133 カロルさんの最期

 みんなの活躍あってか、戦況は割と一方的な展開となった。

 私が特級暗殺者を倒し持ち場に戻った頃、残った2名の特級暗殺者を仕留めたファルゲンさんが特級相当の貴族を相手にし始めた頃には趨勢は決していた。


 私とファルゲンさんの二人を相手にした特級冒険者相当の貴族が膝をつく。


「降伏して下さい」


 私の降伏勧告に「馬鹿な……ラフバインさえ足止めしておけば勝てる戦いだったはずだ……!」と貴族が戦場を見渡す。

 しかし現実は残酷にも降伏する者が多い惨状だった。


「ネルさんの超級炎魔法を甘く見ましたね……」

「あんな魔法使いがいるなんて聞いていなかったが……それよりも君等だ。

 その御老体は何者だ? 特級暗殺者四人を相手に生き残るとは……。そして君はその大剣……セーヌというんだろう? 君は特級冒険者ではなかったのか?」


 貴族が得物の剣を手放して降伏しつつ、私とファルゲンさんを順々に見やる。


「こちら勇者ファルゲンさんです。私は特級冒険者ですよ……。皆さんこの方の拘束を!」

「ファルゲン? 聞いたことがないが……勇者か……」


 私の命令で使節団の兵士達が貴族を縄で縛り上げる。


 そうして残った貴族を降伏させるか打ち倒すかしつつ。全ての特級冒険者相当の貴族を排除した私達は、残った上級冒険者相当の貴族や雇われた冒険者達にも降伏を勧告する。

 そして未だにやり合っているカロルさんとラフバインさんとの戦いに加勢すべく、私達はラフバインさんの元へと行った。


「ラフバインさん……どのような状況ですか?」

「はい。本陣へと迫らんとするカロルさんを追いかけ回して、なんとか後ろへ行かせないようにしていましたが……どうやらカロルさんも私と本気でやり合う気はないようでした。多少の手傷は負わせましたが、まだやる気らしいですね」


 カロルさんの方を見ると、右腕を負傷しているらしくだらんと下げている。

 残りの左腕だけで苦無を構え、こちらへと向かい合っている。


「カロルさん降伏して下さい。特級冒険者相当の貴族は全員排除しました。お弟子さんらしき特級暗殺者もです。あとはカロルさんのみです」

「いやはや剣神殿のお相手が務まるとは思ってはいませんでしたが、よもや弟子達と特級相当の貴族の方々までこうも簡単に排除されるとは思いませんでしたな……。

 しかし主命は使節団の首級を取ること! 半ばにて降伏するなどあり得ません!!」


 そう言って左腕の苦無を私に投擲するカロルさん。

 私は苦無を大剣で弾くとカロルさんを見た。

 カロルさんは更に苦無をどこからか持ち直すと、神速で私達の横を抜けようとする。


「行かせません!」


 私が古式神速でカロルさんの前方を塞ぐように回り込み、カロルさんへ大剣を振る。

 左腕のみで私のミスリルの大剣を受けるカロルさんだったが膂力が足りない。

 苦無を弾き飛ばされて隙を晒した……と思いそこへ大剣で再度打ち込む私だったが、しかしまたもやどこからか苦無を持ち直すと今度は完全にパリィしてみせた。

 片腕でよくやるものだと感心する私。


「降伏して下さい!」


 再び降伏を迫るも、カロルさんは頑として首を縦には振らない。

 そうして斬りかかる私。それを見事に避けるかパリィするカロルさん。

 攻防は数分に渡って続いた。

 しかしそれでもカロルさんは諦めようとしない。


「カロルさんお覚悟は分かりました……本気で行かせて貰います!」


 私は周囲の闇元素を集め、それを刀身に這わせる。

 そしてクアンタを用いた身体強化も同時に行い、私は全力で空を斬った。

 凄まじい勢いの剣圧波がカロルさんを襲う。

 しかしこれだけでは防がれる可能性があるだろう。

 なので私はもう一撃、全力の二撃目を放った。


 カロルさん目がけて進んだ一の太刀がカロルさんの左腕の苦無を弾き飛ばす。

 そして二の太刀がカロルさんの無防備な胸に、完全に決まった。


「無念……! がはっ……」


 カロルさんの胸から上を切り飛ばした二の太刀がその勢いを減じ消えていく。


「カロルさん、リードリヒさんは何処ですか?」

「……」


 死に行くカロルさんに聞くが、主は売らないということだろう。

 何も答えずに口をきつく結んだままカロルさんは死に絶えた。


「立派な最期でしたな……」


 ラフバインさんがそう言ってカロルさんの死を悼む。

 私はそれに「はい……」とだけ答えた。


「ふん、そうまでして仕えるほどの貴族かねサトゥルヌスってのは。戦場にはいなかったんだろう? 始めから怖気づいてたってわけじゃないのかい?」


 ファルゲンさんがリードリヒさんを蔑む。


 それでも農村部の民のほとんどがサトゥルヌス家が言うならばと力を貸しているのだ。

 私達が休めなかったのも補給できなかったのもサトゥルヌス家の影響力が大きい。

 農民が戦いにこそ参加していなかったが、サトゥルヌス家は民草の心を得ていると言える。


 戦いを終えた私達はしばしの休息の後、再び王都アレリアを目指した。

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