第4話 いちごとおうちで①

 昨日は寝る前に「葡萄がかわいかったなぁ」って思い出してて、幸せな気持ちのままぐっすり寝られた。だから今日はすごく元気だ。


 今日はみんなとクッキーを食べたり遊んだりする日。

 わくわく。


 予定時刻の10分前。12時50分。

 「ピンポーン」とインターホンが鳴り、早速お客さんが来たことを知らせてくれる。


 インターホンの画面を覗くとそこには葡萄がいた。


「来たよー」

「入ってー」


 そうして私はマンションの入り口の扉をボタンで開ける。

 うちは105号室だからすぐ着くだろう。


 私は玄関まで行き、扉を開けて先に共用廊下に出て待つ。


林檎りんごー!」


 葡萄ぶどうは私の元に来て、勢い余ってそのままハグしてきた。

 ぐは。


「いやー、葡萄も元気だねー」

「元気だよー! 林檎に会えるんだもん!」

「そっかそっかー。なんか最近の葡萄は積極的だね? やっぱり恋愛小説の影響?」

「まあなんかハグしてるシーンとかよく書いてあるからちょっとやってみた」

「いや、にしては絶対勢いおかしいって……」

「まあまあ、細かいことはいいじゃーん」

「もーまったく。とりあえず入って入って」

「おじゃましまーす!」



 その5分後。

 ピンポーン。

 今度は誰かな。いちごちゃんか、みかんちゃんか。

 そう思ってインターホンを見ると、そのふたりともが画面に映っていた。

 

「来たでー」「やっほ~」

「あ、ふたりで来たんだね! 今開けるね~」


 そうしてまたボタンを押す。


「出迎えてくるから葡萄はちょっと待っててねー」

「えー、一緒に行くー」


 そう言って私の腕を掴んでくる。

 甘えたさんだなぁ。


「あー、わかったわかった。一緒に行こうね」

「うん」


 そうして玄関を出て廊下でふたりを待つ私たち。

 すると、すぐにいちごちゃんとみかんちゃんもやってきた。

 廊下でお喋りするのもあれだから、私はすぐにふたりを中に入れる。


 リビングまで案内したところでお母さんが挨拶に出てきた。

 さっきまではいなかったのに。マイペースだなぁ。


「あら、こんにちはー」

「「「こんにちはー」」」

「私は邪魔にならないように部屋にいるから、みんなゆっくりしていってねー」

「「「はーい」」」


 そんな簡単な挨拶をみんなが済ませると、ふと疑問が思い浮かぶ。

 クッキーいつ食べるんだろう?

 だって今はまだ1時……。お菓子の時間っていえば3時だから、それまでモノポリーするって言ってもルール説明含めたら途中で中断することになるだろうし……。みんなに聞いてみよっと。


「ねえねえ、みんなクッキーいつ食べる?」

「「いつでもー」」

 と葡萄といちごちゃんが言う中、みかんちゃんだけは、

「すぐがええなー! お腹空いたし、早くりんちゃんの作ったクッキー食べたかったからさ」


 と元気に話す。いやいや、作ったの私だけじゃないんだけどな……。

 すると、案の定葡萄が不満げな顔をして、「わたしも作ったんですけど……」と小さく口に出す。


「あ、ごめんごめん。葡萄も一緒に作ってくれたんやね。ありがと~」

「わかってくれたらそれでよし。うん」

「まあとにかくすぐ食べるってことで、ちょっとそこのソファでみんな待っててね」


 私はキッチンに向かい、クッキーをお皿に移す作業に取り掛かる。

 

 ……あ、飲み物どうしよう。クッキーといえば紅茶。だけど葡萄はオレンジジュースがいいって言うだろうし、いちごちゃんとみかんちゃんが何飲みたいかは未知数だ。

 聞かないと。

 わざわざソファまで行くのも面倒だから、私は声を大きくして聞こえるように言う。


「ねー! 飲み物どうする!? 紅茶かオレンジジュースか、それとも他の飲み物か!」

「うちはオレンジー!」

「わたしもー!」

「いちごは紅茶がいいなー」

「おっけー!」


 葡萄とみかんちゃんがオレンジジュースで、私といちごちゃんが紅茶。

 いちごちゃん紅茶好きなんだ!

 一緒なの嬉しいなー!

 えへへー。

 あとでこの話しちゃおっと。


 3人の話し声を遠くに聞きながら私は準備を進める。

 ティーバッグを大きめのティーポットに入れてお湯を注ぎ、オレンジジュースをガラスのコップに注いで……。あ、ティーカップも。


 ……これでよしと。

 一気に全部は運べないから2回に分けて運ぼう。

 

「クッキー持ってきたよ~。あと飲み物は次持ってくるから待っててね」

「あ、わたしが運ぶよー」


 そう言って、葡萄が手助けを申し出てくれる。

 葡萄は何度も家に来てるから、私の家のことをよくわかってる。

 だから任せちゃおう。


「ありがとー。でも一度で運べる量じゃないし、運ぶのはふたりのオレンジジュースの分だけでいいよ~」

「りょーかーい」


 そうやって準備を終えて、私たち4人は電源の入ってないこたつに入ってぬくぬくする。

 いや電源入ってないのにぬくぬくも何もないんだけどね。まあまだ4月だから電源入れなければギリギリ許されるよね?


 私たちが囲むこたつの中央には、私が持ってきたクッキーが乗ったお皿があって、早速それをみかんちゃんが「いっただっきまーす!」と言って食べる。


「うめぇ! ちゃんとクッキーっていうか、めっちゃおいしい」

「ありがとね~」


 そんな感じでみんなでクッキーを食べてると、さっき思いついた話題を思い出す。


「ねえねえ、いちごちゃんって紅茶好きなんだね」

「そうだよ~。りんちゃんも一緒なんだねー」

「うん! やっぱりクッキーには紅茶だよねー!」

「うんうん、クッキーの甘味を引き立ててくれるからやっぱり紅茶は必須だよねー」

「ねー!」


 うへへ。可愛いいちごちゃんとこうやってお喋りするの楽しすぎる!

 いちごちゃんが私だけに向ける笑顔を見れて、私も笑顔になっちゃうし幸せ。


「いやいや、紅茶なんて渋いだけじゃん。オレンジジュースのがおいしいんだから、おいしい×おいしいでこっちのが良くない!?」

「そうだそうだー! ウチも絶対オレンジのがええと思う」


 そんな対立が起こってしまったけど、いちごちゃんがそれを止めにかかる。


「まあ好きなものは人それぞれだからね。いちごとりんちゃんは紅茶が好きだけど、みーちゃんとぶどっちはオレンジジュースが好き。それでいいんだよね。だからこの話はおしまーい!」


 わぁ、いちごちゃん大人だ~。

 なんだか頼りがいありそうだなー。


 ……なんだか甘えても許されそう。


 頭なでてーって言ったら、してくれたりするのかなぁ。



 …………はわわわわぁぁぁ!

 つい想像しちゃった。あーなんだか顔熱くなってきたような……。


「あれ、りんちゃん顔どうしたの? 赤くなってるよ?」

「あ、いや、これは……」

「熱でもあるの? ちょっとおでこ貸してね」


 そうやっていちごちゃんは私のおでこに手を当てる。


 あわわわわ、おててが!当たってるよ!!!しかも可愛い顔が近いちかいちかい!ああああああぁぁぁ……


「ちょ、ちょっとお手洗い行ってくる!」


 そうして私はトイレに逃げ込む。ドアを閉める時に大きく「ばたん!」と鳴らして。


 心臓がバクバクする……。はぁ、はぁ……。

 これはなんなんだろう? わからないけど、とにかく変だ。

 これはよく聞く『恋』ってやつ……なのかな?

 好きな人に対して抱くと言われてるあの『恋』。


 でも私は葡萄もいちごちゃんもみかんちゃんも同じように好きだと思ってたんだけど……。葡萄と一緒にいる時は他の友達と違って、おてて繋いでたら幸せーって思えるし、みかんちゃんに対しても似た感情を抱いたりしてる。


 でもいちごちゃんに対するこの感情はちょっと違う気がする。

 刺激が違い過ぎるよぉー。

 だって、葡萄やみかんちゃんにはこんな気持ちになったこと無いんだもん。

 でもいちごちゃんに対してはなんだかすごくドキドキして、近づかれると緊張して……。


 あーもう、よくわかんない!

 とりあえず落ち着いてから戻ろう。うん、そうしよう。

 

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