第36話 混沌とした裁判
目隠しをされたまま縛られ、俺はどこかに運ばれていた。
「離せ‼ 説明をさせてくれ! ルリリと一緒にいたことについてはちゃんと事情があるんだ!」
「何だよ! お前ら! せんせをどこに連れて行くんだ⁉ 離せ! せんせを離せ!」
ミストも一緒に運ばれているらしい。
視界が真っ暗なままだが、彼女の声が聞こえる。
「…………」
俺を運んでいる兵士はさっきから黙ったままだ。
「おい、何とか言えよ!」
「…………弁明は王の元で」
俺を担いでいる兵士は苦しそうに言った。
嫌々従っているのか?
やがてバンッと大きな扉が開かれる音がすると、黒い布を光が貫通し、明るい場所に出たのだとわかる。
「クライスよ。クライス……ヨセフよ。よもや名を変えこの城に帰ってくるとはな———
ルイマス王の声が聞こえる。
やはり———俺は今、王の間に通されているようだ。
いや、それより〝淫魔の一族〟って何の話だ?
やっぱり裸のルリリと一緒にいたことに怒っているのか?
「王よ。何か誤解をしているようですが、私にルリリをかどわかそうとする意志はありません! 先ほどの状況だけを見ると確かにルリリと一夜を共にしたように見えたかもしれませんが……!」
「なっ……!」
「そうですお父様!」
ルリリの声が聞こえる。彼女もこの場に駆けつけてきたようだ。
「クライスさんは紳士でした! 私が関係を迫っても冷静に私を
「ルリリ! お主なんという姿でここに⁉」
「はしたない! 王女の身でありながらそんな遊女のような恰好を!」
「服はちゃんと着ています!」
「着ていません! 姫様、それは布を巻いていると言うのです! それに何故普通に歩いているのです⁉ 歩けるようになったのですか⁉」
ルイマス王、クロシエ、ルリリ、アリスのわちゃわちゃとした声が聞こえる。
ルリリは客間から、慣れてもいないのに走ってきたのだろう。「きゃっ」と声が聞こえ、ふよっと背中に暖かな熱と重みを感じる。
「————ッ! もう許せんッッッ‼ 既に我が娘を
「ご、ごめんなさい! クライスさん!」
ルイマス王、ルリリのリアクションからして、恐らくルリリが倒れて俺に寄りかかってきたのだろう。ほぼ裸同然の格好で。
「この男を処刑しろ!」
「お待ちください、父上!」
レンの鋭い声が聞こえる。
この場に彼女もいるのか。
「感情に任せて国賓を裁くのが王のやり方ですか! それにクライス殿はルリリの足を治し、
「黙れ‼ 貴様も余を裏切るのか⁉」
「どうしてそんな話になるのです⁉」
ルイマス王とレンが口論している……。
本当に一体何が起きているんだ?
視界を塞がれているから何が起きているか全くわからないし……「人体支配」が使えない。
そうだ……この状況めっちゃヤバい!
遅れて気が付いた。
「人体支配」は人間の体を自由自在に支配できる無敵の能力……だと思っていた。だが、今は……使えないんじゃないか?
試しにやってみるか。
クロシエの声が聞こえたから、クロシエはこの空間にいるはずだ。
———
「ホホホッ! 何が〝おまじない〟よ〝光堕ちの呪い〟よ! あなたはヨセフ家の人間であるから〝淫魔の魔眼〟が使えるだけじゃない!」
効いてない……!
声のする方向で漠然と「人体支配」の力を使ってクロシエの体を支配しようとしたが、クロシエは俺の思ったように動いてくれず、彼女と繋がっている感覚もない。
というか———俺の〝光堕ちの呪い〟が見抜かれている⁉
「ちょちょちょ……ちょっと待ってください! 皆さん、落ち着いてください!」
と、俺が言っても国家を運営する最高権力を持つ王族の皆さんはそれぞれ言いたいことを言い続けている。
ルイマス王は「処刑をしろ」としか言わず、クロシエは「よくもやってくれたわね」と俺を罵倒し、レンは「クライスを拘束するのは不当だ」と言い続け、ルリリは「クライスさんは私を抱いてません」と主張し、アリスは「姫様とりあえず服を着てください」と
この状況は一体どういうことなんだ……?
昨日まではルリリの治療が完了してハッピーエンドって雰囲気だったのに……。
ブチッ……!
直ぐ近くで、縄が切れた音がする。
「
「捕まえろ!」
それからドタドタと乱暴な足音が聞こえ、
シュッ———と、耳元で音がして、俺の眼を塞いでいる黒い布がはらりと落ちた。
目を開き、
「ヒ—————ッ⁉」
まず、俺の視界に入ったのは王妃クロシエの怯えた顔だった。
そして、目線を下にやると、床にナイフが刺さっているのが見える。その上、俺の膝には切り裂かれた黒い布———俺の目に巻かれていたやつだった。
投げナイフで俺の目を縛っていた布が切られたらしい。
まだ、ワーッ、ワーッと後ろが騒いでいる。
振り向くと衛兵たちが黒いフードを被った少女相手に何人も群がり、剣や弓で彼女を制圧しようとしていた。
だが、身軽に飛び跳ね逃げていく彼女の姿を衛兵の誰も捕らえることができない。
空中でくるりと回転し、攻撃を避ける彼女と———ミスト・トスカータと一瞬だけ目が合う。
泣きそうな、心底心配をしているような目をしていた。
そして、衛兵たちに両手いっぱいに持った、大量のナイフを投げ放つと、通路の奥へと消えていった。
ミストが、助けてくれたのか……。
体はまだ縛られたままだ。俺の視界を開放することはできたが、ミストは自分が逃げるのに必死で、体を開放するところまではできなかったようだ。
だが———、
これで———「人体支配」の力が使える。
何とか状況を改善させようと、ルイマス王を見ると、彼は———俺を心底恐ろしいものを見るような目で見ていた。
「ほれみたことか! やはりこの男はこの国を転覆させようとしておる悪魔よ! クロシエに聞いた通りじゃったわ! 衛兵‼ すぐにこの者を殺せ‼ 余が命令を撤回したとしても信じるな! 余はそのものに操られておる!」
なん、だと……?
完全に———ルイマス王が「人体支配」の能力について知っていた。
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