127 王都アレリアの使節団陣営にて
王都アレリアの武装使節団は私達の東の空からの接近に気付いていた。
なので後衛の魔法使い達の集中砲火を食らう可能性もあったのだが、降り立った直後、私が大声で「王都議会からの命令書をお持ちしました!」と叫ぶとなんとか杖を収めてくれた。
「アルベールさんに会わせて下さい! いますぐにこの下らない戦いを終わらせるためにも!」
とすぐに指揮官であるオーベル家の次男、アルベール・オーベルさんへの面会を希望した。
しかし――、
「――何者だ! 戦場でそうやすやすと指揮官にお目通りが叶うと思うな!
まずは私が確認しよう!」
と、ある貴族が私達の前に立ち塞がった。
「セーヌさん……もしかしたら……」
私の横からリエリーさんが警戒を促す。
そう、この貴族は恐らくはサトゥルヌス家の息がかかった参謀だろう。
いまこの人に命令書を渡しては、封殺されてしまうかもしれない。
そんなわけにはいかない!
「申し訳ありませんが、アルベール・オーベルさんに直々にお渡ししたいのです」
「なにぃ!? 何度も言わせるな。戦場で指揮官へそうそう……」
貴族参謀が言い終わる前に、私は鑑定索敵を放った。
陣営全体を覆うように索敵が広がっていく。
……見つけた!
「失礼ですが、アルベール・オーベルさんへ議会直々の早馬です。どいてください。さもなくば力付くで通らせて頂きます!」
私は背負っていた大剣に手を当てた。
「なんだと!? おい! この者達を陣から排除せよ!!」
貴族参謀が兵を集める。
倒さねば先に進めないか……。
「セーヌさん、ここは私にお任せ頂こう。先に行って下さい!」
「良いのですか? ラフバインさん。それでは……お任せします!」
私達は貴族参謀の横を抜けて、アルベールさんの元へと向かわんとする。
「待て! 曲者だ! その物たちを捕まえよ!!」
貴族参謀が声を上げるがお構いなしだ。
そうして鑑定索敵を頼りに進むと一つの天幕があった。
天幕の入口の左右には重武装した兵士が立っていた。
「王都議会からの伝令です! 通して下さい!」
私が伝令書を手にしながらそう言うと、兵士は「お疲れ様です!」と通してくれそうだった。
しかし――、
「――待て! その者達は曲者だ! 通してはならぬ!!」
と叫びながら貴族参謀が追いかけてきた。
「なんだと!?」
私達を通すまいと武器を構える重武装の兵士。
「本当に伝令なのは事実なのですが……仕方ありません……! 少々眠ってもらいます!!」
私は大剣を手に兵士二人と向かい合う。
先に仕掛けてきたのは剣を装備した方の兵士だった。
恐らくは上級冒険者相当の実力者だろう。剣筋で分かる。
私は一撃二撃と攻撃を躱すと、三撃目で剣を大きく大剣で払い上げた。
中空へと舞う兵士の剣。
「加減はします……!」
とだけ言うと、兵士の鎧に思い切りみね打ちをかましてやった。
天幕の中へと吹っ飛んでいく兵士。しばらくは動けまい。
もう一人のリエリーさんを相手どらんとしていた槍使いの兵士へも、同様にみね打ちを放つ。
槍で一応防御はしたようだったが、先程の兵士同様に天幕の中へ吹っ飛んでいく。
槍は折れ、重鎧は大きく凹んでいる。
二人の兵士を無力化した私達は、堂々と天幕の中へと入っていく。
後ろで貴族参謀がなにやらキーキー文句を言っているが構うものか。
天幕へ入ると、怯えたように縮こまる男性が居た。
鑑定するが間違いはない。
「指揮官のアルベール・オーベルさんとお見受けします。王都議会からの伝令を持参致しました。ご確認をよろしくお願いします!」
「お、王都からの伝令……?」
「はい」
私から伝令書を受取り開くアルベールさん。
「こ……これは!? これはまことですか!?」
「はい。本物の議会からの伝令書です。サトゥルヌス家の息がかかった参謀が居るかとは思いますが、彼らの意見は無視して下さい。開戦派はニール王によって抑え込まれています」
「な、なんと……!?」
私が説明を終えると、天幕の中に貴族参謀が入ってきた。
「アルベール殿! どんな伝令の内容かは存じ上げませんが、そのような賊の持ってきた伝令など本物のわけがありませんぞ!!」
「し、しかし、確かに議会の印章が押されている! これは間違いなく本物だぞ。
それよりも何故伝令を阻むようなことをしている? どういうことだ!? ソルレーク・コムギー!」
「そ、それは……この者達の伝令を私が確認しようとしたところ抵抗したもので……」
「なに? それは本当か?」
「はい。本当です。サトゥルヌス家の息がかかっているコムギー家の参謀が伝令書に何をするか分からなかったので……」
私が答えるとアルベールさんは考え込む。
「アルベールさん。ダンビエールさんも私達の味方です。この議会からの伝令を信じて下さい!!」
「ふむ……形式はちゃんとしている。この命令を拒む理由はあるまい」
「アルベール殿!?」
ソルレーク・コムギーと呼ばれた貴族参謀は声を荒げる。
「急ぎ、共和国の陣に伝令を送れ! 停戦だ!!」
「くぅ……こうなっては仕方がありませんな……!」
アルベールさんに剣を向けるコムギー家の貴族参謀。
「馬鹿な! 血迷ったかソルレーク・コムギー!!」
「うるさい! たったいまからこの陣の指揮官は私だ! アルベール殿は乱入した賊によって名誉の戦死をなされた!! そういうことです。恨まないでくださいよ……!」
剣を振り下ろす貴族参謀。
しかし、私の大剣の剣圧波の方が早かった。
アルベールさんに振り下ろされた剣はすんでのところで止まる。
私の剣圧波がソルレーク・コムギーさんの両腕を落としたのだ。
「ぐわああああああああああ」
と血を撒き散らしながら泣き喚く貴族参謀。
アルベールさんを無事助け出すと、私達は天幕の外へと出た。
「アルベールさん……急ぎ停戦の伝令を!」
「分かっている……! おい! 手の空いている者はいるか!?」
しかし返事がない。
そこへ、ラフバインさんがやってきた。
「申し訳ない。前線へ出ている者以外は私が無力化してしまいました……」
「な……なんだと!? 貴方は一体……!?」
「お初にお目にかかります。ラフバインと申します。剣神と言ったほうが通りはいいですかな?」
「なんと! 伝説の剣神殿!? 貴方方は一体……?」
「お騒がせしました。特級冒険者で上級冒険者ギルド受付のセーヌと申します」
「特級冒険者で冒険者ギルド受付ですか……?」
アルベールさんは困惑しているようだ。
「もしよろしければ、馬だけ貸していただければ私が伝令に向かいますが?」
私がそう進言するとアルベールさんが「分かりました、よろしくお願いします」と頭を下げた。
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