129 勇者ファルゲン

 アルベールさん直々に事の顛末を纏めた報告書を書き、それを再び私が共和国の女性指揮官ライラさんに届ける。すると食料調達が済み次第、共和国使節団の一部が王都アレリアに同行してくれることになった。


「これでやっといつもの外交状態ですね」


 と共和国陣営の指揮官天幕でほっと胸を撫で下ろす私。


「セーヌさんおっつー! これで私等も開戦派の動向を探る依頼達成かにゃ?」


 イアさんが私にそう笑いかけ、私も「そうかもしれません」とだけ返した。

 しかし、サトゥルヌス家がお縄についたわけではない。

 油断はできないと私は考えていた。


「セーヌさん肝心の食糧だが……アルベール・オーベル殿は我らの食料調達に協力してくれるだろうか?」


 ライラさんが食糧調達の心配をする。


「はい。コムギー家の参謀は既に反逆罪として捕まっていますから、きっと帯同してきた商人達に言えば協力してくれるかと……これ以上の戦いが起きない限りは、在庫を持っていても仕方ないでしょうから」

「そうか……そう願おう」


 ライラさんがそう言った時、指揮官天幕に一人の老人が入ってきた。


「よう! 嬢ちゃんが向こうさんが停戦するよう仕向けたって冒険者かい?」

「はい。特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌと申します」


 私が恭しくいつものようにペコリと頭を下げた直後のことだった。

 老人に鑑定合戦を仕掛けられた。

 しかし負けるわけにはいかない! そう思い、合戦すること1分半。


「止めだ止めだ! 鑑定妨害S持ちだな? 俺の負けだよ」


 と言い、老人が負けを認めた。


「にゃはは、爺さん何やってんの? そうだセーヌさん。もう分かってるかもしれないけど、これが勇者のファルゲン爺さん。まだまだ現役なもんで私等もびっくりだよ~」

「おう、ファルゲンってもんだ。よろしくなセーヌの嬢ちゃん」


 ファルゲンさんが握手を求めてきたので、それに応じる私。


「神級冒険者の方にお会いしたのはこれで二人目です。よろしくお願いします」


 私がそう言うと、「するってーともう一人会ったことがあるわけかい。アレーリア王国で神級っていや、剣神ラフバインか風神のシニトレートかどっちかかい?」とファルゲンさんが聞いてきた。


「はい。剣神ラフバインさんです。いま王都アレリアの陣営にいらっしゃいます」

「ほほう……俺の神槍と奴の剣、あと10年若けりゃどっちが上か試したかったんだがな! カッカッカッ!」


 そう笑うファルゲンさん。

 私も槍使いの神級冒険者と剣使いの神級冒険者どちらが上なのかはとても興味があった。

 なので鑑定してみることにした。


「なんだこの強さは……もしかして鑑定までSとか言わないだろうな!?」


 そう言うファルゲンさんを2分ほど相手取り。

 鑑定結果が出た。


【ファルゲン】

【人族。男性】

【救国の勇者S】、【神級槍術S】、【神級冒険者S】、【古式神速B】、【古式元素感知B】、【古式元素操作B】、【鑑定A】、【鑑定妨害A】、【英雄S】、etc……。


「なんと……救国の勇者Sスキルをお持ちの他に古式神速をお持ちなのですね。私以外に初めて見ました。それに神級冒険者としてSランクを獲得していらっしゃるのは素晴らしいですね」


 他にも有用そうなスキル郡がこれでもかとあった。

 さすがは年の功というべきなのか、これほどまでのスキルを持った人は今まで見たことがない。


「ちぃ負けるとは思ってなかったぜ。嬢ちゃん鑑定もS持ちだな?

 俺も長いこと生きちゃいるが、鑑定S持ちは初めて会ったぜ。

 それとその若さで古式神速を扱えるのかい……? ランクはいくつだ?」

「はい……Sランクを」

「なに!? 古式神速Sだと!?」


 ファルゲンさんが驚く表情を私に向けてくる。

 そんなに凄いことなのだろうか?

 鑑定Sを驚かれることは多く慣れっこだったが、古式神速はそもそも私以外に持っている人に出会ったことがなかったのでよく分からない。


「はい。その他に古式神速の派生スキル古式神速・氷舞もSランクで所持しています」

「古式神速に派生だって……!? 聞いたことがないぞ。

 いや、勇者の俺が古式神速Bを持ってるんだ。風神のシニトレート辺りは使えるのかもしれんが……」


 考え込むファルゲンさんに、イアさんが「古式神速ってやつ、私にも教えてよ~!」と絡む。


「面倒だ! ほかを当たれぃ!」

「良いじゃん! 勇者仲間なんだしさー」

「あー分かった分かった! それじゃまずダークとライトを同時に出してみろ」


 イアさんに押されたファルゲンさんが古式魔法の扱い方を教えているのを横目に、私はサトゥルヌス家が今後どう動くかについて考えていた。

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