第37話 王妃に悲しい過去
「人体支配」スキルの対策もされていた。客間に現れた衛兵たちはいの一番に俺の視界を塞いだ。間違いなくクライスの「人体支配」がどういうスキルなのか、把握されていた証拠だ。
「ルイマス王! 私は国家転覆など、そんなことはしません! 信じていただきたい! 一体何がどうなってこの状況になったのです! 冷静になってまず説明を———!」
「フンッ……すっとぼけて、でもいいでしょう……教えてあげましょう。どうしてあなたの企てが明るみに出たのか!」
と———クロシエがルイマス王の代わりとばかりにズズイと前に出る。
「昨晩の話、聞かせていただきました」
「昨晩の話?」
「あなたが追放されたシドニー・ヨセフの息子であるという話よ!」
ビシッと指を指される。
なるほど……うかつだった……。
信頼を築いたレンとルリリには話しても大丈夫だと思ったが、まさか王妃にまで聞かれているとは……。
ようやく、俺が国家反逆罪の疑いをかけられ、こうやって拘束されいている経緯をわずかばかり推測することができた。
「た、確かにそうですが……ですが、私はルイマス王に対して恨みを抱いてこの城に復讐しに来たわけではありません。あくまで医者として、ルリリ姫の治療に来ただけなのです!」
ここですっとぼけても無駄だろう。だから、誠心誠意正直に言うことにした。
だが、その誠意もクロシエには届かないようで、こちらを小馬鹿にするような目を崩さない。
「嘘をおっしゃい。ヨセフ家の人間がそんな手ぬるい人間なわけがないじゃないですか。どうせもう、ルリリもレンも……ああ、アリスとかいうあのダークエルフのメイドも〝淫魔の魔眼〟の力でもう
「あの……さっきから言っているその〝淫魔の魔眼〟って何なんですか? 私にはさっぱり……」
いきなり知らない専門用語出すのやめてほしい。
「スレイブキングダム」のゲーム上で出なかった……と思う。もしかしたら読み飛ばした箇所で出てきている名前かもしれないが、こっちはHなシーンを見るために買ったのであってそんな中二くさい設定の単語なんて、読もうとも思わない。
「知らないわけがないでしょう? ヨセフ家の人間が秘匿していた、ヨセフ家の人間しか使えない秘術よ」
知らない。
「〝淫魔の魔眼〟———目が合っただけで女を魅了し、思い通りに心を操る。その目で見つめられたら、たとえどんな女であっても魔眼の持ち主に股を開き、精を与えられたら一生服従する奴隷となる」
しかも微妙に「人体支配」と違う。
「その〝淫魔の魔眼〟でヨセフ家の人間は
ビシッとまた指を突き立てるクロシエ。
考えて……ないんですけど……。
「あの……ルイマス王はそのことを知っていたんですか?」
「知らぬ。余も初耳じゃったわ。ヨセフ家の人間がそうまで邪悪な存在だったとは。知っていたらシドニーも追放などせずに即処刑をしておった」
「じゃあ……クロシエ王妃が嘘を言っている可能性もあるんじゃないですか?」
どうしてそれを疑わない。
確かに「人体支配」の力を使って、〝光堕ちの呪い〟と称し、クロシエを多少
彼女が自分の身に起こったことで、推測を巡らせ、妄想の域に達した推論をのたまっている過ぎない可能性もあるだろう。
「嘘のなわけがないでしょう! だって———、」
その俺の言葉に、激昂したのがクロシエだった。
まぁ否定するとは思っていたが……、
「私のお母さんも、おばあちゃんも! あなたの祖父、アドルフ・ヨセフの———おチ〇ポ奴隷だったんですから‼」
「———何だって?」
王の間という
「私以外の家族みんな、あなたのおじいさんの奴隷だったって言ってんのよ! 忘れもしない……お父さん家を空けるたびに、あなたの祖父、アドルフ・ヨセフがやって来て、私たち家族に体を要求してきた。普通は断るべきなのに……みんな喜んでアドルフに従っていた。嫌がる様子もなく
いや、お前がこの世界で一番
若い男を食い漁って、自分の逆ハーレムを作りたいから国王たちを亡きものにしようとして帝国に密通していたって
まぁ、クロシエのお父さんに関しては妻をNTR続けられていたということだから同情するけど……お前に対しては……。
「あなたにわかる⁉ 孫に見せつけるようにアへ顔ダブルピースで家族でもない男とセックスしているおばあちゃんを見た私の気持ちが!」」
それに関しては同情する。
自分の親のセックスでもきついのに、祖母のセックス何て見たら……しかも不倫。トラウマになって一生‶性〟というモノから遠ざかると思う。
逆に言うとそんな経験をして、よく今のような性格になったな。いや、むしろそんな経験をしたからか……反動で男を支配したいと強く望む野心的な性格に変わってしまったのか……?
というか……クライスの「人体支配」スキルってそういう設定だったの?
特殊な一族が代々使える技というかなんというか……クライスのおじいさんが既に凌辱ゲーの主人公のようなことをしていたなんて設定、初めて知った。
まぁ、凌辱ゲーを作っている会社が出しているゲームは、シリーズじゃなくても意外と世界観が繋がっていることが多く、別の作品の主人公の名前がファンサービス的な要素として出ることがある。
アドルフもそんな感じで「スレイブキングダム」とは違うゲームの主人公で、クロシエの母親、祖母を調教したのかもしれない。現代日本と既におさらばしてしまった俺にはもはや正確に知るすべなど持ち合わせていないが……。
「ヨセフ家の人間は代々、宮中の女をチ〇ポ奴隷にしてナグサラン王国を裏から支配していた邪悪な一族! 女であれば皆、あなたに従ってしまうけれども私は違う! 私はまだあなたのおチ〇ポに屈していない! 王よ! 早くこの男に処刑を言い渡して!」
何言ってんだ、この王妃。
「うむ———死刑じゃ!」
うむ、じゃねぇ!
即決ってどういうことだよ⁉
ルイマス王は最初から一貫してスタイルを崩さず、うんうんと満足げに頷いているが、そんな軽いかんじで殺されては溜まったものではない。
だからと言って、「人体支配」のスキルがバレている———若干効果を勘違いされているが————この状況下で力を使うことはできない。
俺が生き残るためだけに力を使うのなら一瞬で終わる。
レンを操って皆殺しにさせたり、ルイマス王を操って自殺をさせたり、やろうと思えばいくらでもできる。だが、それをやった瞬間、今までこの城で稼いできた信頼が無駄になって、‶普通にこの世界で生きる〟という俺の目標から遠ざかってしまう。
自分で勝ち取った信頼を自分の手でご破算にする。
それはなるべくなら避けたい。
それに、ここでルイマス王を殺したら確実に国力が下がる。ナグサラン王家の求心力が下がり、軍も指揮系統にも混乱が生じる。
そうなれば、
「あ———」
思い出した。
この状況———マジでヤバい。
床に刺さっているミストのナイフを見つめる。
ミスト・トスカータは……クライス・ホーニゴールドの忠実な部下であり、ニア帝国の暗殺者は———逃げている。主人であるクライスを置いて。
なら助けに来るのが
仲間を引き連れて。
本来だったら今日の夜にでも来るはずだった、ナッソーで待機している‶本隊〟という仲間を引き連れて———。
「‶本隊〟が———やって来る」
ニア帝国の魔物軍団がやって来る。
女を犯すことしか考えていないゴブリン、ワーウルフ、ギガンテス、野盗じみた帝国軍人。それらが大挙してこの国に押し寄せてくる———。
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