第9話 みかんと電話で②

 予定の22時になる。電話の時間だ。

 無料通話を使ってるから長電話したって大丈夫。

 私はベッドの上で電話できるように待機している。

 いつもみかんちゃんから電話することになっているから、こっちからは掛けない。


プルルルル。

あ、来た。


「もしもーし!」

「もしもーし」

「今日もありがとなー!」

「いいよいいよー。いつも楽しいしー」


 だいたい3日に1度電話しているから、そんなことを言ってくれる。私としては結構な頻度で電話するんだなー、とも思っちゃうんだけども、みかんちゃんの話はいつも楽しいからそんなに苦とかじゃない。


 どうして楽しいかって言えば、波長が合うのはそうなんだけども、やっぱりそれは嘘を言わずに本音で話してもいがみ合わないからなのかもしれない。たまには違うこともあるけどね。


 ちなみにこの前はバスケ部の練習でシュートが上手くなった話とかしてくれたんだけども、その時もすごく楽しそうに話してくれたし、私もすごく共感して一緒にバスケしたくなっちゃうくらいだった。


 だから、恥ずかしくて口では言わないけど、みかんちゃんのことも好きだなーって思う。喋ってて楽しいし、幸せな感覚もある。


「うん! それでな、今日はやっぱ、りんちゃん家でクッキー食べたりモノポリーしたことについてもっとお喋りしたくてさー」


 そういえばクッキーの味とかちゃんと聞けてなかったんだった。簡単には言ってたかもしれないけど、詳しく聞いてみたい。丁度いいから聞いておこう。


「うんうん! あ、そういやクッキーって味どうだった?」

「おいしかったで! どっちもおいしかったー!」

「おー! ありがとねー! どんな感じにおいしかったとかある?」

「んー、よーわからんけどボリボリして、食べ応えあったからおいしかったで!」


 食べ応えがあるのはめ言葉なのかわからないけども。でもみかんちゃんなりの誉め言葉に私は嬉しくなる。


「よかったー。ありがとー!」

「うん! そういや葡萄と一緒に作ってくれたんよね?」

「そうそう! そうなんだけど聞いてー! 葡萄ったら、やたらと私の手をにぎにぎしてくるから可愛くてー」

「えー、いいなー。仲良しじゃん」

「いいでしょー、確かね、クッキー作るためのバターを常温に戻すために……」


 こんな感じで、いつもはどんなことがあったかについてお喋りするんだけど、今日の私はちょっと気になることがあって、みかんちゃんに聞いてみる。


「ねえねえ、今日さ、恋だとか愛だとかについて調べてみたんだけど、みかんちゃんは何かそういうことわかったりする? 今までに誰かに恋したーとかさ」

「いや、小学校の時は確かに周りは『あの人がこの人好きらしいよ』って言ったりしてたけど正直よくわからんのよな。だから恋がなんなのかはよくわからんけど、愛ならちょっとわかるかも」

「え、ほんと!? 教えて教えてー!」

「いやウチがわかってるってわけちゃうんやけど、お母さんがさ、いつも『愛情を込めて作った料理はおいしくなるんだよ』って言うから、それが関係してるんちゃうんかなってウチは睨んでる」


 いやいやいや。料理に愛情なんていう無形物は入れられないでしょ。

 一体どういうことなんだろう?


「ほんとにー? 愛情なんて料理に入れられないのにー」

「せやんな。ウチもそう思うねんけど、きっとそこに何かタネがあるんや」

「むむむ……」


 むしろ愛についての謎が深まるばかりだ。

 やっぱり愛ってなんなんだろう?

 まあそれはいいとして、そろそろ眠くなってきちゃった。


「うーん、そろそろ眠いかもー。今何時ー?」

「えーと、11時ちょい」

「あーそりゃ眠くなるわー。ふわぁ~」


 あくびまで出ちゃった。

 でもいつも私が先に眠くなっちゃうから、みかんちゃんはもっと夜遅くまで起きてたりするのだろうか?


「ねえねえ、みかんちゃんはいつももっと遅くまで起きてるのー?」

「うーん、せやなぁ。なかなか寝れなくて、いつも日付過ぎちゃうかな」

「そっかぁ。どうしてなんだろ?」

「えっと……。実はさ、ちょっと恥ずかしいんやけど……」

「いいよ、大丈夫。笑ったりしないから」

「いや、ウチって小学校の時は大阪やってんけど、そん時はお母さんと一緒の部屋で寝ててさ。でもこっちに引っ越してきてからは別の部屋で寝ることになって、なんというか……。寂しいんだ……」


 寂しい……か。実は寂しいって感情あんまりよくわかってないんだよね。なんとなくはわかるんだけど。ひとりだから悲しい気持ちになるみたいな。


 でも私はひとりでも全然楽しかったりするから、実際に私自身が寂しいって感情を感じたことがないんだよね。


「寂しいんだね。そっか。うーんと、ごめんね、寂しいってよくわかんないんだけど、とにかくひとりだと悲しくなっちゃうんだよね?」

「うん、そんな感じ。安心できないというか、誰か隣にいて欲しいって思うというか」

「そっかそっか。ということは、こうやって電話してるのもそのため?」

「あーうん、まあそういうことやね。なんかごめんね?」

「いやいや全然大丈夫だよ! 私も楽しいしー」

「ありがとー。欲を言ったらずーっと電話してたいなーとか思っちゃうんやけど、流石に迷惑かけちゃうからなぁ」


 うーん、流石に眠いの我慢してまでは電話したくないかなぁ。みかんちゃんには悪いけども。


 あれ? 愛のこと調べてた時にもこんなこと書いてたような?

 自分を犠牲にしてまでうんたらかんたら……。

 こういうところで、眠いの我慢してまで電話するのって愛なのかな……?

 やっぱりよく、わかんないや……。

 料理に愛……電話に愛…………



「おーい」


 ほえ? あ、意識どっか飛んじゃってた。


「あっ、ごめんごめん。寝ちゃってた。もうだめそうだし寝ちゃうねー」

「うん、ありがとねー」

「うんー、おやすみー」

「おやすみー!」


 プチッ。


 ああやって元気なみかんちゃんが、実は寂しがりだなんて。

 今も電話切っちゃって、みかんちゃんは寂しいって思ってるのかな……。

 私がもっと遅くまで電話してあげられたら、みかんちゃんは安心してよく寝られるのかなぁ……。


 でもどちらにせよもう眠気が限界……。

 ごはんに愛……電話に愛……眠るのにも愛……?

 あれれ……? 三大欲求とも関係してる……?

 食欲にも愛……睡眠欲にも愛…………zzz

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