第6話 いちごとおうちで③

 ルール説明になかなか時間が掛かっちゃったけど、やっとモノポリーが始められる。


 私はさっき使ったアイロンのコマをそのまま使うんだけど、葡萄は戦艦を、いちごちゃんは帽子を、みかんちゃんは馬を選んでいた。


 馬はただの馬ってわけじゃなくて、人が騎乗していて馬の前足が高く上がっているから、すごくかっこいい。みかんちゃんも「これかっけー! うちこれにする!」って言って選んでたから、その気持ちはすごくわかる。


「それじゃあじゃんけんで勝った人から時計回りにやろっか。最初はグー、じゃん、けん、ぽん!」


 私だけがチョキを出して、他の3人はみんなパーだったから私からだ。

 こたつの4辺にみんながそれぞれ座っていて、私の左が葡萄、対面がみかんちゃん、右がいちごちゃんだから、私、葡萄、みかんちゃん、いちごちゃんの順番だ。


「じゃあ私から始めるねー」


 そう言ってサイコロを振る。

 ころころ。

 1と2だから3だ。

 私のアイロンのコマはダークパープルの帯が入ったバルティック通りに止まる。


 ダークパープルの土地はふたつしかないから、もう一つ手に入れるだけで独占できる。でも最初の方のマスだから色々と安いんだよね。『GO』のマスから離れるほど高くなるから。とはいえまだまだ最序盤。資産は増やしておきたいから買おう。


「60ドルで買いまーす」


 私は床に置いたケースに60ドルを仕舞い、該当の権利書をボードの外側のこたつの部分に作った手持ちスペースに追加する。ボードがこたつの大部分を占領してるから狭いんだよね。


「それじゃあ次は葡萄の番ね」

「はーい」


 ころころ。

 5と6で11。

 葡萄が軍艦のコマを動かす。


「いち、にー、さん……えーと、ここで11かな?」

「あってるよー」

「えーと、セントチャールズプレースだって。ピンク色だー。買うねー。いくらだろ?」

「140ドルって書いてるね」

「じゃあ払うねー。えーと、100ドルと20ドル2枚でいっか。……はい、どーぞ!」


 そう言って葡萄が両手に持った140ドルを私に手渡してくる。

 ……かわいい。動作がもうね。両手で渡してくるところがポイント高い。懐いてる感じがして嬉しい。好き。やっぱり幸せな気持ちになれる。


 やっぱりいちごちゃんに対してはああなるけど、葡萄に対してだって好きって思うんだよね。うーんこの違いは何なんだろう?


「ありがと~! これ権利書ねー」

「やった~」


 葡萄が権利書を受け取って自分の手持ちに加える。

 まじまじと読んでてかわいい。小動物感あるかも?


「それじゃあ次はみかんちゃんの番ね」

「よーし、でっかい出目出すぞ~」


 ころころ。

 5と5のゾロ目で10だ。


「あ、ゾロ目やとなんかあるんやったっけ?」

「うん、そのターン終わってからもっかい振れるよ」


 みかんちゃんがかっこいい馬のコマを持つ。


「やったぜ。10やから……ここやな。あれ、でもこのマスはなんなん?」


 みかんちゃんが止まったのは刑務所見学のマス。特に何もないマスだけど、刑務所見学だなんて実際には聞いたことが無い。そんなのあるのかな?


「特になんにもないよー。だからもっかい振ってー」

「おっけー」


 ころころ。

 4と4のゾロ目で8だ。

 またゾロ目なのはすごいけど……。


「やべ、またゾロ目やん! すごー」

「あーでも次もゾロ目だったら刑務所行きだからね。3連続ゾロ目は刑務所だから」

「おっけ。8だから……ここか。水道会社? これは土地じゃないん?」

「土地とはまた違うねー。あえて言うなら電力会社と合わせて独占みたいなことできる感じ。レンタル料の取り方がサイコロ振るってやり方なんだよね」

「へー、面白そう。買ってみるわ」

「まいどありー。150ドルね」

「えーと、100ドルと50ドルで……はい、これ」

「ありがとー。じゃあこれ権利書ねー」

「ありがと。えっともっかい振るんやったっけ」

「そうそう」


 ころころ。

 3と6で9だ。

 流石に3回連続ゾロ目になるなんてことは無かったみたい。


「9だから……ここか。もう1周が近いな。調子いいぞ~」

「わーすご。1ターンで最後のブルーのとこまで行くなんて」

「いえい。当然買うよね」

「350ドルになります」

「たっか! でもレンタル料も高そう」


 みかんちゃんがそう言ったから、私はその土地、パークプレースの権利書を見せる。最初のレンタル料自体は35ドルだけど、家3軒からは1000ドルを超してくる化け物だ。


「え、やば。高すぎやん。これはすごそう……。これ350ドルね」

「はーい。じゃあ権利書どうぞー」

「おおお」


 みかんちゃんは目を輝かせてその権利書を見つめている。

 確かに色々と高いからその気持ちはわかる。ダイヤモンド見る感じだよね。

 あれ? またみかんちゃんの気持ちがわかるって思ったの、偶然かな?


「じゃあ最後にいちごちゃんの番ね」

「はーい。振るねー」


 ころころ。

 3と5で8だ。

 いちごちゃんが帽子のコマを持つ。


「えっと、いち、にー、さん……はち。バーモント通りって書いてるね。100ドル……。じゃあ100ドル出すね~」


 そう言って片手で私に100ドルを渡す。

 私は権利書を準備して……ってなかなか見つからない。


「あ、ゆっくりで大丈夫だよ~」

「うん。ちょっと待っててね。えーっと、これだ。これ、権利書ね」

「ありがと~」


 よし、自然に振る舞えたぞ。目は合わせられないけど……。

 目なんか合っちゃったらドキドキしちゃいそうで怖い。


 みんなの番が終わったから、また私の番だ。


 そうやってサイコロをころころしてぐるぐる隣に渡していって、何周かしていくと土地の独占が始まってきた。


 最初に独占したのは私で、ダークパープルを独占できたから一気にホテルまで建設しちゃった。家1軒が50ドルでふたつの土地に4つずつ建設して、家が4つある時にさらに50ドルを払うことでホテルが建設できる。ちなみに4つの家はケースに戻して、ホテルと交換する形で建設することになる。というわけで、私は合計500ドル払ってふたつの土地にホテルを建てた。


 ここにみんな止まってくれたらいいなと思ってたんだけど、みかんちゃんが1回止まってくれただけで、なかなか止まってくれなかった。

 うーん、これだけだとまだ赤字なんだけどなぁ。


 そんな中、葡萄が一番最後にある土地、ボードウォークに軍艦のコマを進めてその土地を購入する。


「あれ? そういや、みかんちゃんもブルーの土地持ってたよね」

「持ってるけど、それがどうした?」

「ふたつあればここ独占できるんだよ? ちょっと交渉しようよー」


 そうやって交渉する葡萄とみかんちゃん。

 交渉の結果、葡萄がみかんちゃんに1000ドル払ってもう一つのブルーの土地、パークプレースを買収して、ブルーを独占することになった。葡萄はお金持ちなのだ。みかんちゃんはお金が無かったから渋々といったご様子。


「みかんちゃん、ありがとね! それじゃあ家3軒ずつ建てます! 200ドル×3の600ドルずつだから1200ドルね!」


 そうやって銀行係の私に1200ドルを渡してくるけど、葡萄の手持ちはほとんどゼロになっていて、大丈夫なのかな? なんて思ってしまう。チャレンジャーだ……。

 まあ誰かが一度ブルーの土地に止まるだけで1200ドルの元が取れるくらいレンタル料が高いから、理にはかなっている。


「はーい、じゃあ家6つどうぞー」


 そうして葡萄が家を3つずつブルーの土地に置く。

 明らかな危険地帯ができてとても怖い……。

 特に私はあと5マスか7マスというところでそこに行ってしまうからマズい。

 確かサイコロを2つ振ると、7が一番出やすいとか聞いたことあるけど。

 ……さては狙ったな?


 みかんちゃんといちごちゃんが無難にコマを進めて私の番になる。

 緊張したおも持ちでサイコロを振る……。

 どうか5か7は出ませんように……。


 ころころ。

 1と6……。


「あーん、もう終わりだぁーーー! うぅーーー」

「はい、1400ドルね!」

「そんなお金無いよ~!」

「じゃあ借金だね。確か抵当ってやつだっけ?」

「土地全部抵当に入れても足りません……。お金払ってばっかだったしなぁ」

「じゃあ破産?」

「えっと、確かまずは仮破産ってやつになって、誰かからの救済を受けられなかったら破産になって葡萄に全財産渡すことになったはず……。でもこんな金額、救済してくれる人なんていないよね……」

「いちごが救済してあげようか?」

「え! でもそれ、いちごちゃんにメリット無いんじゃないの?」

「ううん。ちゃんと条件があるの」

「その条件って……?」

「いちごの隣に来て一緒にプレイしてほしいなぁ。そしたら代わりにお金払ってあげるよー。んーと、これってプレイヤーが社長みたいなものだから、言うなれば合併?」


 何その魅力的な条件。願ったり叶ったりじゃん。

 え、だっていちごちゃんの隣に居られるってことだよね?

 え? やばい。嬉しい。


「うんうん! するー!」


 私は二つ返事でOKを出したのだった。

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