第7話 いちごとおうちで④

 二つ返事でいちごちゃんの救済を受け入れた私。

 『いちごの隣に来て一緒にプレイしてほしいなぁ』とのことなので、私は一旦こたつから出て、いちごちゃんが開けてくれたスペースに誘われ、こたつに足を入れる。


 えへへ、隣にいちごちゃんがいる……。


「それじゃあ、りんちゃんの資産は全部私と一緒のお財布に入れて、代わりに葡萄に払う1400ドルを私が払うねー」

「はーい……って、それむしろいちごちゃんが強くなってない?」

「細かいことは気にしなくていーの。ね? りんちゃん」

「え? あ、うん。そうだね! 楽しめたらそれでいいんだし」


 いちごちゃんがすぐ近くにいてドキドキしちゃう。

 しかも距離が近いだけじゃなくて、柔らかな甘い香りもしてきて、ひどく魅力的に感じる。ドキドキ……。


 緊張する……。そう、緊張しちゃうんだ。

 葡萄やみかんちゃんと喋っててもこうはならない。


 じゃあドキドキするのが『恋』なのかな……?

 そしたら葡萄やみかんちゃんに対して感じる幸せは『恋』じゃない……?

 でも好きではあるんだよね。

 とはいえ、好きは好きでも『like』と『love』の好きがあるんだよね。

 最近英語の授業で知ってびっくりしたけど。

 じゃあ葡萄とみかんちゃんに対して感じる好きは『like』の好きで、いちごちゃんに対する好きは『love』の好きってことなのかな?


 ……そういや『恋』も『愛』も『love』って言うよね。

 じゃあ『like』の好きには『恋』どころか『愛』も含まれてないの?

 私は葡萄もみかんちゃんも愛しいと思うんだけど……。


「りんちゃん、りんちゃん。次、私たちの番だよ」


 そう言っていちごちゃんが私の肩をポンポンと叩く。


「あ、あー! ごめん。ちょっと考え事しちゃってた」

「何か作戦でも考えてたのかな?」

「あ、えーと……」


 確かにこの状況で考え事だなんて、普通はこれからどうやって勝利を目指すかを考えるに決まってるよね。まさか恋だとか愛だとかについて考えてたとは思いもしないだろうし。


 ちょっと冷静になってボードや手持ちを見る。

 すると、私が持っていたオレンジの土地と、いちごちゃんの持っていたオレンジの土地を合わせたら、オレンジを独占していることに気付く。


「ほら、私たちの土地合わせたら、オレンジの土地を独占できてるじゃん。だから、そこに家建てたらいいんじゃないかなーって。ど、どう?」

「あ、ほんとだー! じゃあ家建てちゃおっか。お金そんなにないから2軒ずつとかにする?」

「う、うん!」

「気付かせてくれてありがとね~。りんちゃん頼りになるなー」


 えへ、えへへへ。

 い、いかん。顔には出さないようにしないと……。

 なんだか気持ち悪い笑い方になってしまいそう。



 そうやって、しばらくいちごちゃんの隣でドキドキしながらプレイしていたら、やっぱり合併した効果が大きかったのか、私たちの資産がみるみるうちに増えていった。

 それを見過ごせなかった葡萄が「じゃあ、わたしたちも合併しようよ!」とみかんちゃんに持ち掛けて、「ええでー! 合併や!」と言った後、みかんちゃんが私たちの対面の葡萄の席について、すぐ葡萄の手を取って「「合併!」」なんてふたりで言いながら手を掲げるもんだから、つい私は笑ってしまった。

 ふたりとも息ピッタリだなー。



 合併企業同士のゲームになってからは、お互いに高いレンタル料を取り合うことになって、なかなか決着が付かなかった。

 そうこうしているうちにみんなが帰ると言っていた17時が近づいてきたから、途中で終わることになったけど、ぱっと見ではどちらが勝ったのかわからないから、スマホの電卓アプリを使って計算することになる。


 ……できた。私たちの総資産は7050ドル。

 葡萄とみかんちゃんは何ドルだったんだろう?


「何ドルだった?」

「6850ドルだったよー。林檎の方はどうだったの?」

「7050ドル! やったー! 勝てたー!」


 私はいちごちゃんの方を向きながらバンザーイ、とポーズを取る。


「やったね! りんちゃんのおかげだよ~」


 と言って私を抱きしめてくる。

 はわわわわわ!

 ドキドキ、ドキドキ。心臓の音が明らかに大きくなっているのが自分でもわかる。

 こんなの聞かれちゃったら恥ずかしいよ~。


 いちごちゃんが私から離れる。

 え……もっとハグしてたかった……。いやでも私が持たないからこれでよかったんだ。うん、そういうことにしておこう。でも、もうちょっと心に余裕を持って、長いことハグできるようになったら、きっと幸せなんだろうな……。



 そんなこんながあって、モノポリーを片付けて、みんなが帰宅する時間になった。


「今日は楽しかったよー! またモノポリーもしようねー!」


 と手を振る葡萄。


「うん! またやろやろー」

「うちも楽しかったで! 今日負けたんは悔しかったけどな。次こそは勝って見せるで!」

「こっちも負けへんで!」


 つい関西弁で言いたくなっちゃった。みかんちゃんの元気さにつられるの、なんだか楽しいかも。


「今日はりんちゃんといっぱいお話できて楽しかったよ~。またお話しよー!」

「うん!」


 いちごちゃんもそう思ってくれたんだ! すっごく嬉しい!

 えへへー。

 嬉しくてしょうがないから私は満面の笑みをいちごちゃんに向ける。

 大丈夫。これはきっと気持ち悪い笑顔なんかじゃないはず……。

 むしろ、今が一番幸せな顔をしてるんじゃないかな。

 いちごちゃんのこと、すっごく好きになっちゃったかもしれない……。


「それじゃあまたねー! バイバーイ!」

「バイバーイ!」「またー!」「じゃあね~!」


 今日は楽しかったなー。いちごちゃんにドキドキしっぱなしだったけど。

 これは、この感情についてちょっと調べてみないとダメかもしれない。

 恋だとか愛だとか好きだとか。もう何が何だかわかんないもん。

 ちょっとスマホで調べてみよっと。

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