第14話 予選第2試合-2

 相手ボールで再スタート。どうやら相手は中盤でボールを保持してスキを伺い、どこからでもパスでの突破を仕掛けてゴールを狙うスタイルらしい。選手間の距離がやや近いにも関わらず無理やりワンツーなどで仕掛けてこないので、どちらかというと守備的なサッカーとなるか。


 だが先制点は俺たちがとった。まだ前半15分。ここで守備的なサッカーをしてくれるなら勝ちは近づくが、ふとしたときのカウンターは怖いな。


 右サイドを中心に3人でボールを回してくる。こちらもいつも通りSTとCMFの俺、SBの3人で囲みに行くが、包囲が完成する前にボールを下げられてしまう。そして大きくサイドチェンジして再びパスを回しながら俺たちの突破を図りに来る。


 これは少しイライラするな。というか、これが狙いなのかもしれない。我慢比べってわけか。相手のCFはこちらのディフェンス最終ライン付近からほぼ動いていないし、裏も狙っているのは明白。どこで均衡が崩れるかってところだな。


 と考えながら中央に戻った俺だが、ここで相手が動く。今まで横パスを中心に回していた相手左SBが縦に鋭いパスを通してこちらのCMFが抜かれる。相手のSMFとSTが2人がかりでこちらの左SB野藍先輩の突破を狙う。遅滞防御で味方を待つが、これまた大きく前に蹴り出したボールで抜かれ、相手STはクロスを放つ。

 俺はその間にペナルティアーク付近に戻り、相手CFのマークにつくが、どうも前に走り出す様子ではない。

 と、次の瞬間相手のDMFが後ろから猛スピードでゴール前へと走り込んできた。

 まずい、ノーマークだ。俺がそっちにマークを移ろうとするが間に合わない。


 左サイドから飛んできたクロスは正確にDMFの頭にあたり、同点ゴール。今大会初失点を喫した。



「上手くやられたなこりゃ。縦パスを警戒していなかったのがまずかった。いや、警戒していたが、相手のSMFかなりトラップがうまいな。」


「すみません。一本目のパスで止めていればよかったのですが。」


 左サイド組が言葉をかわしている。たしかに一本目で止めていれば攻守逆転と行けたかもしれないが、あの時直線のパスコースはほとんど切っていたんだ。だが、そこをワンステップで交わして早いグラウンダーのパスを出してきた。かなり高いパス連携能力がないとあれはうまくいかないだろう。俺には出来ない所業だな。


「さあ振り出しに戻っただけだ。俺らは俺らのやり方で点を取りに行くぞ!」


 染谷先輩の喝が入る。そうだ、どんなにパスがうまかろうと関係ない。俺はシュートが撃てればそれで良いんだ。そうすりゃ点が生まれるチャンスが増える。


 俺たちのボールで再開。いつも通り俺のところにおいてくるが、両サイドに走ったWGにもマークが付き、俺のシュートコースも両方塞がれている。対応が早いことだまったく。


 ゴールも見えないし撃ったところで威力が足りないな。警戒されているからキーパーに弾かれるだろう。これは仕方がないか?


「水瀬!撃て!後のことは考えんな!」


 おいおい味方からのご指名だってよまじか。前を見るとこちらへ突進してくる相手FWの後ろに前へと走るCFW郡山先輩とST風上先輩の姿が見える。キーパーが弾くこと前提の詰めってわけか。それなら撃てばチャンスが出来るかもしれん。俺のゴールにならないのは癪だがシュートを撃つことが出来るのは大満足だ!


 迫りくる相手FW2人のうち、背が低い左側の頭上を超える縦回転シュートを狙う。いつもよりややボールの下側を狙い、足を振り下ろす。

 使う足の部分はインステップ気味のインフロント。擦り上げるような形でボールをやや上方に蹴り出す。


 蹴ったボールはジャンプした相手FWの頭上を狙い通り通過し、相手ゴールへと迫る。が、予想通りキーパーはコースへと入り、キャッチの態勢だ。だが悪いな、今回のボールはそんなにキャッチしやすいボールじゃないんだ。


 ボールは急激に高度を落とし、ゴール左下ぎりぎりへと吸い込まれていく。足元へと変化したボールに対応しきれず相手キーパーは辛うじて体でブロックするが、ボールはペナルティエリアへと転がっていく。


 慌てて相手ディフェンダーもボールへと向かうが、こぼれ球の勢いは絶妙でキーパーもディフェンダーもまだ距離がある。


 郡山先輩はやや左サイドに開き気味の場所へ、風上先輩はペナルティアーク付近へ走り込んでいたので、先にボールにたどり着いたのは風上先輩だった。


 転がってきたボールをダイレクトでゴール右端へと押し込んで2点目。


「よっしゃー!ナイスシュート!」

「よく走った!」


 ベンチから声が飛ぶ中で先輩方へと走って向かう。


「おう水瀬、何もお前のシュートだけで決める必要はないんだぜ。あの距離からシュートが撃てるだけで、しかも枠にいくだけで俺らのチャンスが生まれるんだ。」


「そうだな、水瀬、俺たちもフォワードの一員でありストライカーだ。点を取ることに飢えてるのは変わりない。お前はどこからでもシュートを撃てば良い。入ろうが弾かれようが後のことは周りが上手くやる。」


 先輩方の点を取る意識がここまで高まっているとは思わず一瞬呆けたがすぐ引き締め直す。


「ありがとうございます。思う存分シュートを撃てるのはとてもありがたいです。ナイスゴールでした。」


 なんて言っていいかわからずよく分からないことを言ってしまった。が、周りは気にせず盛り上がっているようだ。だがまだ一点差。油断はできないし、相手のパスワークを封じることが出来ない以上こちらも守備に気を配る必要があるかもしれない。


「またリードしたが、さっきと同じように点を取られないよう気をつけなければな。攻撃もここで終わるのではなくどこからでもゴールを狙っていくぞ!」


 珍しく風上先輩が染谷先輩より先に声を出して発破をかける。メンバー全員もっと点を取ろうというような、前へ前へ行くという意識が見えるような雰囲気をしている。これは楽しくなってきたぞ。


 相手ボールでスタートしたが、まもなく時間切れ。もったいない形でハーフタイムへと突入するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

点取り屋 @ionic

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