閑話 試合を目にした者たち
宝賀学院の二年生
「
面白いもんねぇ・・・ 確かにあいつは面白いが、本物かどうかは見てみないと分からないねぇ
「あー、先輩、それを確かめる意味でも見に来たんすよ。おもろいかどうか」
「またお前の悪い癖が出たな。まぁ次の試合まで時間有るし、どうせサブの連中出して俺らはベンチだろうし問題ないだろう」
俺ら宝賀学院の選手層は厚い。レギュラーメンツを準決勝まで温存しても十分戦えるほどのサブメンバーが揃っている。だから俺もしばらく出番は無い。
そのため、体が鈍らないようにと朝から少しづつストレッチやランニングをして慣らしているのだが、その途中にあの背の高いゴリラと会ったのだ。
俺より体がデカくてかつデブじゃねえやつ初めて見たわ。あれで素早く動けるんならまんま重戦車だな。俺でも当たれるかどうか。
「そろそろ始まるぞ。先行は八田ヶ谷だな。ん?あのミッドフィルダーかなりガタイ良いな。あいつか?面白そうなのって」
「そうっすね。体はえげつないですけど、どれほど動くもんかなって思ってます。」
「まぁ、あれで足まで早かったら厄介だわな。でも一人ミッドフィルダーでやべえやついるからって勝ち上がれるとは思わねえけどな。」
先輩はあのゴリラ、水瀬っていったか。あいつをそこまで警戒していないらしい。たしかに俺もCFだとばかり思っていた。それかCB。
そのどちらでもなく、テクニックや指揮能力、展開力を重要視されるMF、しかもCMFにいるとは思わなかった。
試合が始まる。ボールを一段下げ、水瀬から展開するらしい。ってなんかおかしくねえか?あいつあんなに助走とってどこにパスするつもりだ。
・・・はぁ?あそこからあんな威力のシュートをゴール上隅にびったり決めるとかどうなってんだ?狙ったのか?
「おい、紅。ありゃ狙ったと思うか?」
「わからないっすね。けど、あのデカさは見せかけじゃないらしいっすね。あんな威力を維持したままゴールまで届かせるとかどうなってんだか」
いや本当に意味がわからない。普通減衰して下に落ちるたまになるか、コースを外れて宇宙開発のどっちかだ。それをあの正確性で、あの威力で、ほぼ軌道が変わらずにゴールに突き刺した?あんなんプロでも出来る人おらんのやないか?
冬芽高校のボールから再開。冬芽は伝統的にサイド攻撃を主体とするクロス重視の攻め方をする。アーリークロスもバンバンいれてくるから、油断すると一点くれてやることになっちまう。
そのサイドにボールが流れ、俊足WGがボールを前線に運ぶが、どうも道がない。
「ありゃうまく誘ったな。」
「そうっすね。中盤から行き先を一人で遅滞防御しておいて、手の空いたSTとMFであとから囲んでコースを限定する。あれじゃドリブル突破は難しい。八田ヶ谷って前からこんなサッカーしてましたっけ?」
「んや、記憶にねえな。てかまともにあたったことすら珍しいレベルだからほとんど分かるやついねえんじゃねえか?まぁアナリストのやつらに聞けば分かるかもしれねえが。」
割と前方でドリブルコースを塞がれたWGは後方にボールを戻すために後ろを振り向き、ボールを蹴るが・・・
「あいつ読んでやがった!」
「ここまでがこの防御の戦術って感じかね」
ボールを後ろに戻すと山を張っていたかのように八田ヶ谷のSTの脚が速いやつがインターセプト。そのまま敵コート内に侵入する。攻める側の八田ヶ谷はドリブラー入れて合計5枚、守る冬芽はキーパー入れて3枚。枚数が圧倒的に足りていない。
「枚数有利だしパスで抜いてフリーシュートいただきって感じだな。良い動きするなあのフォワード。ってん?」
ドリブル突破を仕掛けた後に、枚数余る味方を使うかと思ったが、ペナルティエリアの外からシュート態勢に入っている。
「あいつ撃つのか!?」
冬芽高校の面々も意表を突かれたようで、コースを塞ぐのが間に合わない。距離もあったが、ミドルシュートは見事にクロスラインを描いてゴール右上に突き刺さった。
