遠い記憶
テーマ
「そういえば、君は誰?」
「忘れました。」
「あなたは?」
「僕は利夫というけど」
「自分の名前を忘れたの?」
「昔、礼子と呼ばれていたような気がします。」
「そうなんだ。」
「遠くで汽笛が鳴っているね。」
「そういえば、以前も鳴っていたような気がします。」
次第に消えゆく音に二人は何を感じたのだろうか。
夢なのか現実なのか
知るのは記憶のみかもしれない。
微かな潮の香りとともに。
「利夫、グラスを落として怪我はないか?」
「怪我は既にしています。」
「そうか。」
「もう一杯飲むか?」
「僕は本当の利夫でしょうか。」
「ああ、そうだ。」
「怪我の痛みは時期に治る。」
「そうだといいのですが。」
「忘れろ。」
「記憶の痛みは治るでしょうか?」
「お前次第だな。」
「痛みは治すべきでしょうか?」
「それも、お前次第だな。」
「鳥が帰ってきました。」
「私の心にとまることができるのでしょうか?」
「礼子、いつの日かとまるわよ。」
「そうでしょうか?」
「礼子、あなた次第よ。」
「お母さん、やはり、私は鳥のようになりたい。」
「大丈夫よ。」
「あなた次第でなれるから、信じて。」
「利夫さん、もう、別れましょう。」
「突然、どうしてそんな事をいうんだ。」
「もう限界です。」
「やり直せるよ。」
「いえ、もう、無理です。」
「明日が見えません。」
「そんなことはないよ。」
「僕が明日をつくるから、考え直してくれ。」
「なぜだ。」
「なぜ、そんな事を言うんだ。」
「だから、限界なのです。」
「私の事は忘れて下さい。」
「いつも、疲れた利夫さんを見るのは辛いです。」
「そんな・・・」
「それでは、元気になってください。」
「お願いします。」
「先生、礼子は良くなるのでしょうか?」
「それは、厳しいですな。」
「そんな、どうして・・・」
「でも、諦めたら駄目ですよ、お母さん。」
「はい、わかりました。」
「お母さん、私の病気は良くならないの・・・」
「聞いていたのね。」
「でも、諦めたら駄目だって先生がおっしゃっていたでしょう。」
「お母さん、これ以上は辛いの・・・」
「大丈夫よ。」
「ゆっくり休んでいて。」
テーマ
「まだ、歩いていくのですか?」
「そうだね。」
「答えが出るまでかな。」
「答えは出るのでしょうか・・・」
「それは、わからない」
「でも、遠くに灯りが見えるだろう。」
「そうですね。」
「そこまで、たどり着くことが出来るのでしょうか?」
「そのために、歩いているんじゃないかな。」
「そうですね。」
「忘れられるのだろうか。」
「生きていくとはどういう事でしょうか?」
「今はわからないんだ。」
「私もです。」
「こうやって、歩いていけばいつかは分かるんじゃないかな。」
「そうでしょうか・・・」
「そうだよ。」
「手を繋いでもいいかな?」
「はい。」
「空には月が出て、なぜか雪が降っているね。」
「でも、君の手は温かいよ。」
「利夫さんの手も温かいです。」
「私は時々思います。」
「何を?」
「自分が消えて無くなっていくんじゃないかなって。」
「この雪のように。」
「消えるのなら、生まれてきてよかったのかな・・・」
「そうだね・・・」
「しかし、きっとわかる日が来るような気がする。」
「なぜなら、君がそこにいるから。」
「とりあえず、歩いていこう。」
「はい。」
海が静かに語りだした、海はどこまでも続いている。
遠くに灯りがある。
二人は灯りまでたどりつくのだろうか。
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