第44話 城を出る一行と囚われのルリリ
どうしてレンと王妃が俺と同じ
他の房が開いていないとの事だったが、それでもレンと王妃を無理に房に入れなくてもいいだろう。それに捕縛というなら、王族なので牢に入れるのではなく、見張りを付けて部屋に監禁しておくのが普通だ。
それなのになぜあんな屈辱的な扱いを彼女たちが受けているのか、疑問だった。
蓋を開けてみれば何てことはない———、
「こちらです、レン様」
「ああ、助かる」
衛兵に、俺達は城の地下道を案内をされている。
———城の中にレンに協力する人間がいたのだ。
真面目そうな先頭を歩いている青年。彼が、レンの脱獄の手引きをしている。
この城の衛兵には三つの派閥が存在している。ルイマス派・レン派・エドガー派だ。
最高権力を持っているが、能力に疑問が残るルイマスに何も考えずに忠誠を誓っている人間。能力とカリスマ性でレンに心酔してる人間。そして、金と女のおこぼれを貰う私利私欲を満たしたいために大臣に付き従う人間———そういった派閥がある。
レンはあらかじめ自分の派閥の人間に声をかけていたようだった。
だから、ルイマス王に拘束された後、大臣の隣の房に俺が入れられるように指示をし、その房に自分も入れてもらったというわけだ。
恐らく、自分の知らない情報を俺と大臣から引き出すために。
そんな彼女に協力してくれた衛兵は、地下道の出口まで案内しきると、
「この船に乗って城を脱出してください。お気をつけて。御武運を」
湖を渡るための用意した小舟を手で指し示した後、彼は、レンに敬礼を向ける。
「助かった。お前も気を付けろよ」
「安心してください。この城の兵士ならほとんどレン様の味方です。私が脱獄を手引きしたと知れても、誰も密告するものなどいませんよ」
ハハと笑った彼は笑った。
「レン様、
「ああ———その時は」
「いやその時じゃなくて——、」
いつか起こすクーデターの話をし始めたので、俺は口を挟んだ。
そんな話は———不毛だ。
「———衛兵さん、できれば君にはこれから協力して欲しいんだけど。具体的に言うと今晩」
「今晩?」
「ニア帝国がシーアに来る。それを迎え撃つために軍勢が必要だ。この城の衛兵にも協力して欲しい」
「そ、それは流石に……」
彼は上を見上げる。
遥か上でふんぞり返っているであろうルイマス王のことを考えているのだ。
「我々は王の命令でないとまだ動けませんので……」
「それなら、大丈夫だ。王はさっき言っていただろう? 余が直々に指揮を執るって」
「そうは言われましたが、結局王はルリリ姫を連れて自室にこもりる始末。未だに何も命令を下していない様子でして……そうなると我々には何もできず、レン様に頼るしかないのが現状です。この国を守る兵士としてはお恥ずかしい話ですが……」
苦々し気に衛兵は答える。
「引きこもっている……か」
太陽は既に真上にある。朝の裁判からだいぶ時間は経ち、俺の報告を信じているのならもうとっくに戦の準備を始めているはずだ。
なのに何もしていない。
俺が苦し紛れに虚偽の報告をしたと判断したのか、それとも王都で迎え撃とうと考えているのか、どちらにしろ港町シーアを救うつもりはなさそうだ。
「本来であれば〝戦の塔〟に灯をともし、諸侯の兵士を集めなければいけないのに……!」
「〝戦の塔〟?」
「あれです」
レンが指さすのは王都の街並みの奥に、突き出た塔だ。灯台のように先端から少し下の部分に空洞がある。
「あの塔に明かりを灯し、ナグサラン領内の諸侯の軍勢を集めるのです」
「なるほど」
いいことを聞いた。
これは使える。
「君。王は今引きこもっているが、城に待機しているナグサラン軍兵士に戦の準備をさせておいてくれ」
「あ、あの……それは、王の命令なければ……!」
「王の命令はある。そして、あの〝戦の塔〟にも火は灯る。これから俺たちが灯しに行く」
「で、ですから、王の命令がなければ」
「ある。あるようにする。俺がする。まかせろ」
「は、はぁ……」
困惑する衛兵に対して無理に言い聞かせる。彼は助けを求めるようにレンを見るが、レンもこれからの計画がわかっていないので首を振るしかない。
それを「諦めろ」と言われているように捉えたのか、衛兵は「……わかりました」と納得していない様子だったが受け入れた。
「あと、そうそう……あの〝戦の塔〟には——王が
「???」
ますます意味が分からないと衛兵は首をひねる。わからないだろう。時間が許すのならば説明したいところだが、そんな時間はもう、ない。
