第4話 紅白戦を朱に染める -前半

「あー、二年の染谷そめやだ。ポジションはディフェンダー。よろしく。今日の紅白戦は一年生が主体だ。やりたいポジションをいって入ってくれ。初心者もいるかもしれないから一旦経験者で埋めて最後に空いたところに入ってもらうことにする。」

「ポジションの希望は有るか?」


ポジションの希望。中学までは迷わずセンターフォワードだった。一番ゴールに近く、攻めることだけやっていてもほとんど文句は言われない絶好のポジション。

俺の哲学に一番近いポジション。


だが、それでは勝てない試合があることも学んだ。だから、俺が求めるポジションは・・・


「俺はセンターミッドフィルダーをやります。」


センターミッドフィルダーに決めた。ただし、ボールが来ても誰かにパスを回すことは一番ではない。シュートを撃つことが一番だ。


「よし、だいたいきれいに収まったな。一年からセンターフォワードが出なかったのは意外だが、譲ってくれたのか?それなら責任重大だな!上級生諸君!」


なにやら一番人気でやりたい人が多いのは毎年センターフォワードらしい。

そこが空いているから遠慮したものと受け取られたらしい。


そしてこちらのフォーメーションは4-2-4の超攻撃型布陣。足の速さに自信があるウィングをやりたいやつが二人いて、もう一人はセンターバックをやりたいらしい。結果的に空いたセンターフォワードやセカンドトップ、もう一人のセンターミッドフィルダーとバックに上級生が入った。


まぁ布陣としては好都合。俺はシュートを撃つだけだし、中央にスペースが空きやすく、ボールを集めやすいかもしれない。


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「では前半15分開始!」

味方チームのボールで始まる。


キックオフからセンターミッドフィルダーである俺のもとにボールが降りてくる。

ゴールは見える。絶好調の肉体をしならせる。さぁ、飛んでいけ!!


俺の左足から放たれた砲弾は地面スレスレから持ち上がり、ほとんどスピードを落とさずに相手ゴール左上に突き刺さった。


「な・・・撃っただと・・・?何だあの一年は」

「すげえじゃねえかお前!あれで撃ってしかも入るのかよ!狙ったのか!?」


味方は大盛りあがり、コートの外は唖然としていて、相手チームは呆然としているようだ。


「狙って撃ちました。俺はシュートを撃つことだけしかできないので、ボールが来たら撃ちます。なので点が欲しかったら俺にボールをください。」


「お前とんでもないこと言うな!よしいいぜ。今日は試しだし、ちょうどいいタイミングでボールが収まったらお前に出してやる。前線が空いてたらウィングにだしてサイド。それ以外は中央でお前が撃て!」


理解が有る先輩方で助かる。どうも今の一撃で先輩方も他の三人の一年も俺がシュートに限って言えばとんでもないやつかもしれないと思い始めたらしい。

いい調子だな。かもしれないを取っ払ってやる。



相手チームから再開。

俺にボールが渡るかもしれない中央を避け、右サイドを中心に攻めるつもりらしい。

相手ボールなのにすでに俺にマークが2枚もついている。両方とも上級生だなこれは。


右サイドを駆け上がる相手チームの一年。そこに味方チームのウィングがぶつかる。


かなり足元がうまいらしく、軽々と抜かされてしまった。正面スペースはがら空き、しかしこちらとしてもそこまで悪い状況ではない。


相手がサイドを中心に攻撃しているからか中央は結構スペースがある。逆サイドの方が空いているが。


味方陣地の半ばまで来たところで三年の左サイドバックがボールを奪うことに成功した。

さあ、こっちによこせ!


「水瀬!」


いい先輩だ。左ウィングは人が多く、右ウィングは遠すぎる。

まぁ普通の人がやっていてもこの状況では俺のポジションにボールを回すことが多いかもしれないが、ちゃんとこっちを見てくれていた。


マークしている二人がボールを奪おうとする。だが、体の強さで負けることはない。こんな状況のために体を鍛えたのだ。


でかい体と腕をうまく使ってポジションを確保し、ボールを足元に納める。

ゴールに背を向けているのでまだゴールは見えない。

味方の一年センターバックがボールを要求している。一旦下げろってことか。わざわざボールを下げる?嫌だな・・・


二人で挟んでボールを取ろうとしてくる。面倒だな・・・


ふと思いついてボールを思い切り上に蹴り上げる。


ボールは真上に飛んでいき、自由落下してくる。


うまく体を使って正面を向いた状態で足元へ収め・・・


「ああめんどくせえ!」

トラップが面倒になった俺はそのまま落ちてくるボールを地面から少し上でインステップを使って撃ち出した。


場所は自陣側のセンターサークル外縁付近。一発目よりはゴールに近い場所から撃ち出されたボールは相手をあざ笑うかのようにゴール右上に突き刺さった。


2-0


そのどちらも相手は中盤から後ろはまったく関与せずに奪われた失点。


またも盛り上がる自陣と対象的に相手チームの上級生は苛ついているようにみえる。

だが、二点目を取ったことで「かもしれない」は取れたようだ。


さて、もっと取るぞ、と思ったところで前半終了。


ハーフタイムは両チームに監督が来てミーティングをするらしい。何を言われることやら。








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