第7話

 吹き飛んだ屋根の部材が降り注ぐ。

「船を上げて」

 ロープを掴んで姫が叫んだ。

 老執事が姫に覆い被さり破片から守った。

 モアも娘達から庇われていた。

 上空に登ると振り切って船先へと走った。

 銃声と光が明滅する多国籍軍を見た。

「姫、大丈夫ですか」

 ブラハム船長が駆けつけた。

 執事も近くに来る。

 まだ大祖父様は戦っておられる。

 モア達も駆けつけてきた。

「行くわ」

 多国籍軍を指差した。

「姫、この船で多国籍軍の目を引きつければ、皆が逃げ切れるとか言うのなら巻き添えはゴメンですよ」

 ブラハム船長が口にした。

「違うわ、勝つのょ」

 多国籍軍を見下ろした。

「勝算あるんでしょ。モア」

「ああ、西側も東側も世界中の民族に約束した二枚舌外交のつけを払う時がきた。

 世界中で戦争している。

 ここにだけ戦力を集中する分けにはいかない。

 議会に提出された予算という公開情報を分析すれば魔法防御に振り分けてはない。

 船籍まで分かっている。

 カミカセアタックにびびっている。

 火炎系の防御に金注ぎ込んでいるから。

 雷系ならイケる。

 一発かましてやろうか」

「雷の精霊を用意して、

 風の精霊で加速して、的になる気は無いわ。

 火砲には雷系の弾丸や呪符を用意して。

 さあ、始めるわょ」

「アイ・アイ・サー」

 船長が敬礼する。

 マミーやスケルトンがあわただしく動きだす。

 シャーマン系の悪霊イービルスピリッツが召喚を開始した。

 船が港に、多国籍軍に向けてどんどん加速して行く。

 風が頬にあたる。

 もう引き返せはしない。

 巡洋艦1、駆逐艦5、空母ナシ。

 いける。

 かつて誇ったこの国を舐めている。

 屋根の上を滑るように走っていく。

 港に到着すると、どの船も船体中央に砲台がある。

 側面にあるゴーストシップと違う。

「海に不時着」

 喫水線上に砲台を並べなくてはこちらの攻撃は当たらない。

 敵の砲台がこちらに照準をあわせる。

「防御陣を展開。敵の弾丸をはねかえせ」

 一部の悪霊イービルスピリッツ呪文スペルを唱える。

 魔法の光。

 赤い円盤がゴーストシップを展開。

 敵の砲台が火を吹いた。

 赤い炎が展開、海面が爆風でエグれる。

 防御陣が弾道を変える。

「こちらの射程はまだか」

 横にいた船長が「もうすぐ5、4、3、」

 巡洋艦を守るように方円陣をくむ中央に向かう。

 狙う必要はない。

 弾丸には自動追尾の魔法がある。

 昔に比べて命中率が高い。

「2、1」

「撃てー」

 側面の火砲が火を吹いた。

 雷を帯びた弾丸が次々と敵船にあたる。

 各所で浸水がおきるが、しびれる弾丸に触る所か近付く事もできない。

 雷の精霊が巡洋艦に向かう。

 次々と各所で人を襲う。

 悪霊イービルスピリッツ達が船体中央に魔法円を書き終えた。

「モア、アンタも手伝って、妖精アルフの巨大な魔力が必要」

 モアの手を魔法円まで引いた。

 ゴーストシップは巡洋艦に向かって行く。

 中央突破。

 それが戦略。

「モア、魔法円に魔力を供給して、

 いくょ」

 触媒をバラマキ、呪文スペルを唱えた。

 呪文スペルは特殊な才能も、素質も、適性もいらない。

 決められた手順を繰り返せばいい。

「稲妻招来」

 巡洋艦に落ちると船を真っ二つにした。

 ゴーストシップは再浮上。

 轟沈する巡洋艦の上空をかするように飛んで行く。

 海の男達。

 残りの駆逐艦は投げ出された人の救助にあたっている。

 船の縁に走った。

 大祖父様、お父様、お母様、一族の方々、行きます。

 船が燃えている。

 街が燃えている。

 運命が燃えている。

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