第8話 点を取る意識 -2

「一つ、気になることというか、不安なことがあります。俺は常に点を取る事を考えています。点を取ることで試合に勝つ、相手よりも点を取れれば勝てる。そう考えているからです。

 ただ、今のチームを見渡したときに、点を取る意識を持った人があまりにも少ないのではと感じています。

 フォワードの郡山先輩や風上先輩はシュートを積極的に撃つようになったのは感じているのですが、中盤以降からのミドルシュートが少なく、フリーでもパスを優先する事が多いように見えます。」


「確かに、あまり積極的にシュートを撃つサッカーではないかもしれないね。

 君のプレースタイルは誰でも真似できるものではないから例外としても、ファイナルサードの動きがゴールを取ることに対して消極的であることは間違いない。

 僕がディフェンダーだったらかなりありがたいと思うよ。少しかわされてミドルシュートが飛んでくるチームのほうがラインコントロールも難しいし、選択肢が多いからね。」


元プロの目から見ても今の攻撃の単調さや消極性は不利に働くらしい。


「入部してしばらくたったし、ちょうどいいタイミングかもしれないね。

 ”点を取る意識”改革ミーティング、開催しようか。」


「ミーティングですか?」


なにやらミーティングの開催が決まった。全部員を集めて点を取ることの考え方、シュートを撃てるタイミングや距離、攻撃パターンについて話し合うらしい。

というか、いつの間にかミーティングの主催にされてしまった。これが言い出しっぺの法則というやつか。


面倒だが、シュートを撃つこと、点を取ることは俺のサッカー哲学の最上位に位置する重要な考えだ。この哲学が合わずにユースや強豪校へいかなかったほどなのだから。

この高校に俺の哲学を叩き込み、日本中のどの高校よりも攻撃的でシュートを大量に放つアブナイ高校にするのも面白いかもしれない。


「君の考えていることと、シュートを撃つことの自分なりの意味をそのまま伝えてくれれば良いから。あとは僕や監督が補足する。一年生である君からの言葉というのが大事なんだ。」

「わかりました。少し準備しておきます。いつやりますか?」


割と自由に発言していいらしい。それなら遠慮なくエゴをぶつけるとしよう。


「明後日の練習の前に行おう。場所は視聴覚室が空いていればそこがいいかな」

「わかりました。」


ミーティングに向けて自分の哲学をうまく言語化しなければならないか。


いかにシュートを撃つことが大事で、点を取ることが勝利へとつながるか。

ファイナルサードでの数的有利時に常にパスを優先することがどれだけ可能性を潰しているか。

ミドルシュートを撃つことで、相手に対して警戒心を植え付け、クロスからの攻撃やドリブル突破、スルーパスでの抜け出しなどがどれほどやりやすくなるのか。


数えればキリがないほど言いたいことは有る。まぁ、俺がやっていることが少しでも変な目で見られないためという打算もあるのだが。


別に変なやつだと思われるのは構わないと思っている。だって正論だし。

ただ、それによって自由にサッカーができなくなるような事態になるのは面倒だ。

だからせめてこの部活ではシュートを撃つことは当たり前で、点を取ることこそが一番勝利へ近づく道なのだという共通認識をつくっておきたい。


そうすれば自ずと怖いチームになっていくはずなのだから。




翌日は全体練習が休みな日だったので一人でグラウンドで練習することにした。

いつものメニューをこなし、準備を終える。まだ日は高く時間は十分にある。


色々考えていたが、シュートを撃つときにまで考えていたくはないな。

一旦頭をからっぽにするために大壁の前に立つ。距離は20mくらいか。


助走を取り右足を振り上げ、全身の力を集中しぶつける。


衝撃音を残したボールは狙った場所からやや右にずれて壁にぶつかり、跳ね返ってくる。

やはり雑念が多いな。シュートはもっとこう、気持ちが良いものだ。もやもやしている気分で撃つと球までもやもやしている感じがする。



再びシュートを放つ。だんだん狙ったところに当たり始める。

距離を2mずつ放していく。

だんだん周りの音が聞こえなくなってくる。いい感じだ。楽しくなってきた。

やはり俺はシュートを撃つことが何より楽しいんだ。

狙ったところに突き刺す間隔がたまらない。




ほぼ均等な間隔でグラウンドに響く衝撃音。

蹴ったときの音の直後に壁にぶつかったときの音が響く。

蹴っている本人は全く気がついていないが、音を聞いてグラウンドの周辺にいた学生や他の部活の教員が眺めている。

しかしそこにいるのは一人の学生とボールだけ。


もはや放課後の風物詩?と化した爆音は迷惑ながらもその威力を感じさせる音からわずかにだが、シュートの気持ちよさを周囲の人に伝播させていたのだった。

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