125 早馬を追って

「馬鹿な……! 私はアルベールに開戦の指示など出していない! サトゥルヌス家ら開戦派がつけた参謀達が独断で開戦したとしか思えん。現場の判断での開戦など越権行為だ! 議会で問題になるぞ! 皆さん、食事の話はなしだ! 私は急ぎ自宅へ戻り、アルベールからの報せを待ちます!」


 ダンビエールさんが大慌てで冒険者ギルドを去って行き、ツバキさんが「待つのじゃ! まだサトゥルヌス家の手先がお主らを襲わんとは限らぬ!」とダンビエールさんの後を追う。


 私は何をして良いのか皆目検討もつかず、ただホウコさんからの報せを握りしめていた。

 しかしリエリーさんはそうではない。


「アルベールさんがサトゥルヌス家の息がかかった開戦派に籠絡されていなかったとして、戦争を止めることを第一に考えましょう! まずは一刻も早く王都議会の非開戦の意志を伝えるべきですが……」


 リエリーさんは必死で指回しをしながら考え込む。

 そして三十秒ほどで答えを出した。


「セーヌさん、あちらからの早馬がこちらに届いたことは確認できましたが、こちらからの早馬が妨害されている可能性があります! あちらからの早馬が届いていることから、よもや交通の要所たる橋などを狙ったとは思えませんが……」

「であれば、直接早馬を狙ったと?」

「はい。明確な議会への敵対行為ですが、バレなければいいとサトゥルヌスさんはお考えなのかもしれません」

「ではどうすれば……」

「今すぐに早馬を追いましょう! 追って何もなければ良し、議会の意志をとにかく伝えることが肝心です!」

「そうですね……! 分かりました早馬を追いましょう」


 私達はラフバインさんと共に冒険者ギルドを出ると、平民街の片隅にある厩舎で馬を購入し、早馬の後を追った。




   ∬




 王都アレリアを出て1時間。

 本来、早馬業者であれば馬を交換する農村へとやってきた。

 村の厩舎へと駆け込み事情を聞く。


「もし、早馬が来ませんでしたか? 本日午後の議会での決定を携えた早馬です」

「あぁ……来たよ。でも馬を交換したいって言われたけど断ったんだ」

「はい? どういうことでしょうか?」

「それが……先日青色の髪のお貴族様が来て、『王都側からの早馬と馬を交換しないでくれ』って頼まれてさ、それで大金貨を10枚ほど置いていったんだよ。だからお貴族様に逆らったらどうなるか分かったもんじゃないだろう? それで泣く泣く断ったってわけさ」

「やはり……! こちらからの早馬が妨害されているようですね……!」


 リエリーさんが魔女帽子を深く被りながら言う。


「それで? その貴族はこのあとどこへ行くと言っていましたか!?」

「北部一帯を回ってるって言ってたけど……次にどこへ行くかまでは……」

「そうですか……ありがとうございました。馬の交換はできないとのことですが餌は買わせて頂いても……?」

「あぁ……構わないよ」


 私達は馬の餌を買い、餌を与えて馬を休ませる。


「リードリヒさんでしょうか?」


 ネルさんが私達に聞く。


「青色の髪の貴族と言っていましたな。恐らくは間違いないでしょう。

 しかし……馬の交換ができないとなると、馬車のような速度になってしまいますな」


 ラフバインさんがそう言って頭を掻いた。


「取り敢えず直接的妨害を受けているわけではなさそうなのは良かったですね……。どうしますか? リエリーさん。早馬を追いますか?」

「いえ……直接妨害を受けているわけではないならば、いずれリオネスベルクへ到着するでしょう。私達がこれ以上の速度で追うことも出来ませんし、残念ですが早馬を追うのは諦めましょう……」

「では……私達はどうしましょう?」

「そうですね。うーん……」


 さすがに考えあぐねるリエリーさん。いつもの指回しも止まってしまっている。

 そんな時だった。急に上空から嫌な感じがして鑑定合戦が始まった。

 だが敵はさほど鑑定合戦に強いわけではないのか、あるいはやる気がないのかすぐに妨害に成功する。


「一体何者が……?」


 私は上空へ向けて鑑定索敵を展開。結果はすぐに出た。


「これは……フレちゃんさん!?」


 その鑑定結果を知った私はすぐに厩舎の屋根の影から出た。

 低空飛行しているフレちゃんさんを発見すると、空へ向かって大きく手を振りながら叫んだ。


「フレちゃんさーん! 私でーす! セーヌでーす!!」


 再びフレちゃんさんから鑑定が放たれ、私は今度はそれを妨害せずに受ける。

 そして私が居ることを知ったフレちゃんさんが、村の入口付近にゆっくりと降下した。

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