第5話 紅白戦を朱に染める -ハーフタイム

コートの外にある自チームのベンチに戻ってきた。どうやら監督はもういるようだ。


「赤チームの皆お疲れ様、ひとまずキリが良いところで止めさせてもらったよ。気がついている子もいるだろうが、まだ15分は経過していない。8分と少しといったところか。」


15分経っていなかったらしい。そりゃそうだ、俺がゴールを決めるタイミングが早すぎてほとんど時間は経っていないはずだからな。


「じゃあなぜ止めたかと思うかもしれない。これもわかっている子がいるんじゃないか?

結論から言うと、自分を出せている子が一人しかいないからだ。

水瀬くんのプレーは驚くべきものだ。だが、何も考えずプレーしているというわけではないのは見ていて分かるはずだ。彼は自分がシュートを撃ち、点を取るために何をすべきか、何が出来るかを考え、実践しているに過ぎない。


だが、他の子達はどうか。自分自身に問うてご覧。

ただの紅白戦、練習試合にも至らないウォーミングアップ。そう考えてはいなかったかい?

私はね、点を取ることが全てだとは思わないよ。もちろん点を取らないと勝てないから大事なことでは有るんだけどね。

一番大事なのは、自分ができることがなにか考え、最善のプレーをすること。積極的にそれらを行うことだ。

その上で水瀬くんを頼ることが最善と考えたならそれは正しいから、もっと自分を囮に使うみたいなプレーが見られると私は安心するかな。

残りの5分間チームで話してご覧。私はあちらのチームにも同じような話をしてくるよ。」


正直にいうと、そこまで考えてプレーしたわけではない。俺はゴールを決めたかっただけで、シュートを撃ちたかっただけだ。まぁ、撃つためにどうしたらいいかはとっさに考えたが。



チームのまとめ役をしていた染谷先輩がゆるく円を描いて集まるようにみんなを集めた。


「俺は監督の言っていることは正しいと思う。恥ずかしいことに俺自身もただの紅白戦だからと漫然とプレーしていた事は否定できない。それ以上に水瀬のインパクトが強すぎて混乱した面もあるがな」


皆から苦笑が漏れる。空気を作るのが上手いなこの先輩は。


「ちょうどいい機会だから各々のやりたいプレーを話してみよう。それで、後半は自分が今一番すべきことはなにかを考えながらやってみようか。

話しづらいし敬語はなしで。

俺は右サイドバックがポジションだが、あまりオーバーラップはせずに、ロングパスをウィングに供給することが得意だ。走るよりも足先の技術とロングフィードで勝負することを選びたいと思う。

だが、水瀬が来たことで、前線にスペースが無いときや追い付きそうにないときは中盤にボールを移してシュートを撃ってもらうのも良いと考えている。

次、上級生から回そうか。三年の先輩方からお願いします。」


身長は並で刈り上げ超短髪の染谷先輩。

染谷先輩はサイドバックが本業らしい。走るよりも正確なロングパスを使ってカウンターの起点になることが得意。俺の哲学とはあまり合わないが、理解はしてくれているようで、本当にやりやすい。ありがたい先輩だ。


試合に参加している先輩方の中で、三年生は二人づつで、他は全員二年生らしい。

世代交代が少し早く感じる。


「じゃあ俺から。三年の風上かざかみだ。メインポジションはセカンドトップ。今回の試合でもそこをやらせてもらっている。

俺が得意というか、役割としてやっていたのはシュートを撃つことだな。センターフォワードやウィングが囮になったところに走り込んでパスをもらい、ゴールに流し込む事が多かった。

水瀬のロングシュートが加わったからどうしようか迷っていたが、この路線は変えないでおこうと思う。選択肢の一つとして、サイドからの攻撃でフィニッシャーが俺というのも悪くはないはずだしな。」


身長が高めで糸目な風上先輩。

風上先輩は二列目からのフィニッシャーが役割らしい。足はそこまで早くないらしいが瞬発力が高い。そして俺の哲学にある程度近い人物。


「次は俺。三年の郡山こおりやまだ。ポジションはセンターフォワード。

あまり守備には加わらずに前線に身を残してカウンターを狙う動きが得意だ。

足の速さとトラップ技術には自信があるが、あまり遠くからボールを狙ったところに撃つことができない。俺もプレイスタイルは変えないで良いと思っている。幸いなことに俺の弱点を補えるやつが入ってきたしな」


無口で俺と同じくらい身長が高く、坊主頭の郡山先輩。少しいかつい顔立ちに違わずフォワードが本職らしい。プレイスタイルは印象と違いスピード-テクニカルタイプ。素早く抜け出してボールを収め、ゴールを奪う感じか。

俺にはできないプレーだし共存は出来るかもな。



その後も二年生と新一年のプレースタイルの共有は続き、俺の番が来る。

「俺は水瀬。ポジションはセンターミッドフィルダーだ。さっきの試合で分かると思うが、俺はシュートを撃つことしかできない。正確にはシュートを撃つことしか考えていない。俺のところにボールを出すときはシュートを撃てと言っていることと同じだと考えて出してくれ。」


「相変わらずすごいこと言うなお前は。まあ実力は見たところ問題なしというか、俺らでは測りきれん。頼りにしてるぞ」

風上先輩から声がかかる。この人も割と信頼してくれるタイプなのか。ありがたい。



そんなこんなでハーフタイムは終了。相手チームの人たちもかなり気合が入ったように見える。監督は何を話したんだろうか。


後半が始まる。

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