「まじかよこいつらめっちゃシュート撃つな。こりゃ面白いサッカーするわ」
「結構厄介な相手になりそうっすね。先輩ならあの突破止められました?」
「枚数差があったからなぁ、良くて五分五分ってところじゃないか?最初のインターセプトで勝負ありって気がするけどな。枠に撃ったのが偉いわ」
再び冬芽のボールからスタート。警戒しているのか、サイドに流しても前に突破を挑むことはせずに中央を経由してパスを通している。
八田ヶ谷のディフェンスはさっきまでと変わらず誘い込んで追い込む狩りみたいなやつだな。もっとも、獲物はかなり警戒していて成果は出ていない。
「こりゃ膠着状態だな。多分大きくは動かんだろう。あのでかいのもマークされててボールを手にできていないようだし。というか周りの連中がパスを出せていないだけだなありゃ」
「あれだけの体っすからね。自分のとこにボールが来れば無理やり抑えてでも自分のものに出来るでしょう」
大方の予想通り前半は終わり、後半開始。
冬芽のボールからスタートするが、どちらもシュートまでは持って行けずにボールがいったりきたり。
「冬芽の連中かなり焦ってるな。だが八田ヶ谷のディフェンスも少し遅くなったように見える。わんちゃんあるぞ。」
その時、サイドでパスを察知して足を出した八田ヶ谷のMFに当たってはねたボールがまさかの冬芽のフォワードへと渡った。フリーだ。場所は八田ヶ谷のコート中央。
「そうはならんやろ。」
「いやなってますから。これは一点ですかね」
と思いきや一人ディフェンダーが残っていた。遅滞防御に入り、抜こうとするフォワードを抜かせまいとじりじり下がる。
冬芽フォワードの後ろから八田ヶ谷の他の選手が迫る。囲まれたらボールは失うだろう。
水瀬がもう少しで追いつくと思ったその時、冬芽フォワードは突破を無理やり挑んだ。八田ヶ谷ディフェンダーの足が当たる。跳ね返ったボールは水瀬のもとに・・・
「おい、あいつ撃つのか?一発目とほぼ同じ位置だぞ」
「いや、流石に反動もないしこっからは撃たないんじゃ・・・」
いや、反転して体全体を回転させて遠心力を使ったシュートを撃った!
「撃った!」
撃たれたシュートはゴール右上へ。
「うっそだろ?まじかよ・・・。紅、同じこと出来るか?」
「いや出来るわけねえじゃねえっすか。何なんだあの馬鹿力は。てかなんで枠に行くんだかわからん」
いやまじで意味わからんが、面白そうって予感は外れてなかったみたいだ。
水瀬、少し調べてみるか。
試合終了を見届けた俺達は近くに借りている拠点としている公民館へと戻る。
上がってくるだろう八田ヶ谷との対戦を考えるとわくわくしてくる。そんな気持ちを感じながら休憩へと入るのだった。
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「見ましたかあのシュート。」
「ああ、とんでもない化け物が出てきたな。スカウトは何をしていたんだ?あんなの見逃すなんてありえないだろう。」
「一応確認はしていたみたいですが、MFのリストには乗ってませんね。もしかしたらポジションを変えたのかもしれません。」
「いやそれでも変える前のポジションで見つけるだろうあんなの。他のユースに取られなくて幸いだぜまったく。大会後にオファー出す準備だ。交渉は少し難しいかもな。」
「ええ、今調べたところ、少なくともフランカーズはスカウトに行ったみたいですから、それを蹴っ飛ばして公立高校に入ったということはかなり頑固かもしれませんね。」
「それでも他のチームに取られる訳にはいかない。やるだけやってみよう。」
たまたま早く着いて、たまたま試合を見ようと思って見た試合で化け物を見つけたユースチームのスカウトと監督は、掘り出し物を見つけて大いに奮い立っていた。
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