第28話 天使の降臨
———ルリリ・ナグサラン。
彼女は生まれつき、目に魔力が届かない異常な魔力器官だった。
他の人間とは違う、セオリー通りではない魔力器官をもっていたため、他の人間に合わせた教科書通りの魔法は彼女には習得が困難だった。
その上、彼女は王妃に毒を盛られていた
王妃・クロシエは権力欲と肉欲におぼれた毒婦だ。
彼女は王妃ではあるが後妻でありルイマス王との間には子供がいない。国費を自分のために使うので人望もない。となると、ルイマス王が亡くなった後は、レン、もしくはルリリのどちらかが王位を継ぎ、邪魔にしかならないクロシエは城を追放されるか、城に留まったとしても肩身の狭い思いをするだろう。
狡猾な彼女がそんな未来を許すわけがない。
だから、二人の娘に毒を盛り続けた。すぐには死に至らない量を少しづつ盛り続けて、病に見せかけて毒殺しようとしていた。長い時間をかけて。
ルリリの体内にはかなりの毒がたまっていた。普通の人間であれば、いつ死んでもおかしくない。起きて笑うなんてことができないほどの量、寝たきりになっていてもおかしくないほどの毒が盛られていた。
なのに彼女が笑っていられたのは、ひとえに彼女の才能、魔力が大量にあった
その大量の魔力が、才能が、全てクロシエに盛られた毒の
そんな邪魔だった毒を「人体支配」スキルの魔力ブースト効果により完全に体内から排除し、「人体支配」スキルの能力で彼女の魔力器官を、彼女自身が使いやすいように———俺が組み変えた。
「———私、飛んでいる……!」
足に生えた光の翼で空を飛んでいるルリリ。
光で構成された魔法の翼。それこそが彼女独自の魔法の〝才能〟だった。
嬉しそうな顔をしているルリリの表情を見て、俺は少し「人体支配」のレベルを下げる。
「人体支配」による魔力のブーストはそのままに〝光の翼〟の行動顕現はルリリ本人に譲渡する。
バサッ。
「うわ…………」
ルリリの体が上昇する。
そして、バサバサと翼をはためかせ、くるくると軽く飛び回る。
「うわ、うわ、うわあ……!」
パアッとルリリの顔が晴れていく。
初めての自由を謳歌している顔だ。
彼女が飛ぶ軌道には、〝光の翼〟の特徴だろう。光に変換された魔力の粒子がしばらく残る。
「レンと同じタイプの能力……か」
その輝きはレンの
魔力を光に変換する固有の魔法。姉妹なのだから、同じタイプの魔法を持っていて当然かもしれない。同じ血を引いているのだから、同じような潜在能力を秘めて当然かもしれない……!
「クライスさん!」
「何だ!」
「これはなんて名前の魔法なんですか?」
いや……知らない。
おそらくルリリは光の翼は俺が出していると思っているのだろう。その名を尋ねるが、「スレイブキングダム」にはこんな描写はない。ルリリはあくまで目が見えない病弱なヒロインとして設定されたキャラだ。こんな魔法が使えるなんて公式ホームページの何処にも書いてなかった。
だからいわばこの状況は隠し技。バグ技を自力で見つけ出したようなものだ。まぁ、エロゲで抜きゲーの「スレイブキングダム」に隠し技もクソもないんだが……。
「えぇっと……そうだ!
「
嬉しそうに微笑むルリリ。
レンの
ウネウネウネウネ———!
気持ち悪い触手の音が聞こえる。
「それどころじゃなかった……ルリリ! その魔法であの触手の化け物を倒すんだ! 行けるか⁉」
まだファブルの蟲は健在だ。レンたち三人はまだ拘束されたままだし、見失ったルリリの居場所に気が付いたように、触手を彼女へ向けて伸ばす。
迫る触手をルリリは見据えて、
「————行けます」
スッと彼女の眼が変わった。
普段の彼女の雰囲気とは全く違う———鷹のような目だ。
俺はその眼を見て———ルリリに全てをゆだねようと思った。
彼女自身に任せた方がいいと思った。そうするべきだと思った。
ルリリの自由にさせた方が———
「———
バアッと光の翼が広がり———はためく。
そして、ルリリの体が加速する。
「速————⁉」
ルリリは光の矢と化した。
もはや視認することもできな———、
パアンッッッッ‼
———かった……俺が認識したときには全てが終わっていた。
ファブルの
そして、その風穴から光が魔物の体を侵食するように広がっていき、魔物の存在自体を
物言わぬ触手の
最弱王女の固有魔法で加速した、蹴りに貫かれて———。
「……う、ぅぅ……」
レンの体にまとわりついていた触手が光の
終わった。
一時はどうなることかと思ったが———ルリリのおかげで、最弱王女となじられる、何もできないキャラだったはずの彼女のおかげで、魔物を倒すことができた。
「クライスさん……!」
光の矢と化していたルリリはぐるりと旋回する軌道を描き、俺の前でピタリと止まった。
「クライス……さん……‼」
微笑みかけている。本当に、心の底から嬉しそうに。
ルリリの今の姿は———まるで〝天使の降臨〟だった。
見上げる俺の視線上で、翼を広げて空中に
大きなその翼は俺を包み込むかのように広がっており、絵画とも思える光景だ。
それに、光り輝いているのは
「ルリリ、よくやったな。お前のおかげだ……お前のおかげでレンもアリスも助け出すことができた……ありがとう」
「全部、クライスさんのおかげです。私のこの目も足も、魔法も、クライスさんがいなければ動かすことができませんでした。全部全部、クライスさんがしてくれたからなんです。私の中の何かを開放してくれたからなんです。クライスさんがいなければ何もできない弱いルリリのままでした」
「ルリリ……」
「クライスさん。あなたのことが好きです」
「————ッ」
「クライスさんが全てを与えてくれました。あなたがいなければ何もできなかった不出来な私ですが……あなたのことを最初はひどいことを言って拒絶をしてしまった私ですが……分をわきまえずにクライスさんのことを好きになってしまいました……」
「…………あ、っとぉ……」
俺は口元を抑える。
「大好きです。クライスさん……できれば一生私と一緒にいて欲しいです。ですが……いまさらそんなワガママ許されませんよね……あはは」
ルリリは悲しげに笑った。
告白をしたのに、ろくに答えようとせず言いよどむ俺に拒絶されたのだと思ったのだろう。
だが———実は俺は、それどころではなかった。
彼女の背後の———後光の正体に、気が付いてしまったからだ。
自分の後ろにとんでもないものがあると気が付いてないルリリは、肩をすくめる。
「……そうでした、今はそれどころじゃありませんよね……お姉さまたちをすぐに介抱しないと……」
と———振り返ろうとした。
「ダメだ! 振り返るな!」
「え————?」
振り返りかけた彼女の瞳が俺を捉える。
俺は彼女を落ち着かせるようにゆっくりと歩み寄った。
「ルリリ……振り返るんじゃあない! 視線を逸らすな……ずっと……俺だけを見つめてていろ」
「ク……クライスさん……♡ そんな情熱的な目で……」
トロンと表情が緩み、うるんだ瞳を俺に向けるルリリ。
彼女と目が合い続ける。
ルリリを今———絶対に振り向かせたらダメだ。
意識を失い、彼のハゲが
———その
「そのままだ……俺を見つめながらゆっくりと、ゆっくりと降りてこい」
「はい……クライスさん♡」
俺は、
やっと……大臣のハゲ頭から光が消えた。
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