「行こう」
「え、ええ……」
小舟に乗り、レンも大臣たちも続く。
「クライス殿———何を考えているのですか?」
俺の中にはプランがある。
だが、それを今細かくレンに説明したところで理解はできないし混乱させるだけだろう。
だから、必要最低限の、これから〝やること〟だけは言っておく。
「———俺は今回の帝国襲撃事件を使って、レン様。あなたを王女から女王にするつもりです」
「何ですって?」
「王に、〝光堕ちの呪い〟をかけます」
「………? それは……! ハァ……クライス殿、あなたの考えは壮大で高度過ぎる。やはり、愚直な私には理解できそうにない」
首を振って、諦めたレンは額に手を当てる。
———まぁ、見といてくれって。
チャプチャプと、ファブルが漕ぐ小舟が対岸へと近づいていく。
◆
ルイマス王の私室。
王都を一望できる城の最上階にあるその部屋に———ルリリはいた。
「ルリリや。もっと笑っておくれルリリや……」
「…………」
年老いた父ににこやかに笑うように言われるが、とてもそんな気分にはなれない。
何故なら、彼女は
巨大な鳥かごのような形をした檻に、まるで愛玩動物の様に閉じ込められていた。
おとなしく正座をして、目を閉じてジッとその屈辱に耐え忍んでいる。
「余が信頼じられるのはもはやルリリだけじゃ……愛しておるぞ、ルリリ。なのになぜじゃ? なぜせっかく目が見えるようになったのに余を見てくれん……」
悲し気に言うルイマス王だが、ルリリに目を開く気はさらさらなかった。
これ以上、権力に固執したせいで
「……こんなことをしている場合じゃないのに」
「ルリリ? なんじゃと? 今なんと言った?」
「こんなことをしている場合ではありません。お父様。今すぐクライスさんとお姉さまを解放して、クライスさんの言う通り帝国の軍勢に備えないと」
「お~お~……ルリリ。そんな声を荒げるでない。帝国の軍勢なら迎え撃つ。迎え撃つが、その前にこの城には敵だらけだ。どいつもこいつも余のいうことをきかん愚か者ばかりだ。その愚か者どもを一掃した後に、な?」
「そんな———!」
馬鹿な事を! と喉から出かけた言葉を必死に抑えた。
もう———父はダメだ。
自分が何とかしなくては……!
だが、今のルリリは無力だ。
「今すぐにでもここから出て、クライスさんの所に走っていきたいのに———」
裁判の時から、ルリリは何回も
やっぱり、クライスさんの力がないと———!
「走る? 何を言っておるのだ、ルリリ。お主は歩くこともできんか弱い存在じゃろ?」
「お父様?」
父が何を言っているのか、娘には理解ができなかった。
朝、自分が走って王の間に辿り着いたのを見ていなかったのか? というよりも、あの時———父は自分が走っていることについて何も言ってはくれなかった。
長年、歩けなかった娘がようやく歩けるようになったと言うのに。彼はそのことに対して何も喜んでいるリアクションをとらなかった。
「ルリリ。お主はそのままでいてくれ。どこにも飛び立立つことがない、余の傍にいてくれる可愛い小鳥で……」
「———ッ!」
「ルリリ……信用できるのはお主だけじゃ。余を裏切らないお主だけ……」
ルリリは気づいてしまった。ルイマスは娘を愛しているんじゃない。
父がいなければ何もできない、裏切らないのではなくて〝裏切れない〟弱い存在を愛しているのだ。
そのことに気づいた時、この空間にこれ以上存在し続けるのが耐えられなくなった。
鳥肌が立つ。気持ち悪さで今すぐにでも死んでしまいそうだ。
いっそのこと、あの窓から飛び降りれたらいいのにと、外を見る。
「……?」
城を囲む湖のほとりに、小舟が見える。
———目を凝らして見る。
クライスの治療直後はぼんやりとしか見えなかったが、その成果なのか、慣れると———彼女自身気が付いていないが———人並み以上の視力で物を見ることができるようになっていた。
岸辺にいるのは金髪の男性と女性と、あと数人……。
「———ッ!」
金髪の小太りの男がいた———クライスだ。
遠くからでもはっきりと見える。
彼らは脱獄したのだ。
やっぱりこんなところにい続けてはダメだ。
「—————ンッ!」
「ルリリ? どうしたんじゃ? ルリリ?」
今すぐにでもここを飛び出していかなければならない理由ができた。
なのに、まだ魔力はルリリに馴染んでおらず、どんなに頑張っても
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