門の怪人物

 孔明氏の遺体は警察庁の者によって死亡解剖に廻されたが、あの医者の言うには周囲にアーモンドやその類はないのに臭うため青酸カリにほぼ間違いないという。細かい所は警察に任せるとしよう。

 応接間は当分警察が使うことになって、古谷家の者は警察を日常に見るとなかなか落ち着かなくなるだろう。

「お悔やみ申し上げます。」

「ありがとうございます。」

と話すのは孔明氏の子供の譲治と白夜であった。彼らの目からは涙がポロリとポロリと服の色を濃くしている。

 そしてもう一人は現場にいたあのピエロの仮面を被った人は山根蒼であった。

「しかし父が探偵に依頼をしていたなんて思ってもいなかったわ。」

 あのピエロの正体は探偵山根蒼であった。

「お家族には話されていなかったのですか?」

「ええ何故かは分かりませんが。あの父の代わりに私があなたに依頼しても構いませんでしょうか?」

「僕からもお願いします。どうかあの絵画を取り返してください。」

 絵画を奪われただけではなく実父まで殺されて許せない二人に頭を下げられて

「分かりました。是非お受け致します。それで早速お尋ねしますが、この屋敷で起こった停電は何らかのドッキリかなんかですか?」

「いいえ、お客様には言わなかったのですが、あれは輪番停電でございまして丁度重なったまでで」

「すると知っているのはあなた方古谷家ということですか」

「いいえ、招待状を出した人達に停電することをあらかじめ言っておきました。それがどうかしましたか?」

 山根は膝に両手を添えて下唇を引き込んで

「犯人は今晩の仮面舞踏会で停電があることを知っていたかもしれないと思ったのです。しかし客人全員が知っているとなると、、、、今の所分かるのは今会場にいる全員に犯人の容疑があるということですね。」

 しばらく沈黙の部屋を歩いた所へドアが開いて

現れたのは一本の細木のような男でいかにも気が強そうな強豪の顔をしている。

「事情聴取ですか?」

「ええ、今回の事件を担当することになった警部の朝霧耕平です。では皆さん方どうぞ事件解決に御協力ください。」

 強豪な顔が変わらないのは彼ら警部が関係者に対する心理行動なのだろうか。

 すると山根の顔はパッと明るくなり朝霧警部を指差した。

「もしかして朝霧か?」

「あっ山根じゃないか」

 二人は一瞬抱きあおうとしたが二人の前なので元に戻った。

 それはさておき私たち三人はほんの一瞬顔を見合わせると娘白夜が

「分かりました。なんでも御協力しますので絶対事件を解決してください。」

「必ずお父様の無念を晴らしてみせます。」

「お願いします。」

 さてという感じで椅子に座る朝霧警部は枝のような手で懐から手帳とペンを取り出し

「早速なんですが貴方たちはあの会場の何処にいましたか?」

「私と兄様は一緒にいました。」

 じっと彼女を穴が開くほど見つめるがそれに気付いた譲治は

「会場にいた人に聞いてみてください。僕たちが一緒だった所を見た人が大勢いるでしょう。」

 朝霧警部は視線を手帳に落とすと音を立てながら文字を書く。他の者は失敗したときや供述が変わった時のためにほとんど鉛筆だが彼は万年筆の音が大の好きで肌見離さず持ち、失敗したなら文字の上に線を引く。

「それであんたは?」

 ハッとした山根は内心少しビクッとして朝霧警部の問に答える。

「僕は階段の直ぐ下ににいました。」

「あんたはこの屋敷の者ではなさそうだな。二人との関係は?」

「僕は亡くなった孔明氏に絵画を依頼されて、この屋敷に来ました。」

「依頼というのは?」

「あの聖母の黒薔薇を守ってくれとの事でしたが、まさか殺人事件が起きるなんて想定外でしたよ。」

 次に白夜に

「誰か孔明氏に怨みを持っていた人物に心当たりありませんか?」

「私は分かりませんは、兄様は分かりますか?」

 ハッと思い出し

「それなら一人、戦前のことなんですが警部さんクリスタルという宝石店をご存知でしょうか?」

 朝霧警部が首をひねて皺を寄せているところからして知らないのだろう。

「実はその店の社長は父とは犬猿の仲で、先に店を起こしたのに後から店を出した父に苛立ち、よく嫌がらせを父にしてました。」

「その社長の名前や特徴は?」

「その人は水木源蔵といい、小柄な方で戦争で右手の中指と薬指がないと風の噂で聞きました。」

「なるほど、ありがとうございます。その人も会場に?」

 可愛らしい首を振る白夜は

「いいえ、しようとしましたがお父様に止められて、、、、」

朝霧警部は低い頷きと声を出して再び手帳に書き記し終えると山根は突如彼に

「あのもしかして会場のいた人を全員に事情聴取をするのですか?」

 それを聞いた途端朝霧警部は深い息を吐いたと思えば今まで太陽を見ていたミーアキャットのような姿勢から一気に猫背に変化し

「そうなんですよ。まっこれが警察の仕事ですから」

 毒息を吐いてその場を後にするのを山根は

「私の予測なのですが、彼らの中には犯人はいないと思うのです。」

 突然の発言に一瞬全員に聞くのをやめようと思ったが念のために目を細めて

「なぜです?犯人が紛れ込んでいる可能性があるんですよ。」

 喧嘩を売ったような気がした山根はおどおどしながら

「いや、しかし今時分にはもう犯人は逃げているでしょう。今会場にいられる方々全員会社を経営をしている者で、戦争で経営が悪化したため孔明氏に会社を支援してもらおうと頼み込みに来た人たちです。自業自得をしてまで殺そうとは到底思わないでしょうから彼らは犯人ではないです。」

 そう古谷邸で行われた仮面舞踏会の古谷家の者たちを除いて出席者は山根が言っていたような人たちだらけなのである。彼らの外見は一見舞踏会を楽しんでいたが、心中は「自分の経営を立たせるために相手の機嫌を取らせなければ」を強欲とタイミングを図る獣のような目つきで孔明氏の顔や行動を監視していたのである。

 しかしそれは彼の死亡によって射る的が変わった。遺言状がなければその人物は配偶者の舞美瑠である。

 そして警察が次に襲われる可能性が大きいと考えているのは同じく舞美瑠であり、彼女の周囲には警察が目を光らせて監視続けるであろう。

 それと会場にいる者たちは会社を経営しているが他県に建てた店舗は戦争で黒炭同然になってしまったため、新しく建築するために資金が必要でその後経営を右肩上りにするためこれまた資金が必要になるので、古谷家の足の脛をかじるためにまるで自分のために用意された場のような仮面舞踏会に足を運んで、のちのち資金相談を計画していたのを各会社の者が白状をした。そして今は資金相談が延びて多少苛立っている。

 朝霧警部と山根は会場にいた者たちの事情聴取に焼けくれておりながら一件一件聞いており、アリバイやいた場所を聞くに加えて

「それともう一つ会場にいた際に怪しい人物を見ませんでしたか。特に右手の中指と薬指がない人物は、、、、」

 そしてたった一社だけ気味悪そうな瞳で

「顔は分かりませんが実は停電になる前、門の所に変な男がうろうろしていました。確か右手の指が少なかったような。」

 これは気になる発見だ。これでその怪人物が水木源蔵である可能性が濃厚になってきた。

「もしかすると、その水木源蔵が変幻仮面で予告状を出して絵画を奪ったあげく孔明氏を殺害したんじゃないか。」

 下唇を噛んだ山根は

「だけどあの顔は確かに濱家五郎だった。気になるのは何故あんな悔しそうな顔をしたかです。予告状通りに絵を盗み犯罪を成功させたのに何故?それともう一つ気になるのは絵画の行方です。おそらく絵に触れると鉄格子が降りる仕組みになっているのでしょうけどどうやって抜け出せたか?確かにあった物が一瞬でなくなって、それは何処に行ったのか。」

 するとドアが独りでに動いたと見え、影から現れたのは一人の警察で朝霧警部に

「警部これを見てください。」

 差し出してきたのは一枚の布切れであったが端が何かの拍子に切れたのか荒々しい跡が残っている。

「これをどこで見つけたのですか?」

「鉄格子の下敷きになっていたんです。」

「マントの切れ端ではないですか?つまり変幻仮面は逃げる際に引っ掛ったのではないでしょうか?」

 なんとも分からなくなるばかりである。消えた絵画に怪しき怪人、突如現れた怪人物の水木源蔵と古谷氏は何故殺されたか。これらが事件とどう筋になっていくのかいささかまだ分からない。

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