第9話

 ゴーストシップは海中を進行した。

 深夜ジブラルタル海峡を抜ける。

 空気の精霊で船を包む泡でできた。

 水の精霊で動力として進む。

 食事はすませた。

 首は噛まない。

 手首をかむ。

 口が潤う。

 魚が船横を行き交う。

 綺麗。

 ここまで陽光は届かない。

 我々は燃えて灰になり死んでしまう。

 紫外線が有害なのだ。

 甲板に座り込んだ。

 一つ息をつく。

 モアが向こうからラムネサイダーを片手にやってくる。

 妖精アルフは眠らない。

 24時間働ける。

 ハーフ以降は普通に人間のように寝る。

 妖精もモアのような純血種は死ぬと花になるらしい?

 そっちの方がロマンチックだ。

「お姫様、飲む?」

 横に座ってきた。

「好みじゃないわ」

 黙って飲みだした。

 二人の移り香がする。

妖精アルフは子孫とも寝るのね」

「求められればね」

「ねぇ、モア」

「ん?」

「世界は白人を愛していて我々を愛してはいない」

 モアがグラスから口を離した。

「たくさんの人が死んだ。

 俺が生きてる時代、全てそうだった。

 この世は不条理で、不合理で、理不尽な事だらけだけど、前向きに生きるのが大人なんだ」

「へぇ、なんでも知っているんだ」

 私にとって前向きに生きるって、なんだろう?

「お姫様、いい事教えてあげる。

 フランチェスカとの間にできた子なんだけど、

 マルガレーテ・エスカチオンが論文を発表したけど、

 「進化論」は間違っているとは書いてないけど「超・進化論」。

 自然界は適者生存だけでない。

 品種の違う植物同士が化学物質フェロモンを使って話をしている。食べられ始めたら天敵を化学物質フェロモンで呼び寄せているし、太陽光の届かない微生物に光合成のエネルギーを供給したりしている。

 人間も脳を介さずに臓器同士が化学物質フェロモンを使って会話している。

 自然界はたくさんの種族と共生した種が生き残れる」

「私も新天地で共生できるかしら」

「「天動説」が駆逐して「地動説」が採用されたか分かるか」

「冒険者アメリカが飛空船で世界一周したから」

「ハハハハハハ、違うょ。

「天動説」を信じていたヤツが全員死んだからさ」

「何それ」

「伝統も大事だ、お姫様達の間では魔法と言わず伝統と呼んでいる。

 でもね若さを失って年をとるとはそういう事なんだ。

 お姫様なら大丈夫だょ、俺も50才を越えてたら保証しないけど」

「ソフィアの教えってロクでもないわね」

「教えだけじゃない、白魔法自体ロクでもない。

 白魔法があるからケガ人が余計に復帰できる。

 勇者サクラの国トーキョーなら誰も魔法を使えないから暴力はこの世界より少ないらしい。

 恥を注ぐ決闘の概念がないから、心に傷つける事をいう人が多いらしい。

 KKKクラック・クー・クランみたいに頭巾を被る分けじゃないけど、匿名で世間に名誉毀損するらしい。

 暴力がはばをきかせなければ、小賢しい老人の世界になる。

 白魔法は悪だが無くてもイヤな世界になる」

「世界ね」

「お姫様の食料事情を考えると、あまり旅に適した種族ではないなあ」

 モアが飲み干した。

「旅はいいょ、

 異文化との出会いがある。

 マーマンは男にも女にもなれるし、魔族なんか雌雄同体のもいる。

 精霊の中には物質化して植物精霊ドライアドのようにHできる場合もある」

「女の話ばかり」

「科学者とも討論したょ、原子力のツインシュタイン、ロケットのフォンブラウン、魔導科学のパラケルス。

 楽しかったなあ、皆生きてる間に月に行ってソフィアに直談判するって息巻いていた」

「科学は戦争を悲惨な物にした」

「昔からそんな綺麗じゃなかったょ。

 全ては個人の持つ道徳につきる。

 科学は悪魔にもなるし平和利用もできる。

 これから来るであろう惑星的課題に両科学の更なる進歩が必要」

「イデオロギーは衝突する」

「君はそんなに何かと同化しなくては生きられないかい。

 君個人の幸福とは関係ない」

「自尊心の問題。

 でもモア。

 人の幸福は所属先の地位が決めるのょ」

「違うょ、

 肥大した自己愛ではなく。

 バランス。

 ほんのわずかな自己肯定だょ」

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