第6話 紅白戦を朱に染める -後半
相手ボールから後半が始まった。
すぐに一段おろし、再度へ弾く。
俺がいる中央からの攻撃は避け、左サイドと突破しようとしているようにみえる。
前半ではここで味方のウィングがすぐに抜かれてしまったが、今回は一気に行かずに遅滞防御をしているようだ。
ウィングはたしか・・・新一年の
ハーフタイムであいつは守備について、ボールを一人で取ることを目指すのではなく、セカンドトップやセンターミッドフィルダーと囲んで取ることを意識したいと言っていた。
足は早くても足元の技術では相手選手よりも劣ることが多いと考えたのだろう。
実際に今それを試していると、相手選手はこっちのチームの向井とセカンドトップの風上先輩に囲まれ、前へは出れずパスも出せない様子。
ボールが一旦下げられ最終ラインから逆サイドに渡る。
全体が左サイドによっている中で早いサイドチェンジで右サイドが突破される。いつの間にかボールは味方陣地のペナルティエリアのラインまで持ち上がっていた。
相手の作戦としては、無理にボールを前に運んで取られて俺にシュートを撃たれることを避け、正確で早いパス回しでサイドから持ち上がり、点を奪うといったところか。
俺もサイドに寄り、守備に加わり行く手を阻むが、近づいた途端に中央にボールを流される。
徹底的に避けられているなこれは。まあ当たりまえか。
相手の中盤が持ち上がり、ミドルシュートを放つ。
なんとかシュートコースを消せたのか、ゴールを外れゴールキックとなった。
後半が始まってからまだボールを触ることができていない。
まるで中学最後の試合みたいだ。あのときも相手ボールから始まった攻撃は一切止められずに点を取り負けた。
ポジションを変えればボールが集まりやすくなると思った。
実際ある程度集まりやすくはなったが、それでもこういう場面に出くわすのだから、十分ではないのだろう。
ゴールキックは右サイドバックの染谷先輩にショートパスと言うかたちで再開。
味方ボールから始まるなら俺にボールが来ることも増えるはず、と思った矢先。
相手の前線にいるフォワードの一人が染谷先輩めがけて猛チャージを開始。
中央へのパスコースが塞がれ前に蹴るしかなくなる。
これまた俺対策かい・・・。徹底的に俺を使わせないつもりだなこれは。
それならそれで動き方を変えるか。足が遅い事は事実。だがスタミナは十分あるし、オフザボールの動きや守備では足の速さはそこまで必要ないとも思っている。
ようは必要な場所に必要なタイミングでいればよいのだ。
飛び出す形の動きは俺にはできない。ならスペースを見つけてボールを要求する形が良いか。
味方右ウィングの新一年、
五十峯と目が合う。あいつはハーフタイムで常に俺を見てプレイすると言っていた。一番得点を稼げる可能性が高いやつを見ないでおくのはありえないと、
何も要求しないでもボールが出る。
俺のマークに付いている相手チームの選手もついてくるが体で牽制しながら前へ出させない。この短距離で初速もない状態なら体の大きさとバランスで勝る俺がボールを競り負けるわけがない。
ボールが入る。相手は俺のシュートコースを塞ぐようにスライドしていく。
なるほど、ボールを入れられてもゴールに撃たせなければよいというわけか。
実際ゴールは視認できない。いや、ゴールの残像は目に残っている。位置もわかる。
なら撃てる。
ダイレクトでボールの左側を、思い切り右足のアウトサイドで叩く。
撃たれたボールはゴールに向けて30度近い角度で飛んでいくが、すぐにカーブを描きゴール左端へと吸い込まれるように入っていった。
「よっしゃあ!」
3-0
「何だ今のシュート・・・てかお前両利きだったのかよ。あの速度であの曲がり方されたらどうしようもないじゃねえか」
「あれ撃つか普通。ゴール見えなかったんじゃねえの?やっぱシュート星人だなお前」
シュート星人ってなんだそりゃ。
チームメイトから祝福される。相手チームはまだ呆然としているようだ。
確かにやれることは全てやったのだろう。俺は前半殆ど動かなかったし、シュートも直線のものだけ。使った足は左足のみ。
そんな情報しかなければ、俺の周りを囲んだ上でボールを狩りに行き、シュートコースさえ遮れば良いとなるはず。
その上で俺はシュートを撃った。いや、撃たれたのだから単純に俺の勝利でいいだろう。
相手ボールで再開。
さっきと同じようにサイドから素早い動きで攻めてくる。
いい機会だし守備の動きも試してみることにした。
相手の右サイドを走るボール保持者に正対する。
相手の目を見る。こちらを見ることを避けているようだ。
後ろを気にする素振りはない。パスを出せるコースが有るとすれば真後ろと中央。
目線が中央へ向く。目を見て次を予測するのはだいたい成功ってところかな。
相手は中央へ流そうとするが、長い脚をそのコースへと伸ばす。
どちらにボールを出そうとしているのか分かっていれば、俺の体はだいたい有利に働く。
俺の足に弾かれたボールは味方セカンドトップの風上先輩が拾う。前線ではセンターフォワードの郡山先輩が抜け出している。
絶好のボールが先輩の足元に届き、トラップした次の足でシュートを撃って勝負あり。
カウンターをしてやられた相手チームは薄っすらと頬に朱がさしている。自分たちがやらなければいけないサッカーを相手にやられたという感じか。
俺に気を取られすぎていて起点を作った挙げ句に最終ラインを破壊されゴールを奪われた。イラつきと不甲斐なさがこみ上げていることだろう。
ここで試合終了。
結果は4-0。俺はハットトリック達成で終わった。
まぁアピールにはなっただろう。その分異常性も分かっただろうが。
その後監督の元に集まり一日目は終了。
新一年は全員が入部を希望したみたいだ。
高校でのサッカー生活が幕を上げた。
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