第7話 点を取る意識 -1

高校に入学してから早くも2週間が過ぎた4月の半ば。5月になればインターハイの県予選があるような切羽詰まったこの頃。


三年は明らかに顔が変わったように練習に取り組んでいるように見える。

特に、3人から4人での連携攻撃やボール奪取に対して力を入れている。

これは監督の指示では有るが。


そうそう、なんとコーチとして元プロサッカー選手である敦賀さんがこのチームに加わっていたのだ。

もちろん俺も小さい頃からJapanリーグは見ているし、敦賀さんのプレーもみていたから、正直興奮した。

あちらは俺のことを少し知っているようで、なんでも中学時代のプレーを見たらしい。いきなりミッドフィルダーにコンバートしていて驚いたそうだ。


理由を説明すると少し呆れたように笑われたが、シュートを撃つことが俺の唯一の長所であることも理解してくれているようで、そのまま長所を伸ばしていくといいと応援してくれた。


普段の練習は少し変わっている。

大体放課後と土曜日に練習が有るのだが、全体として練習するメニューは模擬戦のみなのだ。

キーパーを除いて、3 VS 3, 5 VS 5, 7 VS 7 の3パターンがあり、交代ありでどんどん変わりながら試合を行う。ゴールの大きさは変わらないが、コートは人数によって小さくする。


狙いは連携の確認と、実戦でしか生まれないひらめきを呼び起こすこと。


俺はこの練習の最中も、足元にボールが来ればすぐにゴールを確認し、位置を把握できていれば即シュートを撃つというプレーを徹底していた。

ゴールが見えない場合や、コースがない場合もどうにかしてゴールを奪う為のワンアクションを起こし、全部が成功とはいかないものの、ひらめきを起こすという目的はある程度達成できていると感じる。


ただ、チーム全体で見ると点を取ることの意識が足りていないように感じる。

連携を重視するがあまり、味方二人で相手一人の絶好機でもパスを優先し感の良い相手ディフェンダーに取られてしまうプレーを何度も見た。


この意識の差をどうにか埋めなければ、インターハイ出場は難しいかもしれない。


そして、模擬戦が終わったあとの数時間は各自で考えた練習メニューを行い、監督とコーチが巡回してアドバイスや相談を行うといったメニューになる。


俺は日課の筋トレとランニング、体幹トレーニングに90分くらい使い、その後シュート練習を行う。

その日の体の動きやバネを確認しつつ、シュートをより強くより遠くからより正確にゴールに突き刺すための練習だ。


俺の場合どんなに遠くからでも、突き刺すようなシュートであればほぼ正確にボールを届けることが出来る。

つまり、シュート性のボールもトラップ出来るようなプレイヤーが味方にいれば、俺はパスも出来るようになるということなのだ。不本意だが、自陣深くからシュートを撃った場合は、通常よりも相手ゴールに到達するまで時間がかかるため、相手キーパーが間に合ってしまうケースが多いのだ。


センターサークル付近であれば俺のシュートはコースにもよるがキーパーに触れられることなくゴールに突き刺すことが出来る。

だが、ミッドフィルダーにコンバートしてからはボールを受け取る場所が自陣中央から前後に広く位置するため、場所によってはシュートを撃っても点が取れない事があるのだ。


自分の力をもっと上げてシュートを強くすることと、どうにかして味方にトラップがうまい選手を作れないだろうか、なんてことを考えながら日課を終える。


「水瀬、調子はどうだ。」

ちょうどコーチの敦賀さんが声をかけてきた。

「体の調子は上々です。バネなんかはシュート練習にはいらないとわからないですが、そちらも良い気がします。」


今日の体の調子はかなりいい方だ。よくほぐれて柔軟性も良く、バランスも取りやすい。あとはシュートを撃ってみてどうかだな。


「シュート練習も見てみたいから今日はゴールで撃つか」

いつもはゴール前は別のチームメイトの練習で専有されているため、コート脇の大きなコンクリート壁にゴールと同じ大きさで線を引き、そこへ向かってシュートを撃っている。

が、今日はコーチがいることと、ゴールが空いていることでコートを使ってシュート練習が出来るようだ。


最初はゴールからコート半分ほどの距離。位置は中央。ここから大体2mくらいの間隔で距離を伸ばしていく。この高校のサッカーコートは縦105m × 横68mと多くのサッカーコートの基準の大きさと同じだ。なので最初の撃つ位置はゴールから大体26.2mとなる。


助走は少なめ。軸足の置く位置に気をつけ、体のすべてを使い、しならせ、左足を振り上げる。

体をバネにしたように足を振り下ろすときにすべての力を集約する。

狙うはゴール左上。ゴールネットをもぶち抜くイメージ。


ドンッ という衝撃音と共に撃ち出されたボールは狙った場所を正確に捉え、ゴールに突き刺さる。


うん、まずまずな感覚だ。体の調子がいいからか、スムーズに体重移動が出来、力をボールに伝えやすい。


「あいかわらずすごいシュートを撃つなぁ。ちょっと壁に入っても良いかい?」

「かまいませんよ。こちらこそよろしくお願いします。」


コーチが壁に入ってくれるらしい。次はさっきより2m離れた位置から。


コーチはゴールへの直線上のやや左側。さっきのシュートコースを消す位置に立った。ここは右足を使うか。


さっきとほぼ同じ助走距離を取ってシュートを撃つ。使うのは右足。狙うはゴール右上。


さっきと同じような軌道でゴールに突き刺さる。


「2mも下がってこれか。しかも両足でほとんど変わらない威力のシュート。やっぱり水瀬のシュートは別格の武器だな。ありがとう。壁に入ったことでシュートの威力を再確認できたよ。

 何か相談したいこととかあるか?」


シュートの威力を確認したかったらしい。ディフェンダー目線ではなにか気になることが有るのだろうか。


そして相談したいことか・・・



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