第20話 お返事
告白された日の夜。
りんちゃんに告白されちゃって、お家に帰ってきたその夜。
お布団に入ってたくさん考えてる。考えてるけど答えはすぐに出てくれない。
好きって言ってくれたことはすごく嬉しかった。本当にうれしかったんだけど。でも、だからといっていちごはりんちゃんに対して恋愛的な好きって感情がないから、恋人になれるかはわかんない。女の子だからとか、そういうことじゃないんだけども。
形だけならなれるけど、それって本当に恋人なのかな?
だって、恋人ってお互いの幸せを考え合って、好きって言い合って、ドキドキし合って、そういう関係なんでしょ?
いちごがりんちゃんに思ってるのはもっとこう、友達みたいな感じで、頼ってもらえると嬉しいってなるような。そんな感じなの。
だから、ふたりだけでお出かけしたり、おててを繋いだりっていうのは、うーん。嫌じゃないしむしろ全然嬉しいんだけど、ずーっとその距離感でいたら嫌になっちゃうかも。
だって知ってるもん。そうなること。
これはいちごが小学4年生の時のお話。
高学年と低学年の交流をしようってことで1年生と一緒に遊ぶ機会があったの。
そこで仲良くなったのが、あやちゃんと、さきちゃんと、ななくん。
あやちゃんは優しい感じの女の子で、よく本を読んでた。
「この本、おもしろかったよー」
「そうなんだ! 読んで面白かったんだね。どこが面白かったか、いちごにも教えて~」
「えっとね、ここでクマさんがね……」
さきちゃんは元気な女の子で、いつも外で遊ぼーってねだられてた。
「ねえ! はやくおそと行こー!」
「いいよ~。今日は何するの?」
「えっとね、おにごっこ!」
「いいね! それじゃあ、あやちゃんとななくんも誘おっか」
「うん!」
ななくんは無口な子だったけど、いちごがお話してあげると、いつも笑顔になってくれた。
「……」
「どうしたの? 黙ってちゃ何もわかんないよ?」
「んー」
「いいよ、ゆっくり考えてよ~。いま何がしたいかってなかなかわかんないこともあるよね」
「うん」
「例えば本が読みたいとか外で遊びたいとか、こうやってお喋りしていたいとか……どうかな? なにか近いものありそう?」
「えっと、お話……」
「そっかぁ! お話したいんだね! いいよ~。それじゃあ最近あったこととかお話しよっか。最近何か面白いこととか、学校でこんなことあったよ、とか、そういうことあった?」
「うん! えっとね……」
そんな感じにみんなと時々お昼休みに一緒に遊んだり、放課後に一緒に帰ったり、お家に来てもらって遊んだりまでしてたの。すごく楽しかった。
でもななくんは10分休みもやってくるようになって、一緒に遊んで欲しいって言われて。
いちごは別にいいかなって思ってたし、クラスの友達も構ってあげなよって言ってくれたからしばらくはお話したりしてた。
もちろんななくんとお話するのは楽しかったんだけど、ずっとやってるうちにクラスの友達と喋る時間も十分に取れなくなってきちゃったの。放課後も毎日あそぼって言われて、最初は楽しかったけど、ずーっと付きまとうようにされちゃうと、段々嫌になってきちゃった。
バイバイってする時も「やだやだ!」って嫌な顔されちゃって、バイバイしづらかった。楽しく過ごしたいのにそんなことされちゃったら嫌な気持ちになっちゃう。
そういうのはダメだよって言っても聞いてくれずにどうしようもなくなって、終いにはななくんの気持ちを変えられないいちごが悪いんだって思って、自分のことも嫌になっちゃった。
そんなある日、我慢の限界に達して「もう関わらないで!」って言っちゃった。心の余裕も無くてそんなふうに言っちゃった。そこまで言わなくても良かったのにね。
そこまで言っちゃったから、ななくんは次の日からはいちごのもとには来なくなっちゃった。
でもいちごはやっと嫌なことから解放されたって感じだった。クラスの友達とお話することも多くなって、楽しいってこういうことだよねって思い出せた。
でも数日してななくんがどうやらひどい落ち込みようだとあやちゃんから聞かされた。
ただ、どうしてもいちごは関わりたくないって思っちゃたの。やっぱり嫌な思いをさせられて、自分のことも嫌にさせられたことが頭にあったからかもしれない。
だからいちごは保健室の先生に相談しにいったの。
今まであったことを全部伝えて、どうしたらいいんだろうって一緒に考えてくれて。
結局、保健室の先生がななくんの心のケアをしてくれることになったんだけど、いちごの中では「ごめんね、ごめんね」って苦しくなっちゃって。でもやっぱり嫌な経験には勝てなくてそれ以来は関わることがなかったの。
そんな悲しい過去があったの。今思い出しても涙が出ちゃう。
それで、りんちゃんともそうなりそうだからすごく怖いの。
もうあんなことしたくない。きっと何か解決策があるのかもしれないけれど、いちごにはわかんない。
恋がわかったらそういうのも解決できるのかな……。
でもいちごはその感情もわかんないから、りんちゃんと恋人になっても、ななくんと同じ運命を辿るような気がしてならないの。
だから……。
放課後の校舎裏。
お返事するためにりんちゃんをここに呼び出した。
不安そうな顔をするりんちゃん。いちごの顔に答えが出ちゃってるのかもしれない……。
「えっと、この前のお返事なんだけど」
「うん……」
「ごめんなさい、恋人にはなれないの」
「…………」
りんちゃんがすごく悲しそうな顔して
ごめんね、ごめんね。
でもね、これはお互いを守るためなの。許して……。
「女の子だからってことじゃなくてね。そもそも恋人みたいな関係は今のいちごには向いてないの。多分うまくいかなくて、もっと辛いことになっちゃうの。今までにも似たようなことがあったから……」
「…………」
「ごめんね。だから――」
その時、りんちゃんが泣き出して、駆け足でその場を離れていった。
……。
これでよかったのかな……。
もっといい方法があればよかったのに。
誰も傷つけたくないけど、傷つけないようにしたらもっと傷ついちゃうかもしれなくて。
何が正しいのかもわかんない。
せめていちごも同じ気持ちになれたらよかったのに。
みんなが幸せになれる世界ってないのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます