134 戦果の報告

 お昼ごろ王都へ着いた私達は、その足ですぐに王城区にある議会へと向かった。

 多くの開戦派の貴族を殺してしまっているので、ある程度弁明の必要があると思ったのと同時に、戦場に開戦派の首魁であるリードリヒさんがいなかったのが気になったからだ。


 議会へ到着すると、ツバキさんとダンビエールさんとが私達を出迎えてくれた。


「これはこれは……共和国の使節団の皆さんにアルベールまでお早いお着きですな。なにか問題でもありましたか?」


 ダンビエールさんが何も知らない様子で私達に尋ね、アルベールさんが答える。


「兄上、我々はさきほどまで王都南の平野で開戦派の貴族率いる部隊と交戦していました。

 幸いにもこちらの被害は最小に抑えられていますが、ラフバインさんやセーヌさん、勇者ファルゲン殿がいなかったらどうなっていたことか……」

「なに!? そんなことがあったのか。どういうことだ? 議会から唐突に開戦派の貴族がほぼ消えたと思ったら、使節団と交戦していたとは……」


 ダンビエールさんは混乱している。無理もない。

 まさか開戦派が諦めきれずにライラさんやアルベールさんの首を狙ってくるだなんて考える方がおかしいというものだ。

 リードリヒさんは仮に作戦を成功させたとして、どうするつもりだったのだろうか。


「それで……首魁であるはずのリードリヒさんの姿が見えず……何かご存知ありませんか?」


 私の質問にツバキさんが答える。


「リードリヒ・サトゥルヌスじゃったらたしかに午前の議会には出ておったぞ。そして変わらずに開戦を唱えておったのぅ」

「そうでしたか……私達もリードリヒさんが何を考えているのか分からず、次の一手に対応するため急いでこちらへ来た次第です」

「それで? どれだけの貴族を屠ってきたんじゃ?」


 ツバキさんの問いに私が答えられずいると、ラフバインさんが答えた。


「私の知る限り、大鎌使いのカマエル・ミドリー、大盾使いのパンライール・コムギー他、将来有望な貴族が多く戦死しました……」


 カマエル・ミドリーさんはクワランドさんのお兄さんとかだろうか?

 パンライール・コムギーさんは捕えている参謀の親族だろう。私が倒した大盾持ちかもしれない。


「ほほう……まだ若くして特級相当の腕前を有した貴族たちじゃの。カマエル・ミドリーなどは幼少期には儂が教えたものじゃ……残念じゃのう」


 ツバキさんが残念そうに視線を落とす。


「いずれにせよ議会の意を汲んでお連れした使節団に攻撃を加えようとした大罪人です。もし生きていたとしても死罪か永久国外追放は免れ得ないでしょう」


 アルベールさんがそう言って首を横に振った。


 そうだったのか。だから降伏する貴族が少なかったのか……。

 生き残ったとしても死罪か永久国外追放となれば、最後まで戦うのも頷けた。


「うむ……良くぞ無事戻ってきてくれた。事態を急ぎ議会へ報告しよう。付いてこいアルベール」

「分かりました、兄上」


 ダンビエールさんがアルベールさんを連れて行く。

 そしてツバキさんがライラさんを見て言った。


「お主が共和国使節団の指揮官かえ?」

「はい。そうなります。セーヌさん、こちらの方は……?」

「はい。こちら普段は天山にお住まいの天狐様です」

「なんと!? あの伝説の!?」

「ほっほっほ。どんな伝説かは知らんがの、儂が天狐じゃ!」


 ツバキさんはライラさんに胸を張る。


「議会も良いんじゃが、まずは儂がニールの元へ連れて行こうかの」

「ちなみに王様のことです」


 私が補足するとライラさんははっとしたような顔で「それは……よろしくお願いします」と言った。


 ツバキさんの先導で王への謁見を申請すると、王が昼食を食べている間待っている必要性があるかもしれないと思っていたが、私達はすぐに王に呼ばれた。

 ツバキさんは事態の説明も申請の際に話していたので、王が事を重く見たのかもしれない。


 みんなで王座の前に並び出て頭を下げていると、直に王がやってきた。


「まずは表をあげてくだされ」


 王に言われ私達は顔を上げる。


「本日はまことによく来てくださいました。共和国の使節団長殿。して……ツバキ殿のお話によれば我が国の貴族達が大変なご迷惑をおかけしたとお聞きしました。ここに謹んでお詫び申し上げる。追って議会からも貴国への謝罪があることでしょう」


 そう言ってニール王が頭を下げた。


「それは大変遺憾であると言いたいところですが、貴国の使節団の方たちは我々と戦を共にした戦友となりましたからな……。聞くところによれば事情が色々とお有りなのでしょう。心中お察し致します」


 ライラさんがそう返すと、「そう言って頂けると有り難い限りです……」とニール王が薄らと笑った。


 どうやら外交的に問題化して、真の開戦とはならずに済みそうだ。本当に良かった。


「それでは此度の戦の功労者をご紹介しましょう。まずはラフバイン殿。セーヌさん達と共に駆けつけてくれ、開戦派との戦いでは超級暗殺者の相手を担って下さいました。おかげで私もアルベール殿も暗殺されずに済んだのです」

「おぉラフバイン! 剣神たるそなたがいてくれて助かったぞ」


 ニール王がラフバインさんに謝辞を述べる。


「いえ、もったいなき御言葉」


 ラフバインさんがそう畏まり、続いてファルゲンさんが紹介される。


「そしてこちら我が国が誇る神級冒険者の勇者ファルゲン殿です。ファルゲン殿は此度の戦においては特級暗殺者をなんと四人も引き受けてくださいました。これまた私とアルベールさんが生存できた大きな要因です」

「なに……一人は逃がしてセーヌの嬢ちゃんに任せちまったから実質三人さ。特級レベルを四人程度は大したことじゃないぜ」


 ファルゲンさんがそう自信を見せると、ニール王が「そなたが噂に聞く勇者ファルゲン殿か、そのご年齢で良くぞ戦ってくれた」とファルゲンさんへも謝辞を述べる。


「俺は祖国のために戦ったまでだ。貴国に礼を言われることじゃないさ」


 とファルゲンさんが首を横に振った。


「続いてセーヌさん達です。戦場では使節団の兵達と共に、多くの特級冒険者相当の貴族を担当して下さいました。特にセーヌさんの活躍には目を見張るものがあります。多くの貴族がセーヌさんの活躍によって処されるか降伏するかを迫られました」

「おぉ、セーヌよ。良くぞ暴走した貴族達を収めてくれた。私からも感謝しよう」

「いえ、冒険者としてできることをしたまでですので……」


 私が言いながら首を横に振ると、ニール王が「そなたには議会への対応の進言と此度とで二度も世話になったな。重ねて礼を言うぞ」と微笑んだ。


「はい。勿体ないお言葉、ありがとうございます」


 私はニール王のお礼の言葉に深く畏まるのだった。

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