忘却
テーマ
「遠くに灯りが見えます。」
「本当だね。」
「微かな灯りです。」
「あれは、何だろうか。」
砂浜を歩く静かな音が漂う
白き波音とともに
それは、まるで、二人を包むようであった。
「利夫さん、利夫さん。」
「どうしたの、そんなに慌てて。」
「ほら、見て」
「すごいね。」
「きれいだね。」
「そうでしょ。」
そういう君はここにはいない。
記憶のみにしか存在しないんだ。
ただ、それも失いつつある。
遠いどこかへ
消えていくのだろうか。
「ほら、礼子が歩いたよ。」
「本当ですね。」
「笑っているね。」
「はい。」
私はこの地に生を受けました。
私という存在が誕生したのです。
そこには喜びがあるのでしょうか。
それとも悲しみが待ち受けているのでしょうか。
喜びも悲しみも消えていくような気がします。
「私は病気なの?」
「大丈夫だよ・・・」
「お父さん。」
「大丈夫だよ・・・礼子。」
「お父さん、お父さんって誰?」
「礼子・・・」
「お父さんなの?」
「礼子・・・」
「俺は誰だ。」
「お前は利夫に決まっているじゃないか。」
「俺は利夫か。」
「そうだ、お前は利夫という男だ。」
「生きていくという意味はどういうことだ。」
「利夫・・・」
「俺は生きているのか。」
「お前は生きているんだ。」
利夫さん、利夫さん
誰の声なの
どことなく遠くから聞こえてくる
聞いたことのある声
そういえば、私は誰
利夫さん、待ってください
誰の声
俺は死ぬのか
それとも消えていくのか
闇とともに
俺は死の道へ一歩一歩、進んでいっているのか
何、これは夢か
利夫さん、待ってください
どこかで聞いたことがあるじゃないか
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