第16話 ゴーカート
昨日は恋バナをして、いちごちゃんと付き合えるように頑張るぞと決意した。そして今日は班で決めた通り遊園地でゴーカート、ジェットコースター、お化け屋敷、観覧車に行くことになってるから、もっと仲良くなるには絶好の機会だ。
今は遊園地の入口に来てて、先生からちゃんと班行動するんだぞと言われて私たちの仲良し大作戦が始まる――
なんて大層なことは考えてないけど、今感じることを大事にしていちごちゃんと仲良くしたいな、とは思う。
男子4人が勝手に集まって最初はゴーカート行こうぜ、だなんて話してて、私といちごちゃんはそれに後ろから付いていく。
「いちごちゃんはゴーカート乗ったことある?」
「んー、初めてかな~。子供向けのちっさいカートならある気がするけど、こういうレースできますよって感じのは初めて~」
そう、この遊園地にあるゴーカートは割と本格的なレースが楽しめるということで人気があるらしいのだ。
結構速度も出るみたいで、男の子たち(と葡萄)はこれを楽しみにしてたみたい。
私もレースゲームとかはやったことあるけど、それとこれとは勝手が違うからなぁ。
「そうだよねー。私も初めて。まあ楽しもうよ!」
「うん! 競争とかはそんなに得意じゃないんだけど、りんちゃんとなら楽しめそ~!」
えへへ。私とだから楽しめそうって言ってくれて嬉しい。
それはそうと、競争が苦手ってのは初耳だ。雰囲気からしてなんとなくそうなのかなーとは思ってたけど。
どうしてなんだろう?
競争って勝ち負けが出るからとか?
わかんないことは聞いてみよう。
「うん! でもいちごちゃんって競争とか苦手なんだねー。悪いとかじゃないんだけど、どうしてなのー? ちょっと気になっちゃって」
「えっとね、競争しちゃったら勝った人が偉くて、負けた人は偉くない、みたいに差別じゃないけどそんなふうになるからなんかイヤなんだよね。だって、勝った人は確かにその才能とか努力とかがあって偉いのはわかるんだけど、だからといって負けた人が偉くないなんていう考え方はおかしいと思うの」
「うんうん」
「だって、男の子っていつも勝ち負けばっかりじゃない? 『俺に勝てないなんてよえー!』みたいに言う子とかはちょっと無理かも……」
いちごちゃんにも無理な子がいるなんて……。それにちょっとだけ怒った感じがして、珍しいなと思う。
誰にでも許せないことってあるんだね……。私にもあるのかな? 許せないことって。そういった怒りの感情は、私はあんまり感じないからよくわかんないかも。でもいちごちゃんですらそんなことがあるわけだから、きっと私にもあるんだろうな。まだそういった経験をしてないだけで。
とにかく今はいちごちゃんの機嫌を取らないと。
「うんうん。男の子っていつもそんなこと言うよねー」
「そうなの! もうなんであんなこと言っちゃうんだろ~」
「ねー」
そんなふうにしていると段々いちごちゃんの機嫌が戻ってきて、不満そうな顔が消えてきた。
よかったー。機嫌が悪いままじゃ楽しめないもんね。
そう安堵していると、ゴーカートの乗り場に辿り着く。
男子たちとも合流して6人で同時に走ることになる。
係の人の案内に沿ってカートに乗り、動かし方の説明を受ける。
ゴールラインの近くには信号みたいにランプが3つあって、それがスリーカウントで光って全部付いたらスタートだと聞かされた。
もうすぐスタートだ。
いちごちゃんは私の隣にいたから声を掛ける。
「頑張ろうね!」
「うん~。ちょっと不安だけど、りんちゃんと一緒ならできるかも!」
「うん! 大丈夫だよ! 一緒にゴールしようね!」
えへへー。
と思ってるうちに、
ぴ、ぴ、ぴー!
といつの間にかランプが全部点灯していて、みんなが既にスタートしていた。
いちごちゃんもスタートしていて、わざわざこっちを振り向いて心配そうに見ている。
スタートしないと!
ぶーん。
途中で意地を張った男子がカーブを曲がり切れなくて、ゆっくり安全運転してた私たちよりも後ろに行くこともあったけど、結局最後はいちごちゃんと一緒に5位タイでフィニッシュした。
男子たちは「強いだろ〜!」「いや途中までは俺のが速かっただろ!」みたいに自慢大会を始めててうんざりする。
確かにいちごちゃんの言うことわかるなぁ。ま、そんなのはほっといて。
「いちごちゃん、どうだった?」
「思ったより楽しかった〜! 結構速度出たけど、案外走りやすかったよね〜」
「そ、そうだね!」
確かに安全運転はしてたけど、長い直線ではいちごちゃんが結構速度出してて、「え? そんなに速度出していいの!?」なんて思ったりして付いていくのに精一杯だった。意外とやる時はやるんだなー。
その後、あのカーブが難しかったとか風が気持ちよかったとか話してると、男子たちが「次、ジェットコースター行くぞー」と言って地図を見ながら歩き出した。
私たちもそれに付いていく。
ゴーカートは楽しかったけど、どちらかというといちごちゃんの意外な一面が知れたことの方が大きかった。
人をけなすような競争が嫌いだったり、やる時はやることだったり。
隣で笑ってお話しているいちごちゃんがそういった心を持ってることを知って、何故かわからないけど、どんどん好きになっていく。
ドキドキするというよりも、いちごちゃんそのものを好きになってる感じ。それまでの好きの感覚とちょっと違って「あれ?」って思うけど、心地よい感覚に包まれるから、私はただただそれを受け入れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます