第11話

 誰かが呼んだのであろうパトカーが到着して、店長は抵抗することなくパトカーに乗せられた。母親は別のパトカーに乗せられていたが、懸命に警察官に

「あの子は悪く無いんです。私がすべて悪いんです。どうか、どうか、息子を助けてやってください」

と、熱心に何度も繰り返し訴えていた。

 オレたちも他の警官に保護されていたが、最後に少しだけ、店長と話すことができた。

「君たちみたいになりたかったよ。親しい友人が居て、毎日輝いて……そんな君たちを見て居るのが好きだった」

「誰かのように、じゃなくて」

「そのままのあなたでいてください」

オレとタケトの言葉が、自然に続いた。だからこそのオレたちだ。誰のようにでもなく、誰に合わせるでもなく、そのままで友達なおれたちだから。

「……こんな、ボクのままで?」

店長が小さく呟く。自分のしたことを後悔しているからこそ、悪い事をしたと思っているからこそ出て来る言葉だ。やはりこの人は、悪い人じゃない。

 そもそも悪い人なんているんだろうか。全部が全部、悪い人なんて。だって、人間には、

「人間には、色んな面があります。優しい面もあれば、狂気的な一面も。あって当たり前なんですよ。ただ、それに飲み込まれたらダメなんです。何より、自分のために。そして、自分の愛する誰かのために」

そう言ったのはタケトだった。オレが思った事そのままの言葉。オレは改めてタケトを誇らしく思った。

 店長の乗ったパトカーを見送り、オレたちは警官から簡単に事情を聞かれていた。すると、青い制服の波を掻き分けて、黒いスーツの女性がつかつかとこちらへ向かってくるのが見えた。オレが何だろうと思って見て居ると、近づいてくる女性は鬼の形相であった。

「げっ」

オレが悲鳴を上げるより先に、タケトが蛙が踏みつぶされたような声を出した。オレが振り向くのと、タケトがオレを突き飛ばすのが同時だった。

「タケ、」

よろめいたオレが体勢を立て直してタケトの方を見ると、そこにあったのは、スーツの女性の手刀を白刃取りするタケトの姿だった。

「こンのバカタレ、がっ、」

そう言うと女性はさっと離れて今度は回し蹴りを繰り出した。それをタケトは慣れた様子でいなす。その後も女性から繰り出される拳をするすると避けていた。オレはそれをぽかんと見ていた。何故か周りの警官達は苦笑いを浮かべてその様子を見て居る。何故止めないんだろう。そう思った直後、女性の執念の平手打ちがタケトの頬にさく裂した。

「どんだけ周りに心配かけたと思ってる!」

続けざまにタケトの胸倉を掴み、女性は嚙みついた。タケトは頬に手形をつけたままで

「だから、ごめんて、姉さん……」

「姉さん?!」

オレは思わず声を上げた

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