第11話 信用を得るクライス
トントントン……。
綺麗なまな板を叩く音が聞こえて、目が覚める。
「ん……」
そうだ、昨日アリスの家に泊まり、マッサージを受けたまま寝落ちしてしまったんだ。
丁寧に毛布をかけられており、体を起こすと、下のキッチンですでに起きているアリスが料理をしていた。
「早いんだな」
窓の外を見ると、まだ日が昇っていない。少しだけ白くはなっているがまだ、夜明け間のくらい時間だ。
「クライス殿、もう起きられたんですね」
「おはようございます、アリス殿」
「おはようございます!」
エプロンを付けた彼女はニコッと笑顔を向けた。
◆
メイドの仕事があるため、いつもアリスは日が昇る前に起きるらしい。
その上、ルリリが寝てから帰宅するため夜も遅い。
「大変だな」
テーブルの上にある朝食を食べながら、アリスの苦労をねぎらう。
「そんなことないですよ。恵まれています。王室にお仕えできるからこそ、弟は学校に通うことができるんです」
そう言って、テーブルの上に置かれている小さな額縁入りの絵を手に取った。
「それが弟さん?」
「ええ、弟のルアです」
絵は、歯を見せて笑っているアリスとそっくりの少年の似顔絵だった。
「私にはもったいない、できた弟です」
それを愛おしそうに眺めているアリス。
———よく、知っている。
「スレイブキングダム」ではアリスというキャラのルートではルアが非常に重要な役割を果たす。
アリスもレンほどではないが、ルリリ専属のメイドだけあり、格闘術も魔法も一流の武闘派だ。
そこでキーになるのが弟のルアだ。
ルアをクライスの部下が誘拐し、人質にしてしまう。それでアリスの反抗心を折り、性奴隷にしてしまうというのがアリスのルートだ。
そしてアリスというキャラがどんな性癖を満たすのかというと———|
「本当にルアは命よりも大切な弟なんです」
「…………」
このゲーム世界において、アリス・ニーテというキャラは近親相姦の性癖を持つ男の欲望を発散させるためのキャラとして存在している。
「弟さんを想うのもほどほどにした方が良いかもしれませんよ」
余計なことを言った。
明らかにアリスがムッとした表情をする。
「それはどういう意味ですか? なぜ家族を愛するのがいけないんですか?」
「え、それは言えませんが……」
セックスすることになるからだよ! とは言えない。
それだけでは
特殊な薬をルアに盛り、ルアから生えたもう一本の竿でアリスの二つの穴を犯すというなんてのは序の口で、ラストのHシーンはルアは女になる薬で女体化させられ、
「まぁ、悪い人間には気を付けてください、特に弟さんにはそういう人には近づかないように、と……」
としか言えない。
「大丈夫ですよ! ルアは私よりも賢い人間ですから。心配をしてくれると言うことは、やはり……姫様の
「わかっていただけましたか」
「ええ……下手をすればこれから昇る朝日をクライス殿は見ることはなかったかもしれませんでした」
「え⁉」
ズズッとお茶をすすりながら、ものすごく物騒なことを言うアリス。
「そ、それは一体どういうことなんでしょう?」
「昨日、私がクライス殿を誘ったのは姫様からのご命令があったからです。「クライス殿は本当は邪悪な人間などではなく、私が間違っているかもしれません……調べてもらえませんか?」とのことで」
「あ、そ、そういうことでしたか……」
いきなり家に招くのはおかしいと思った。
その情報を聞いて、昨日の夜のこと全て
「つまりは今まで試されていた———と、そういうわけですね?」
「ええ。私なりに。クライス殿がどんな人間なのか、
「ハハハ……」
笑えねぇよ。
意味深なことを
本当に理性を保っていてよかった。
「ですが、冗談が過ぎると思いますよ。アリス殿のように魅力的な女性にあのようなことを言われれば、意気地がない人間でなければその気になってしまいます」
「クライス殿はそうはならなかったではないですか」
「つまり———私は意気地がないというわけです」
「フ、アハハハハハハ……」
「アハハハハハハ」
二人して笑い合う。
「そんなことありませんよ。クライス殿。あなたは意気地がないのではなく紳士なのです。ようやく確信が持てました」
「それは良かった」
良かった、アリスは心を許してくれたようだ。
「私が裸でマッサージをしていたのに、振り向きもしなかったんですから」
と、アリスは言葉を重ねた。
「……裸?」
「ええ。だから
「……………そうですか」
振り返ればよかった……!
二度と目覚める可能性はなかったかもしれないが、あのマッサージを受けている間、背後にはすっぽんぽんの褐色のビーナスがいたのだ……。
後悔と失意が大きすぎて、その後の食事の味はそこまでおいしくなかった。
◆
アリスは食事を済ませると日が昇る前にとっとと家を出ていった。「ゆっくりしていってください」という言葉に甘えて、しばらくアリスの家に
日が昇り始めると家を出た。
空気が澄んで気持ちがいい———抜きゲーの世界にいると言うことを忘れそうになる。
パカラパカラパカラッ!
「ん?」
まだ早い時間だと言うのに、城から城下町へ駆け出していく一頭の馬がいた。
その上にはフードで顔を隠した何者かがいる。
彼とも彼女ともわからない謎の人物は、俺が見ていることに気づくこともなく、
「———誰だ?」
こんなイベントゲームの中であったのか?
いや、そもそもクライス・ホーニゴールドがアリスの家に一泊しているというのがイレギュラーなのだ。だから、この場面を見ることもゲーム内では描写されないテキスト外の事だ。
馬上の人物は顔を隠していた。なら、何かやましいことがあると言うことだ。
誰もいない時間帯に城下町に行って暗躍するような人物———正直心当たりが多すぎる。この城には何人ものクライスの息のかかった人間があらかじめ潜入し、国家を転覆させて王国中の女を犯そうと考えている人間ばかりなのだ。
「そうだよ……それを忘れていた……ルリリを治療したところで、俺が持ち込んだ問題が全く解決されていないんだから、この城を出るわけにはいかないじゃないか」
ルリリを治療後、どこか別の場所で屋敷を構えて普通に暮らそうと、甘い考えを持っていたが、この「スレイブキングダム」というゲーム世界の中ではそんなことは許されないだろう。
何とか、レンやルリリたちが平和に暮らせるように、そういった不穏分子をかたずけておかないと……。
「持ち込んだ問題って何のことですか? せんせ」
———少女の声。
そして、ガサッという音と共にすぐそばの木の上から黒づくめの少女が降ってくる。
彼女も———フードで顔を隠していたが、ぴっちりとした動きやすそうなタイツのような衣装は見覚えがあった。
「お前は、ミスト・トスカータ……」
「はい、何でフルネームで呼ぶんですか? せんせ」
フードをめくり、紫色の髪をした小生意気そうな少女の顔が晒される。
ミスト・トスカータ。
「スレイブキングダム」のキャラクターで、クライスの元患者で
そして———、
「せんせ。計画は順調みたいで何よりです。王女様たちが、私と同じ奴隷に堕ちる日もすぐですね♡」
彼女は———クライス・ホーニゴールドの性奴隷である。
ミストは自らの股間に手をやり、頬を紅潮させて身をくねらせていた。
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