「騙されなかった」のに、間に合わなかった。

  • ★★★ Excellent!!!

戦時下の町に撒かれた「立ち退きビラ」。
住民たちは「騙されない側」に立って、詐欺を叩き、見回りをし、正義の顔で集会を重ねていく。

でも読み進めるほどに見えてくるのは、誰もが本当は揺れていたこと。
金が欲しいからではなく、疲れ切った生活の中で「逃げ道が欲しかった」こと。
そしてその揺れを、たった一人の“病弱な男”が悪夢と酒で背負わされていく残酷さ。

荒唐無稽に見える「未来を知る者」の言葉が、現実の重さ(疎開、奉仕、軍人の暴力、闇の共犯)に縫い付けられていき、最後の「蒼天に機影」で全部が反転する。
この結末は、騙された/騙されなかったの話ではなく、信じることでしか生き延びられない時代の、人間の姿そのものだった。

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