第2話 中学時代
中学に進学した。
小学生の大会で得点を量産した俺の元には色々な学校、チームから声がかかった。
が、そのどれもが家から離れなければならず、しかも「もっと他人を生かせるサッカーが出来たらもっと評価する」なんて言いやがった。
うんざりした。俺はシュートが撃ちたいだけだ。点を取れればそれで良い。その結果試合に勝つのであれば尚いい。
全てのオファーを蹴っ飛ばして地元の中学に入学した。
家からなんと徒歩5分の場所にあるマンモス校だ。
近くに他の中学が無いため、学区が広く人数が多い。
まぁそんなことはどうでも良く、家から近いから通うことになった。それだけだ。
しかもサッカー部があった。
サッカーはいいものだ。点を取る快感は凄まじい。どんなお菓子を食べることよりも、どんなゲームで遊ぶことよりも幸せを感じられる。
当然入部した。
しかし部活の状況はそこそこ止まりであった。毎年県内の中学サッカー選手権大会の予選に出場し、一回戦か二回戦で負けて終わり。
指導者もおらず、顧問は滅多に顔を出さない。
その分生徒の中でヒエラルキーがしっかり出来ており、サッカーのうまいやつが偉いなんていうお子様ピラミッドだった。
サッカーがうまいとは何ぞや?点が取れればうまいのか?
どうやらそうではなく、リフティングや鳥籠がうまいやつが偉いらしい。試合には勝てないが。
正直やめようかと思った。
部員が12人しかおらず、うち一人はキーパー専門だったため、体格の事もありレギュラーは堅かった。
どうせやめるなら試合に出て暴れ放題やってからやめよう。
半ばやけくそになりながら最初の夏の新人戦でそれはもうクソほどシュートをぶっ放した。
結果部活始まって以来の県大会出場かつ6試合で20得点2アシスト(シュートがバーに当たったところを味方が押し込んだ)、大会MVPも取った。
チームのピラミッドは完全に崩壊したらしい。
やはり点を一番多く取れるやつが一番偉いのだ。
その後県大会でも優勝。地方大会で敗退した。敗因は徹底的な供給狩り。
俺しか得点源が無いと分かった途端に周りをなんと5人で囲み、かつボールを持った味方に対してパスを出す前に潰しにかかった。
まぁ、俺が相手でも同じことをしたと思うが。
二年次もほとんど変わらなかった。
唯一変わったのは部員がとても多くなったこと。
学校の飛躍を見て新一年生がわんさか入り、その人気にあずかろうとした2年や3年も入部した。
市大会優勝。県大会も圧勝。しかしやはり地方の壁は厚かった。
部員が増えても結局俺の元にボールが来る前に取られ、シュートが撃てない。
動き方を変えるべきだと感じた。
ボールを待っているから、周りが潰されるとシュートが出来ない。
ならボールを取りに行くべきだ。
しかし足は遅い。あるのは鍛え上げた肉体のみ。
チームメイトには俺めがけて雑でもいいからボールを出すように言ってみた。
近くに来さえすれば相手を弾き飛ばしながらでもボールはキープできる。
そんな作戦が功を奏したのか三年次最後の大会では地方大会決勝まで進んだ。これを勝てば全国への道が開ける。
結果から言うと負けた。
シュートはたくさん撃った。点も取った。その上で負けた。
スコアは4-6。一人で4点取ってそれでも負けた。
まぁこんなものかとも思った。相手は途轍もなく正確で速いパス回しをしながら味方陣地を破壊してゴールを量産していった。
俺の哲学とは相容れないサッカーだったが、点を多く取ったのは相手の方だと言うこともまた事実だ。
もっと点を取れるようにならなければならない。何点取られようと勝てるくらいに。
ボールを受け取ることができる範囲が狭い。
もっとボールを集められればもっとシュートが撃てる。
効率的に言えば中央に居座るのが最高だ。今まではセンターフォワードだったので、出来る限り前線寄りで受け取っていたが、ポジションを中盤にコンバートしたほうが良いかもしれない。
部活を引退した俺は密かにそう考えていた。
テクニック、スピード最低のセンターミッドフィルダーが生まれた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます