帰ってきた。城ヶ崎悠真。二歳年上の兄だ。私はお兄様のことをとても尊敬している。優しく紳士でイケメンな上勉強も運動もできるというハイスペックだから世の女性が放っておく筈もなくモテモテだ。モテモテなのにそれを鼻にかけないお兄様は完璧だと思う。何で同じ環境に育ったのにこんなに差が生まれるの?と思った程に。
ちなみに原作ではお兄様は出ない。存在だけは透華の口からちょくちょく出てはいたけど……こんなにイケメンなら原作で見たかったなぁ……漫画に出てたら絶対に人気キャラになってたと思うぐらいにはお兄様は見た目も中身も完璧人間だ。……血が繋がってなかったら私もお兄様のこと好きになっていたのでは?と思うほどには……と思っていると、
「透華、今日も真面目に習い事に行ったんだって?それはいいことだと思うけど本当にどうしたんだよ?」
「心機一転って奴です」
と、私はキッパリとお兄様にそう言う。前世が貧乏性だったもので習い事には金が掛かっているのに金だけ失っていくのは性に合わない。ただ、習い事が多すぎるので今度減らすようにとお父様に掛け合ってみよう。
「ふーん、そっか……それだけなら別にいいけど」
そう言って私の頭を撫でるお兄様。やはり、お兄様に撫でられるのは気持ちが良いし、心地が良く、そして安心する。こんなに素敵なお兄様がそばにいておきながら何で漫画の透華はあんな我儘令嬢に育ってしまったんだろう?と言うぐらいだ。
「透華ー?大丈夫か?」
「はっ!ええ、はい!大丈夫です!」
そんなことを考えていると、心配そうな目つきでお兄様が私を見ていた。いけない!お兄様を不安にさせてしまった!そう思って謝ると、お兄様の携帯が鳴った。
「あ……」
そう言って少し嬉しそうにお兄様はそこから出ていく。何あの嬉しそうな顔!厳密に言えば私以外では多分気づかないであろう……ぐらいの表情の変化だけど。でも、あんなに凄くいい表情するお兄様は珍しいから、ついこっちも嬉しくなってしまった。
「お兄様の恋人かしら?」
恋人なら、私にも紹介してほしいんだけどなぁ。昔の私ならともかく、今の私なら紹介しやすい筈……
「あれ?透華。まだいたの?」
いつの間にかお兄様が戻っていた。少しだけ口角が僅かに上がっているのを確認してから私はお兄様に詰め寄りながらもこう言った。
「お兄様!彼女なら私に紹介してくださいよ!」
「彼女?そんな人いないけど……?」
ええ~~!?嘘だぁ!なら、何故そんなに嬉しそうだったの!?と、聞いてみるとお兄様は恥ずかしそうに目を逸らして、
「ああー……うん、とにかく、透華には関係のない話だから」
そう言ってお兄様は自分の部屋へと戻っていく。……怪しい。絶対にあの反応彼女じゃん!!
「納得いかないけども……」
ただ、私がもしお兄様の立場なら、根掘り葉掘り聞かれるのは嫌かも。お兄様だって隠し事の一つや二つすることもあるよね!
「うん、だからこの話辞めた」
そう言って私も自分の部屋へと戻っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます