エピローグ

あぁ私の人生は何だったのだろう。

優斗と居た人生はどこに行ってしまったのか。

この狭い部屋に閉じ込められて早々に私は目を潰した。自分の手で。

ここに私の見たいものは無かった。

そしてこれからも。

私が見たいものはもう存在していないのだと理解するのが怖かった。

狭い部屋で決められた時間に決められた量の食事を摂り一日の大半を刑務作業にあてられる。

それに付け加え私には週一回のメンタルケアの時間が設けられる。

精神科医がくだらない世間話を話しに来る。

聞きたくもない話を延々と。

私は疲弊していった。

今日は誰かが面会に来るらしい。お母さんかな。

違った。あの夢見がちな警察官。

出来もしない綺麗事を、上っ面で語るだけの可哀想な人。

私もそうだ。

大丈夫かと聞かれた。見れば分かる大丈夫な訳ない大丈夫だったらこんな顔してないでしょ。

それでもこの人はしつこく声をかけてきた求めてもいないことを。

最低だ。

かなり強く当たってしまった。これで諦めるだろうか。

自分でも本心が分からなくなる時があって、助けて欲しいのかこのままで良いのか分からなくなる時がある。

素直に助けてと言えたならどれだけ楽になれるだろう。

そう思えば思うほど後には引けない事をしでかした事実が私を赦さなかった。

溢れ出る涙を止めることが出来なくて嗚咽が酷くなる。優斗、助けてよ。優斗。


そろそろこの生活も一年が経とうとしていた。

寒い冬を越えて徐々に暖かくなり始めた頃。

あの人は懲りもせず私に面会を求めているらしい。差し入れは必ず手紙付きで送られてくる。

中身は本か日用品でどちらであっても手紙は必ず入っている。

書かれていることは特別なことではなくただ私を心配しているという旨だった。

ここまでくると称賛の拍手でもしてやらなくてはという気持ちになる。

他の人とは違って可哀想だからを理由に動いている人では無いと思っていた。

ただ純粋に助けたいという無垢な気持ちが伝わってくる。のが今の私には合わないのだ。

応えたいけどその先で待っている苦痛を受け入れられるほど私は強くない。

これ以上苦しい思いは御免だ。

勝手なのは重々承知している。

人を大勢殺しておいて。何も背負わず何も覚悟出来ずそれでいてなお私はこの現実を許容出来ない。

楽をしたい訳ではないただ苦しいことから目を背けたいだけだ。

それを楽してると言うのだろう。笑ってくれ嘲笑し好きなだけ罵ればいい。そうしてください。

好きな人を失って壊れた心を誤魔化して、限界だ。

私は身に付けていた衣服を紐状にして鉄柵に括り付けた。

輪っかを作って体を預ければ自然と締まるように。

首を圧迫されて上手く呼吸が出来なくなり、体中の血液が頭に上っていく。

達磨みたいな顔してるかも。

数分経てば意識がだんだんと薄れていく感覚に陥る。

身を委ねて目を閉じる。

終わりはすぐそこにまで来ていて、私の手を引いてくれていた。

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