第11話 予選大会始まる

 やって来ました予選会場。

 サッカーコート4面を備える運動公園で、大会本部も設置され多くの観戦客で賑わっている。

 当然俺たちは賑やかな方ではなく指定されたチームのエリアに移動し、荷物を下ろす。


「俺達の試合は11時からだ。勝てばすぐに二試合目、勝てれば少し時間が空いて三試合目だ。

 今が9時で、この後の開会式後に少し時間が空く。

 サブコートの使用可能時間は10時15分から30分間だから、それまでにサブコートに集まっていること。

 去年よりも力はついているはずだ。出来ることをやっていくぞ!」


 染谷先輩が全体に向けて予定のおさらいと発破をかける。

 大会は2日に分けて行われ、予選大会は負けたら終わりのトーナメント戦で、一日目は順当に勝ち上がれば準決勝までの4試合が行われる。

 昔はこの大会の前に地方ブロックがあり、リーグ戦をやっていたらしいが、今は学校の数が減ったこともあり、いきなり負けたら終わりのハードな大会になっている。


 メンバーの皆を見ると、二年生以上は落ち着いているようだが、一年は少しそわそわした感じに見える。一年からレギュラーとして選ばれたのは、俺と、右WGの五十峯の二人だけだ。五十峯はミーティング後から足の速さだけでなく両足を使った早いパスを出せるようになることを意識して練習していた。ゴールを取ることが出来る可能性が一番高い味方を常に探し続け、パスを供給、時にはアーリークロスを上げることまで出来るウィングを目指すことにしたらしい。

 その五十峯以外の一年はベンチ外だ。三年と二年でベンチは埋まり、応援兼サポート要員でついてきているのだが、初めての高校生の大会ということもあり、出る選手以上に緊張している。少し面白く感じて自分の中に残っていた緊張感がほぐれた。


 開会式を終え、とりあえずいつもの日課をこなす。会場の周り一周3kmほどのランニングをして控えゾーンに戻ると別の高校のジャージを着たガタイの良い生徒と出会った。

 あれはたしか・・・宝賀学園だったか?全国に何回も行っている強豪校。俺のところにもスカウトが来ていたからジャージは見覚えがある。身長は俺よりやや低いが、周りから見ると随分高い。それに脱がなくても分かる筋肉質ででかい体。髪型はオールバックにしていていかつい。

 俺が気がついたのと同時にあちらも気がついたらしい。自分と同じかそれ以上に体が大きい俺を見つけて少し驚いたような表情をしたあと、獲物を見つけたような顔をして近づいて話しかけてきた。


「よう、見ないジャージだが、この大会出るのか?」


「ああ、八田ヶ谷高校だ。そっちは宝賀学院だよな?」


 あちらは俺たちのジャージを全く知らない様子だ。そりゃそうだろうな、一度も二日目に進んだことがないし、去年までは弱小もいいところだった。去年まではな。


「おう、宝賀学院二年の 紅羽あかばねってんだ。八田ヶ谷高校か、高校の名前は聞いたことがあるが、よく知らんな。でもお前、おっとすまん名前聞いてもいいか?」


ひとつ上か。最初からタメだったし今更敬語ってのも変か。


「俺こそすまない。一年の水瀬恒河という。よろしくな」


「水瀬か、よし覚えたぜ。水瀬ほど体がでかいやつあまり見ないからよ、驚いちまったぜ。そんな奴がいるんだ、知らない高校でも上に上がってくるような気がするな。

 よし、連絡先交換しようぜ。あぁ、ポジションとかは聞かねえよ。戦うかもしれないんだ、その時まで楽しみにしてるぜ。まぁそれまでに耳に入ってくるかもしれないがな。」


 紅羽と連絡先を交換した。まさか他校の生徒の知り合いが増えるとは思わなかった。


「じゃあまたな。試合、楽しみにしてるぜ」


「俺も楽しみにしてるよ。上で会えたらいいな」


 そのまま別れる。見たところストライカータイプかもしくはディフェンダーか。少なくとも前線にいても後方にいても厄介なタイプに違いはない。


 そのまま荷物のところに戻るとあと少しで始まるサブコートでの練習に向かう二年CFの井上先輩と、一年WGの五十峯と会った。ストレッチをしているようだが、すぐに俺に気がついたようだ。


「水瀬どこにいっていたんだ?もうみんなサブコート行っちまったぞ。」


「ああ、井上先輩。いつもの日課をこなしに外周回ってきたんですよ。その後ちょっと他校のやつに声かけられて少し時間食いましたが。」


どうやら皆サブコートに移動したらしい。井上先輩と五十峯は荷物番に交代するために最後までいたようだ。


「他校の?珍しいこともあるもんだが、絡まれたとかじゃなくてよかったな。」


「水瀬は存在感エグいし気になったんじゃないですか?」


「お、五十峯大当たりだ。相手も相当でかいやつだったが、自分よりでかいやつ見つけて声かけたらしいぞ。連絡先まで交換しちまったが、早まったかな」


五十峯は勘がいいな。井上先輩は絡まれて厄介事になってやしないかと心配していたらしい。そんなに喧嘩しそうな顔に見えるかね?


「いや、連絡先ぐらい大丈夫だろう、ちなみにどこだった?」


「宝賀学園だってさ、二年生。ポジションはお互いに聞かなかった。」


「宝賀!?こりゃまたビッグネームじゃねえか。そんなとこのに目をつけられるとはなんというかまぁ、水瀬っぽいといえばそうだが・・・」


「特に何も無いですよ、あっちは俺と試合やりたそうにしてましたけど。えっと、対戦表見る限り宝賀と当たるのは・・・決勝じゃねえか。」


宝賀学園と当たるのは順当に進んでも決勝なことがわかった。ふむ。戦ってみたいな。


「そりゃでかい目標だな。だが今年は水瀬もいるし俺たちも去年よりずいぶんうまくなった自負が有る。点を取ることを意識して突貫すれば決勝まで行けるんじゃないか?」


「井上先輩、どうしましょう少し足が震えてきました。」


決勝と聞いて、井上先輩はやる気を出したようだが、五十峯はなぜか緊張しだした。なんだこいつ


「五十峯少し落ち着け。井上先輩、そろそろサブコート行きましょう。」


「ああ、そうだな。五十峯、そりゃ武者震いってことでいいよな?」


 くだらない話をしながらサブコートへ向かう。


 サブコートではすでに模擬戦が始まっていた。直前ということもありいつもの激しいやり取りではなく、比較的ゆっくりした動きで、技術や力よりも視野を広げてどう動くかの確認みたいだ。


「おう、ようやく来たかお前ら。次から入れ」


 三年の風上先輩が俺らを見つけ、次の模擬戦のメンバーにぶちこむ。


 今日の俺の調子はまずまずだ。だが日課の調子を見るにシュートは問題なく撃てそうだ。天気は快晴、風も微弱で気温も過ごしやすいくらい。


 何一つ言うこと無いベストコンディション。

 相手がどこかは忘れたが、俺は俺の哲学通りのサッカーをして点を稼ぐだけだ。


 気合を入れて模擬戦へと入りながら、第一試合へと意識を向け始めた。

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