132 開戦派との戦い
戦いは真夜中に始まった。
相手方の主力が暗殺者だからだろう。闇夜に乗じてこちらの数を減らすつもりに違いない。
しかしこちらとて鑑定A以上持ちが集っているのだから、そうやすやすとやらせはしない。
敵が動いたのを確認すると、まずネルさんによる先制魔法攻撃を私達は実行した。
「夜を占める暗黒よ、夜を流れる風よ……黒の炎風と転じて我が敵を撃て!
超級炎魔法! ダークフレイムストーム!!」
ネルさんによる長い詠唱の後、戦場を占める闇元素と風元素から変換された猛烈な勢いの黒色の炎の嵐が敵を襲う。
ネルさんが元素力を一度に消費しすぎたからかその場にへたり込み、私はネルさんを「お疲れ様ですネルさん」と労った。
「はい……これでも大分詠唱句を短縮できるようになったんですよ……ツバキさんのおかげです。そうでなかったら2、3分は超級炎魔法の詠唱に費やす羽目になっていましたよ!」
「2、3分ですか? それはずいぶんと短縮できたのですね……!」
「ですから超級炎魔法はまだ感覚的にしか出来ておらず、以前はあまりお教えしたくはなかったのです! その……あまりにも長い詠唱は私も恥ずかしいんです! まぁいまでもまだまだ感覚的なので教えることはできそうにありませんが……」
ネルさんがそう言って笑う。
きっとネルさんの超級炎魔法によって敵の大部分を減らせたはずだと私は考えていた。
「特級以上の使い手でない限り、大部分が超級炎魔法の餌食になったでしょう……ネルさんのおかげでこの戦いも勝てそうです!」
そして私は超級炎魔法の戦果を確認するため、戦場に鑑定索敵を放った。
多少の鑑定合戦もしたが、全て勝利し、敵陣の被害が明らかになった。
「カロルさんと特級暗殺者の皆さんは健在……さすがですね。
特級冒険者相当の貴族も3名が死亡あるいは行動不可、残る特級相当の貴族は7名です。
それから上級以下の腕前の者達は4割を損耗。
敵陣は特級以上残り11名に、上級以下が50名ほどです!!」
私の索敵による戦況を聞き、各自が自分の持ち場へと散っていく。
ラフバインさんはカロルさんのもとへ、そしてファルゲンさんは特級暗殺者4名のもとへ。
私とリエリーさんは兵の皆さんと一緒に特級相当の貴族を迎え撃つ。
同じ特級冒険者相当とはいえ、私は超級大剣術を会得している。ただの特級冒険者相当の貴族に早々やられるわけにはいかない。
私は鑑定索敵で一番近い特級相当の貴族を見つけると、古式神速で迫った。
戦場では手加減などしてはいられない。
やらなければやられるのだ。
私はそう思い、全力で古式神速からの闇元素武器強化攻撃を放つ。
相手は反応こそして武器の斧で受けたものの、私のミスリルの大剣に斧を真っ二つにされると、その体も斜めに裂かれた。
血飛沫が踊り、私の体を濡らす。
鑑定で確認する……今回は間違いなく殺してしまった……。
だが震えている場合ではない。戦場では油断が命取りになる。
私に怯えて腰を抜かす冒険者らしき男がいたが、こんなのに構っている場合ではない。
私は次の標的を鑑定索敵で探す。いた……!
古式神速で再びの加速。
そうして今度は大盾持ちの貴族へと古式神速からの一撃を放つ。
大盾持ちは私に反応し、全身にオーラを纏うと私の渾身の一撃を防御する。
しかしレェイオニードさんほどの使い手ではない。
私は剣戟を放ちながら更に加速していき、大盾持ちを押しまくった。
直に盾はひしゃげその意味を失っていき、私は大盾持ちの貴族の腹の辺りを袈裟斬りで裂いた。
これで二人目……! 私の担当は残る5名!
そう思い再び鑑定索敵で戦場を把握すると、遥か前方でファルゲンさんが相手取っていた4名の内2名がファルゲンさんの横を抜けてこちらへ迫るのが確認できた。
ファルゲンさんは古式神速で追い、その内の1名を仕留めたようだが、1名が抜けてこちらへと向かっていた。
「ライラさんかアルベールさんの首級を取られれば私達の負けなのですから、絶対に通しはしません!」
私はファルゲンさんを抜けてきた特級暗殺者を相手取る為、再び古式神速で加速した。
神速で迫る特級暗殺者。その姿は執事のような格好をしていて、カロルさんの弟子を思わせる若い男性だった。私は行く先を塞ぐと、「これ以上は行かせません!」と特級暗殺者に凄んだ。
「特級冒険者のセーヌさんとお見受けします」
「はい……」
「サトゥルヌス様の為、いざ尋常に!」
「……!」
突如として目の前にいたはずの男の姿が消えた。早いからではない。たぶんなんらかの潜伏スキルかリードリヒさんの時のように幻影魔法を使ったのだ。
私は目を瞑ると冷静に元素の流れを鑑定で見た。
「尋常にと言っておきながら、私はスルーですか……!」
男は私の横を抜けて、本陣へと迫らんとしていた。
しかし、逃さない。
私は古式神速で接近すると、男の気配のする場所を思い切り大剣で薙ぎ払った。
何もなかったその場所に男の姿が現れると、執事服の男は驚きの表情のまま、胴と足とを切断されて血反吐を吐く。
「馬鹿な……」
と一言だけ残して男は息絶えた。
「早く私の持ち場に戻らなければ……兵の皆さんとリエリーさんが心配です」
私は誰に言うでもなく戦場で一人呟くと、リエリーさん達が相手取っている特級冒険者相当の貴族の元へと急いだ。
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