第19話 観覧車
観覧車の近くまで班のみんなとやってきた。
丸いゴンドラがゆっくり回っている。
「俺たちは俺たちで乗るから、そっちはそっちで乗ってな」
「わかった~」
ふたりきりで乗るんだ……。あの狭い空間に……。
だ、大丈夫かな……。
「それじゃあいこ~」
「うん」
ゴンドラに乗り込んだ私たち。
向かい合うようにして座るところがあるけど、あえていちごちゃんの隣に座る。近くに感じていたいから。
いやなんか変じゃないかな、大丈夫かな……。
「なんか雰囲気あっていいよね~」
「うん」
「やっぱりこの小さい部屋が浮いてる感じが、非日常って感じでいいよね。不思議な感覚」
「うん」
なんだか恥ずかしいからいちごちゃんの方を見れなくて、何度もそっぽを向いて「うん」とだけ返しちゃう。
今を楽しむって頑張ってきたけど、それと向き合いきれなくなってる……。
この空間、この距離、この雰囲気で目を合わせちゃったら、何かのネジが飛んでいきそう。一体何のネジなのかは、わからないけど……。
「りんちゃんどうしたの? さっきからこっち向いてくれないの、おかしいよ?」
気付かれちゃった。気付かない方がおかしいのかもだけど。でも、だからといってそっちを向けない。言い訳、考えないと。
「え、そうかなー? ほら、あっちの景色綺麗だなーって思って」
「そう? まだ高さも上がってないし、景色が良くなるのはこれからだと思うんだけど……。やっぱりおかしいよ。ねえ、りんちゃんこっち向いて? ちゃんとお話ししてよ~」
そう言っていちごちゃんは私の肩に手を置いて、くるっと私の向きを変えさせる。
目の前にいちごちゃんのかわいい顔があって、さっきから、いやお化け屋敷の時から感じてる心の暴走が確かに始まってきていた。
「えっと、あー、う、うん」
「顔真っ赤だよ! 大丈夫!? もしかして熱とかあってぼーっとしてたの?」
「いや、ちがっ」
「ちょっとおでこ貸してね」
この展開、前にもあったけど今度はトイレに逃げ込むこともできない! わ、わ、わ……。
いちごちゃんにおでこをぴたっとくっつけれらる。
ぴとっ。
すごく近くて、おでこからあったかいのが伝わってきて、私の胸の内がぐるぐる、ぐるぐると。
「やっぱりちょっと熱いよ!」
「や、いや、えと、そ、そーいうのじゃなくて……」
「どういうの?」
わーわー。言っちゃだめ言っちゃだめ。言い訳言い訳……。
思いつかない。思いつかないよ……。どうしたらいいの? わかんないわかんない。
はーっ、はーっ、はっ、はっ。
いつの間にかパニックに
「大丈夫?」
「うん……」
さっきまで触られてどうしようもなくドキドキしてたのに、今度は段々息が落ち着いてきた。
すー、はー。
息がいつもの速度に戻って、穏やかな感覚になってきた。でも、その感覚を与えてくれるのが、とっても嬉しくて幸せ。ずっとこのままならなぁ……なんて。
今日何度も感じてる、ドキドキから生まれる好き。
いま感じてる、優しい幸せから生まれる好き。
ふたつの好きが足し算で、もしかしたら掛け算で合わさって、どうしようもなく好きって言いたくなる。
「落ち着いてきた?」
「うん。だいぶ、よくなったかも……」
そんなことを言ってる間にも好きが加速していく。
いつの間にか観覧車のてっぺんに私たちがいて。外は綺麗な夕焼けの景色が広がってる。でも、いちごちゃんがそんな景色の手前にいて、夕焼けなんかよりも綺麗な姿に心が奪われちゃう。好き。好き以外に何にも考えられない。
目の前のすごくかわいい顔にドキドキするのに。
頭を撫でられて、心地よくて幸せで。
なんだか嬉しい気持ちと好きって気持ちが溢れて、視界まで歪んでくる。
好きー、好きぃ……好きだよぉ……。すき、すき、「すき」
……え、いま声に出ちゃった?
いちごちゃんが、「えっ?」って顔してる。
………………。
「えーと、ありがと?って言えばいいのかな。その、とにかく、好きって思ってくれたのは嬉しいよ~」
そう優しく言ってくれる。
優しく言ってくれて、この気持ちを肯定してくれて、ちゃんと私の気持ちを伝えなきゃって、ちょっとそんなことを思う。
「でも……好きっていうのはどういう好きなのか、ちゃんと知りたいな。よかったら教えてくれる?」
「えっと、ずっと一緒にいたいって感じ……。こう、近くにいられたらすごく嬉しくなちゃって」
「うんうん」
「そう、えっとね、だから……。こうやってふたりだけでお出かけしたり、おててつないだり、そんなことがしたい……」
「えーっと、それって恋人になりたいってこと……?」
「……うん」
「……そっか。うん、気持ちはわかったよ。でも一回考えさせて! いきなりだからちょっとびっくりしちゃって……」
「うん、わかった……」
言っちゃった……。
つい、良い雰囲気だったから全部言っちゃった……。
でも「すき」って聞かれちゃったから、それなら誤魔化すよりもちゃんと言ったほうがいいかなって……。あぁでもやめとけばよかったかなぁ……。不安で不安でしょうがないよぉ。だってダメって言われちゃったらもう仲良くできないかもしれないのに、何言ってるんだ私のバカバカ。
そんなことがあって、観覧車を降り、バスに戻り、学校に戻ってお家に帰った。その間の事はよく覚えてない。
帰る時、いちごちゃんとはちょっと気まずい感じになっちゃったし、ずーっと不安が頭の中を巡っていたしで苦しかった。
お家に帰って自分の部屋に戻ってからもずっと不安ばかり。
いつお返事くれるのかな……。やっぱり「ダメ」って言われちゃうのかな……。もしかしたらずっとお返事くれないかも……。
うぅ……。
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