最終話 やっぱり「人体支配」を良いことに使って生きていきます。
「お、お、お、おおおお……犯すって……‼ レン、自分が何を言っているのかわかっているのか⁉」
「ええ、わかっています。クライス殿に滅茶苦茶にしてもらおうと……」
「おおおおお……お姉さま⁉ 聞き捨てなりません!」
珍しく、ルリリが立ち上がり姉へ抗議の姿勢を取った。
「クライスさんに先に告白をしたのは私です! それを横からかっさらうなんて! お姉さまズルいです!」
「何もズルくはない。それに順番というのなら、私の方が先だ。ルリリがまだ言葉も覚えていない幼いころ、私とくぅくんは結婚の約束をしていた。ね~、くぅくん?」
完全にキャラが崩壊しているニッコリ笑顔で話しかける。
「ちょ、ちょちょ待て待て待て……今はルイマスが死んで微妙な時期で、婚姻を結んだりそういうことは控えた方がいいんじゃないか?」
「そうでありましょう。ですから、犯していただくのです。これはあくまで罪の償い。私は以前、あなたを救うことができなかった。気づくことができなかった。その償いの一夜限りの肉体の関係。クライス殿の今後を縛るものでは一切ありません。ですので好きにしていただきたい。クライス殿が望むのならどのような苛虐でも受け入れましょう。それこそが償いであり———、」
頬に当てていた俺の手をレンは自らの胸に持って行き——強く押しあてた。
「———それこそが私の愛です」
「わひゃあッッッ⁉」
急に暖かくて柔らかい、ふよんとした感触が手を伝わってきたので、思わず跳びあがってしまった。
「あ、ああああ……愛も罪も私にもあります! クライスさん!」
ルリリは立ち上がり、ずんずんと俺に向かって突き進み、服をぱさあっと脱いで、一瞬で全裸になった。
「以前は、うやむやになってしまいましたが……私もあなたに抱かれる覚悟はできています。クライスさん……お姉さまではなく私を……!」
恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、俺の手を取ろうとしてきたルリリ。
「ヒェ……!」
それから逃げるように飛びのいた。
「ど、どうして逃げるんですか⁉ クライスさん! 私じゃダメですか⁉」
「その前にどうしてそんなにやることが極端なんだ⁉」
それは姉妹、両方ともに言えることだ。
「ルリリ、さっきからお前は見当はずれのことを言っているぞ」
レンはルリリの肩を掴み冷静に諫める———かと思ったら、
「どうして自分一人で罪を償おうとするんだ? 一緒、だろ?」
ぱさっと服のボタンを押すと見事に脱げ落ちて、一瞬で下着姿になった。便利なことに彼女の服は一つのボタンで下の方まで脱げる仕組みになっていたらしい。
ルリリはうるんだ目で「お姉さま……」と感動しているような目で見つめていた。
「さぁ、行こう」
「はい、お姉さま!」
レンは下着を脱ぎ、ルリリと同じ全裸になり、二人ならんで俺へと歩み寄って来る。
「「クライスさん(殿)……」」
頬を赤らめた生まれたままの姿の二人の王女が、目を閉じて唇を突き出し、顔を寄せて来る。
俺は———その口づけを———受け入れ、
———
なかった。
「「え⁉」」
二人の動きを「人体支配」の力でピタリと止める。
驚く王女様二人……いや、片方は王位を継いで女王になったんだった。その彼女たちに向かって懐に忍ばせていた、睡眠薬を取り出し、
「寝ろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」
逆の手でこれまた忍ばせていた扇でぱたぱたと仰いで、二人に粉末状の睡眠薬をかがせる。
「こ、これは前にあの部屋で……」
「クライス殿……どうして……?」
睡眠薬を嗅いでしまった二人はそのままその場に崩れ落ちるように倒れ、夢の世界へと旅立った。
「ふぅ……どうして、か……。俺はな———意気地がないんだよ」
そう、告げて眠る二人が風邪をひかないように布を被せてやり、ベッドに運んでやった。
俺はこの世界で良いことをして生きていく。それなのに、姉妹丼なんていかにも鬼畜エロゲーの主人公っぽくて俺の主義に反する。俺はもっとこの世界で普通に生きていきたいのだ。普通に恋愛をして、普通に奥さんを作って、普通に子供を育てていく……。
例えこの世界が鬼畜エロゲーの世界だろうと、「人体支配」なんてチートスキルがあろうと、その平凡な幸せに勝るものはないのだから———。
◆
次の日、目が醒めた二人からメチャクチャ怒られた。据え膳食わぬはうんたらかんたらだったり、女があそこまでするのにどれだけ勇気がいったかうんたらかんたらと二人から何時間にも及ぶ説教の末に、王都への帰路、一言も口を聞いてくれなかった。
そして、俺はルイマスとして城で振舞い続けた。
だが、段々とみんなの前に姿を現す回数を減らし続ける努力もした。
レンに王位を譲り、邪魔なルイマスは適当なところでこの世界からフェードアウトしなければならない。いつまでもい続けたらもうレンの時代なのに旧時代の遺物として邪魔になってしまう。
となると、俺はそのうちルイマスではなく、別の姿で生き続けなければいけなくなる。死んだクライス・ホーニゴールドでもない、全く別人の……。
「私は、ナッソーで見たくぅくんの姿がいいです」
城のテラスで、王都の街を見下ろしながら、レンがそういった。
彼女の綺麗な金髪が風に揺れる。
「私は、どんな姿でもクライスさんであれば受け入れます。だって愛していますから!」
そう、ルリリが胸を張る。
二人の姫を両側に侍らせているという誰もがうらやむシチュエーションだが、俺の姿はルイマスのまま。これではただの親子の光景だ。
「そうだな……じゃあ」
彼女たちの父親ではいつまでもいられない。
俺は姿を———レンの言葉通り、ナッソーで変えた痩せて健康的なクライスの姿に変えた。細身でイケメンになったので、クライス・ホーニゴールドとは気づかれないだろうと思う。
「その姿も素敵です。クライスさん」
にっこりとルリリが微笑む。
「ありがとう。だけど、名前が必要だな……クライスは死んでいるんだし、もう人前でクライスとは名乗れない……なにか、いい名前が……」
「クゥ」
「え?」
レンが柔らかな笑みを向けて、もう一度「クゥ、それでいいんじゃないですか? くぅくん」と言った。
俺はその笑みにつられてしまい、フッと笑ってしまったが、
「まぁ。いいか」
と、同意した。
「クゥ。名字や身分はこれから考えるとして……そう名乗って生きていこう」
鬼畜エロゲーの主人公ではなく、二人の姫を支える一人の善良な支援者として。
これから、この国はまた脅威に襲われ続けるだろう。ニア帝国の侵攻は食い止めたとはいえ、帝国が滅んだわけではないし、この国や二人の
これからも「人体支配」スキルを使って二人を守っていこう。
腕を絡めて来るルリリを受け入れながら、肩に手を置いて寄り添ってくるレンを頼もしいと感じながら、俺は遠くの空を見つめ続けていた。
—————————————————————————————————————
※あとがきのようなもの。
とりあえず、ここまでで第一部完ということで、クライス・ホーニゴールドの物語は一旦区切らせていただきます。
ここまでお付き合いいただいた読者の皆様に多大な感謝を‼‼‼‼
これから、この『鬼畜エロゲーのクズ主人公に転生したが、エロスキル「人体支配」を〝良いこと〟に使います。』のブラッシュアップ作業に入る予定です。
作者である私が未熟な点が多く、おそらく数えきれない誤字脱字があり、その上実は毎日、コメントの反応を見て展開を考えていたこともあり、ところどころキャラの性格が変わっている部分があると思います。その修正作業をするつもりです。なのでしばらく時間が経って、気が向いたらまた読んでみてください。嫌いだったキャラをもしかしたら好きになれるかもしれません。
続きを書くことは現在考えていません。書こうと思えば、まだアリスだったりミストだったり、掘り下げていない部分があるため、続きを書くことは可能ですが、アイディアが思いついていて他に書きたい話があり、そちらの執筆を優先したいため、いったんこの作品はここまでで完結とさせていただきます。
繰り返しになりますが、作者自身の力量不足で風呂敷が無限にひろがってしまい、区切りがいいところまで20万文字以上使ってしまう大長編となってしまったこの作品を、毎日一万人近くの読者さんに読んでいただけたこと、深く感謝をしております。
特に定期的にコメントを書き込んでくださった読者の皆様! ここまで面白い作品に仕上げることができたのは、あなた方のおかげです!
本当にありがとうございました!!!!
鬼畜エロゲーのクズ主人公に転生したが、エロスキル「人体支配」を〝良いこと〟に使います。 あおき りゅうま @hardness10
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